176話 ☆3『魔王軍の拠点調査』③(イカ)
ザーっと水の流れる音が聞こえてくる。ここに入ってからまだ魔物に出会っていないので、前だけじゃなく、横も天井も後ろも警戒しながら進んで行く。
そして、道中で魔物と出会うことなく、湖のように水が満たされている場所がある広い空間に着いた。壁には鉱石がたくさんあり、キラキラと輝いている。
「俺たちが来た時にほとんどの鉱石を取って行ったのに、もう新たな鉱石ができているのか」
「これだけ鉱石があるということは、魔素も多いはずです。この近くに魔王軍の拠点があるかも知れないですね。探してみましょう」
「待ってください!」
ギルド職員が調査を始めようと奥に進もうとしたので止める。
「以前ここに来た時に水の近くで魔物が現れたので、もしかしたら今回も出るかもしれません。俺たちが戻ってくるまではここで待っていてください。行くよアオ」
「う、うん!」
俺とアオは二手に分かれて壁側から歩く。そして水が満たされている場所に着くと、水の中を覗きながら地面を歩いて行った。
「魔物がいてもおかしくないのに、それらしい影すら見つからない。どういうことだ?」
「シンくん、そっちは何かあった?」
水を見ていて歩いていたら、二手に分かれていたアオと合流してしまった。
「何にもなかったよ」
「じゃあここには魔物がいないってことだよね! 良かった、僕とシンくんだけじゃ苦戦していたもんね。じゃあ僕はギルド職員さんを呼んでくるね」
アオは走ってギルド職員の所に向かった。そんなアオの後姿を見た後にもう一度水の中を見る。やはり見渡してもどこにも魔物らしき影はない。
「あれ? そういえばあの魔物はどこに行ったんだ?」
俺は鉱石調達でみんなとここに来た時を思い出す、カイトがキクラゲを倒した後の事だ。
「確かリクが水の中の鉱石を取るために水に入ろうとしたらカイトに止められて、その時は水の奥の方に魔物がいたから入るのをやめたはず……俺たちはあの魔物と戦わずにこの洞窟を去った、つまりあの魔物は他の冒険者に倒されていなければまだいるはずなんだ」
俺は水に顔を突っ込み、水中から奥の方を探してみるが、やはり魔物はいない。
(あの時の魔物はもっと奥に潜って見えなくなったんだ、だからどこかに隠れられる場所があるか、陸からじゃ見えないくらいこの水が深いはず)
しかし、いくら探しても顔を突っ込んでいる程度しか水に入っていないので、何も見つけることができずに、水から顔を出すのであった。
そして、アオがギルド職員を連れて戻ってくる。
「魔物はいないみたいなので、ここは私たちが調査します。冒険者さんは他の場所の調査をよろしくお願いします」
ギルド職員は俺たちにそう言うと、調査に使う道具を出した。そして水を調べると、やはり通常よりも多くの魔素が検出されたようだ。
「うーん、これはミーナミ村の池の水と成分が似ているな、むしろこっちの方が魔素が濃いみたいだ」
「おそらく魔素の核もあるのだろう」
ギルド職員たちはそのように話しながら、場所を変えて調査を続けていく。俺たちは一旦この場所から離れて、他に怪しい所がないか探す。
壁や床を叩いてみたりするが、特に変わったところはなく、やはり怪しいのはあの水の所だけのようだった。
「シンくん、橋まで戻って来ちゃったね」
「そうみたいだね、それじゃあハクやユカリと合流してから、もう一度調査しようか」
「うん」
こうして俺とアオは、ハクとユカリと合流するために、分かれ道のある所まで引き返す。その途中でハクとユカリ、そしてハクと一緒に行動していたギルド職員と合流できた。
みんなには、俺たちが洞窟の奥で何があったかを伝えると、ギルド職員が「そこに私も連れて行って欲しい」というので、再び水が満たされている場所がある広い空間がある場所まで行くことになった。
「この奥でギルド職員さんたちが調査をしています」
「「ぅぁぁぁぁ!!!」」
「なんだ!?」
俺とアオが先導して案内をしていると、洞窟の奥から悲鳴が聞こえてきた。ここより奥で人がいるのは、あの水がある場所だけだ。
俺たちは急いでその場所まで向かう。
広い空間に着くと、青ざめた顔のギルド職員たちが俺たちの方まで逃げてきていた。
