17話 病気?(休み)
「…………に…………のか?」
誰かが俺に話しかけている。
「……た…に…かな…のか?」
どんどん声がはっきりしてくる、聞き覚えにある声だ。
「……食べに行かないのか?」
「あれハク、どうしたの?」
「……俺が食べ終わってもシンが食堂に来ないからどうしたのかと思ってな」
外は暗いままだ、どうやらお昼の授業が終わってから寝てしまったようだ。俺が夕食を取ってないから心配して起こしたのだろう。
「ありがとう、今日は食欲が無いからこのまま寝ることにするよ」
「……そうか、起こしてすまなかったな」
ハクが俺から離れ、自分のベッドに行った辺りで、俺は再び眠りについた。
――
「シンくんご飯食べに行くよー」
俺はアオに起こされる、外は昨日の土砂降りが嘘のように快晴であった。ベッドから起き上がると身体がとても重い。服は汗で濡れ、熱いのに寒気を感じていた。
「シンくん顔赤いけど大丈夫?……熱い!」
アオは俺の頬に両手をくっつけると熱さに驚いた。アオの手は冷たくて、俺の火照った顔を冷やしてくれて気持ちがいい。
「シンくん熱があるみたい!どうしよう」
「……今日は休ませるしかないんじゃないか?」
「……そうだね……シンくん、ランド先生には僕たちで伝えておくから、今日は部屋でゆっくり休んでね」
そう言うとアオとハクは早々に部屋を出ていった。急な出来事に俺は対応できず、横になって安静にするしかなかった。しばらくするとアオが戻ってきた。どうやら食堂でスープとミルクをもらってきたみたいだ。
「事情を伝えたら、食器はお昼に持ってくれば良いって言ってくれてたよ。じゃあ僕は朝の鍛錬があるから行くね」
「アオありがとう」
「どういたしまして」
俺に向けて笑顔で答え部屋を出ていった。俺は持ってきてもらったスープを飲む。熱があるせいなのか味が分からなくなっているが、それでもいつもと同じく美味しいスープだった。
(魔法で治すこととかできないのか?)
食事をしたことで少し体力が戻った俺は、調べるために魔法書を開く。
「たしか星属性魔法は状態異常を治す魔法があったはず……あったけど、これって今の俺に使えば治るものでもないよな?」
確かに状態異常を治す魔法はあった、しかしそれは毒や痺れなどを治すもので、シンの症状を治す目的で作られていないことはなんとなく分かった。
(病気に効く魔法は無いのか?)
パラパラとめくると1つのページに目がとまる。すべての状態異常を解除する魔法を見つけた。
『オリセットール』すべてのバフ系デバフ系状態異常を解除する上級魔法。
すべてに効果があるが、使い手の技術によって解除されるものも異なり精度も専門には衰える。対象者に直接触れることによって最大限の威力を発揮する。
何にかかっているか分からないときに使うことがオススメの使い方である。ただ、バフ系がかかっている場合はそれも解除されてしまい、複数のバフ系デバフ系状態異常がかかっている場合は大量の魔力と技術が要求されるのでオススメしない。
「病気に効くか分からないけど、これなら治せそうだね。回復魔法も見てみるか」
『ヒール』肉体や加護を回復させる初級魔法。
回復魔法では1番簡単に習得が可能な魔法である。対象者に直接触れることによって最大限の威力を発揮する。
生者には回復効果になるが、死者にはダメージ効果になる。アンデッド系の魔物には有効な攻撃手段になる。
「回復魔法でダメージか……うっ……頭を使い過ぎたのか痛くなってきた」
痛みが増してきたので魔法書を閉じ休むことにした。痛みが引いてきたが本を読むとまた痛みがぶり返しそうなので瞑想をやることにする。瞑想中に痛みが引いてきているので、瞑想を続けても大丈夫そうだ。俺はゆっくり集中していく……
――
「シンくん、食事を持って来たわよ。食べられる?」
「……ん?……あぁユカリありがとう」
ユカリが昼食を運んできてくれた。どうやら俺は瞑想している間に眠ってしまったようだ。
「熱が出たんですって?シンくん大丈夫なの?」
「今はかなり楽になったかな」
「そう!それなら良かったわ」
俺の状態を聞いてユカリはにこにこしていた。朝のだるい感じも薄れてきているから、明日には外に出て鍛錬ができそうだ。
「じゃあ私はこれで、後でランド先生が様子を見に来るそうよ。シンくんまた明日ね」
「うん、また明日」
湯気の立っているスープを手に取り飲む。味が分かるようになってきたので順調に治り始めているようだ。
「ごちそうさまでした」
スープもミルクも飲み干し終わったころ扉がノックされた。
「どうぞ」
「失礼します、シンくん具合はどうですか?」
「朝よりかなりマシになりました」
「そうですか、それはなによりです」
来た人はランド先生だった。
「シンくんには申し訳ないことをしました。雨の中で授業をやったことでこうなってしまった。本当にすみません」
ランド先生が俺に頭を下げる。
「謝ることはないですよ、ランド先生が俺たちのために環境の悪い日をえらんで授業してくれたのですよね?冒険者にとって都合の良い状態や場所にいるわけじゃないと教えてくれたじゃないですか」
「そう言っていただけると私も気が楽になります」
そう、ランド先生は俺たちが冒険者になっても困らないようにするために教えてくれている、俺がこんな状態になったことが悪いのだ、冒険者になったら昨日の土砂降りのような日にも魔物と戦わないといけないときがくる。でも俺はまだ冒険者じゃないから甘えることにした。
「もし良ければ、ランド先生が俺の症状を魔法で治してくれると助かります」
「……申し訳ありません、私ではシンくんを治すことができないのです」
「ランド先生でも俺の症状を治す魔法は習得していないということですか……」
「シンくんが言うように私は星属性魔法を習得できていないです、そもそも星属性魔法は使い手が少ないですね、他のスキルを鍛えることに忙しいですから」
星属性魔法の使い手は多くないということを聞かされた。確かに魔物を倒すことに向いているかと言われれば向いていない魔法と分かる。よほど力に自信が無いか、適性が高くないと選ばない魔法なのだろう。
「そこでシンくんに提案なのですが、今の状況を利用してみませんか」
「?……どういうことですか?」
「今みなさんはシンくんが体調を崩していることで、鍛錬に参加できないことを不思議に思っていません。今のシンくんに必要なのは身体の強さではなく魔力の強さなので、鍛錬は休んで瞑想に絞り込みませんか?」
驚く内容であった、ランド先生自らサボって他のことをするように提案されると思っていなかったからだ。確かに今の俺に必要なのは魔力を高めること、みんなには騙すような形になるけど強くなるには……
「それにすぐに身体を動かしてはまた熱が出るかもしれません、数日はこの解毒薬と蜂蜜を混ぜたものを飲んで魔力を鍛えましょう」
「あはは……分かりました……」
俺は顔を引きつらせながら数日間の予定をランド先生と一緒に決めた。