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173話 無言詠唱鍛錬!③(誤算)

 飲んだマジックポーションは何本目だろうか。飲み終わったビンを箱に戻すときに、空になったビンを数える。どうやら今飲んだビンで8本目のようだ。


 俺は9本目のマジックポーションを飲もうと、蓋を開け口元にビンを向かわせるが、その向かう手が止まった。


 マジックポーションを飲もうとしたら気持ち悪くなって、これ以上身体が受け付けようとしなかった。それでも無理やり一口飲み込むと、口から胃へ液体が進んでいるのに、俺の身体はその液体を胃から口へ移動させるような動き方をする。


 俺は咄嗟に口を押えて吐き出さないようにする。マジックポーションはテーブルの上に蓋をして置き、体調が回復するまで壁に寄りかかり様子を見る。



「ダメだ、もう無理。飲みすぎて気持ち悪い……」



 お腹を揺らすと、液体が揺れていることが分かるほど、俺の胃にはマジックポーションが入っていた。



「こんな状態じゃ、頭の中で完全詠唱している余裕はない。しばらくは魔法石の魔力を減らすことだけ考えよう」



 俺は壁に寄りかかりながら、釜の様子を見るのであった。


 しばらくすると、釜の水が沸騰し始めて、魔法石を入れる準備が整う。俺の体調も回復してまともに動けるようになったので、釜の前に立つ。


 釜に魔法石を入れて沸騰したお湯と混ぜ魔水を作り、魔法石から魔力が完全になくなると釜から取り出し布の上に置いて、魔力が残った魔法石を入れていく。その魔法石が魔力を出している間に、釜から出した魔法石の水気を布で拭き取っていった。


 沸騰してからは早く魔力を取り出しているようで、みるみるうちに、箱に詰まっていた魔法石がなくなって、全ての魔法石の魔力を取り出し終わった。


 もったいない気もするが、魔水ごと釜の水を捨てて釜の水気も拭き取る。



「ふぅ、これで俺の役目は終わりだね」



 額にある汗なのか水蒸気なのか分からない液体を手の甲で拭い取ると、この部屋の扉が開きギルド職員が入って来る。



「どうだ、サボらずにやっているか……って、もう全部やったのか! できても半分くらいだと思っていたぞ」


「お湯を作るのに時間かかっちゃったくらいで、お湯さえできれば魔力を簡単に取り出すことができました」


「そうか、アンタが手伝ってくれて楽ができた。こうして魔力が無くなった魔法石を俺は運んでくるから、アンタは訓練所で鍛錬を再開するんだな」



 ギルド職員は台車に魔力が空になった魔法石の入った箱を台車に乗せると、どこかへ運んで行ってしまった。


 俺はマジックポーションの入った箱を抱えて、部屋から出て、訓練所の的の正面まで来る。持っていた箱を邪魔にならない位置に置き、無言詠唱に集中するのであった。






(『スマッシュ』!)



 俺の手から放たれる魔力の塊は、的に当たりはするが傷一つ付かない。


 マジックポーションを飲んで魔力を回復させながら『スマッシュ』を放っていたことで、今日だけで20回くらい的に『スマッシュ』を当てているのに、これだけ使っても、頭の中で唱える完全詠唱がスラスラと言えるくらいで、無言詠唱で放たれる『スマッシュ』の大きさや威力や速度は上がらないようだ。



「鍛錬が足りないのはもちろんだけど、魔物を倒して得られる経験値も足りなさそうだな。俺には無言詠唱を習得するのはまだ先の話になりそうだ」



 俺はここで無言詠唱の鍛錬を一旦やめて、省略詠唱の鍛錬を始める。



「『スマッシュ』! おぉ!?」



 省略詠唱で放たれた『スマッシュ』が的に当たる。驚いたのは『スマッシュ』の大きさ、威力、速度が無言詠唱の鍛錬をする前とした後で違うことだ。


 この結果は俺が強くなったからなのか、それともたまたまなのか確かめるために省略詠唱を試してみる。



「『スマッシュ』!」



 やはり先ほど放った大きさと威力と速度と同じになった。続いて他の魔法で試してみる。



『ファイア』『ウォーター』『サンダー』『アース』『ウィンド』



 属性魔法を使ってみたが、こちらは『スマッシュ』のような変化は現れていなかった。どうやら無言詠唱で『スマッシュ』を鍛えていたことで、『スマッシュ』全体の強さが上がったようだった。


 無言詠唱での成果は出なかったが、こんなところで役に立つとは思わなかったので嬉しい誤算だ。


 バフ系の魔法である『パンプア』を使って力を上げた後は、剣での鍛錬を始める。これで動いて汗をかき、マジックポーションを水の代わりとして飲んでいく。


 こうすることで剣の鍛錬中に魔力が回復して魔法の鍛錬へ、魔法の鍛錬中にスタミナが回復して剣の鍛錬へと繋がっていった。






 それからしばらくして、俺はイスに座り肩で息をしながら天井を虚ろな目で見つめる。



「はぁ……はぁ……もう疲れたし、飲むのも厳しい」



 マジックポーションをかなり飲んだが、箱に残っているマジックポーションはまだ半分以上もあった。だがこれ以上飲むことは出来ないだろう。


 ちょうどギルド職員が帰って来たようなので、今日の鍛錬はここまでにすると決めた。



「どうだ、マジックポーション良い感じに使えたか?」


「ええ、たくさん飲みました」


「そいつは良かった。それじゃあ俺はこれを捨ててくる」



 ギルド職員はマジックポーションの入った箱を持ち上げると、関係者用の部屋に入って行った。


 それを見た俺は少し休憩した後に立ち上がり、訓練所やギルドを出て、自分の部屋に帰って眠るのであった。

8本目までマジックポーションを飲んでも大丈夫だったが、9本目を飲もうとしたら手が止まって、無理やり一口飲んだら体調が一気に悪くなった。


全部の魔法石から魔力を取り出し、ギルド職員のお手伝いが終わり鍛錬に戻る。


今日だけで20回くらい『スマッシュ』を無言詠唱で放っていたが、頭の中で唱える完全詠唱がスラスラと言えるくらいで、大きさや威力や速度は上がらなかった。


しかし省略詠唱をすると、大きさや威力や速度は上がっていた。ただこれは無言詠唱の鍛錬を行っていた『スマッシュ』だけに起きていた強化のようだ。だが、強化されたことには変わりないので嬉しい誤算だった。


その後は剣の鍛錬と魔法の鍛錬を交互に行い、マジックポーションを限界まで飲むまで鍛錬を続けた。


ギルド職員は残ったマジックポーションを捨てに部屋に入り、それを見た俺は、自分の部屋に帰って眠るのであった。

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