「いったい何があったんですか!」
「ま……魔物がっ!」
逃げるギルド職員が、後ろを指差している。だが、魔物の姿はどこにもない。だが、ギルド職員たちがあんなに動揺していることから、本当に魔物が現れたのだろう。おそらくそれは水の中から。
そして、その魔物が俺たちにも見えるように、1本触手を水から出してきた。
「かなり大きい触手? ミズクラゲやキクラゲにしては、しっかりとしているように見える、っ! 吸盤が付いている。別の種類の魔物だ!」
水から出る触手の数は増え、どんどん陸に張り付いていく。そして、水面から顔を出したのはイカのような見た目の魔物が現れる。
「かなり大きい! あの魔物はいったい何なんだ!」
「あれはスクイーカ、なぜ出現地域が海の魔物がなぜこんな所に!」
ギルド職員が慌てたように叫ぶ。
「『ボイズスモーク』」
ハクが俺たちとスクイーカの間に『ボイズスモーク』を放って目暗ましをする。
「……これで少しは時間稼ぎができそうだ、今のうちに逃げるぞ!」
ハクの言葉を聞き、急いでもと来た道を引き返す。
後ろからは、何かを叩くような衝撃音が聞こえてくる。その後に、ハクの放った『ボイズスモーク』が俺たちの方に向かってきた。
「ごほっごほっ! 何でハクのスキルが俺たちの所に……」
後ろを振り向くと、さっきまで俺たちがいた場所にスクイーカの触手がいた。その触手がズルズルと引き返すと、地面には大きく凹み、周りにはヒビが入っていた。
それを見た俺たちは必死で逃げていく。
スクイーカは触手を使って追いかけてくるが、ここは広い空間と違い、そこまで広くなく、スクイーカの視界から外れているので、壁に触手をぶつけながらしか進めていないようだった。
だからと言って、追いかけてくる触手が誰にも当たらないということはなかった。運悪く触手に俺は叩かれて、その勢いのまま壁に叩きつけられる。
「ぅぁ……っ!」
そこまで広い空間じゃなかったこともあって威力は落ちているが、それでも俺の肺から空気が全て吐き出させられるほどの威力があった。
痛みは加護ですぐに消えたが、不意に来た強烈なダメージにより、俺はその場で身動きが取れなくなってしまった。
スクイーカは同じ場所を叩こうと、今度は反対側の壁まで触手を引き、叩く威力を高めている。あの攻撃を受けたら今以上に大変なことになるだろう。
「シンくん!」
ユカリがそう叫んで俺の方に走る。スクイーカの触手は俺を攻撃しようと迫って来るが、その直前にユカリが俺の身体を抱く。
「『フライ』!」
ユカリは洞窟内で魔法を唱えて、俺を抱きながら空を飛んだ。
間一髪で俺とユカリはスクイーカの触手を避けることができた。
スクイーカは、叩いた部分を擦り、獲物が潰れているかを確認しているようだった。だが、そこには俺はいないので、逃げるのに十分な時間を手に入れることができた。
「ぅ……ありがとうユカリ……助かった」
「良いんですわよ、しばらくは私が運んであげますわ!」
ユカリはそう言うと『フライ』で空中を移動しながら、俺を運んで橋の所まで逃げることができた。みんなも無事に橋まで辿り着けたようで、洞窟からはスクイーカの触手が追いかけてくることはなかった。
湖のように水が満たされている場所がある広い空間に着くと、以前鉱石調達で鉱石を取ったはずなのに、
もう鉱石ができていた。
近くに魔物がいないか調べたが、魔物は水の中にもいなかった。
ギルド職員が水を調査し始めたので、俺とアオは、ハクとユカリと合流する。そこでハクと一緒に行動していたギルド職員が洞窟の奥の調査をするために、広い空間がある場所まで連れていく。
そこに向かっている最中に悲鳴が聞こえてきたので、急いで向かうと、スクイーカというイカの魔物が水から現れた。
俺たちはスクイーカから逃げるために来た道を急いで戻り、俺が触手で叩かれてダメージを負っただけで、他のみんなはスクイーカの触手に触れることなく、橋まで逃げることができた。
魔物の紹介
・スクイーカ
イカのような見た目をしている大きな魔物、触手には吸盤が付いていて、その触手を伸ばして叩いてきたり、墨を使った目暗まし攻撃も使用してくる。
出現地域は海のようだが、なぜか海ではない洞窟の水にいた。




