167話 2回目の☆2『薬草調達』⑤(不発)
ドン・ゴブリンは子分のゴブリンと一緒に俺を追いかけてくる。
走る速度は同じくらいなので、このまま森に入れば逃げ切れると思っていた。
「ゴガァァァッ!」
ドン・ゴブリンは立ち止まって空に叫ぶと、俺の逃げようとしていた場所からゴブリンが現れる。
「ゴブ!」
俺は仕方なく別の場所から逃げようとするが、そこにもゴブリンが現れ、徐々に逃げ道が無くなっていった。
「ゴブ!」「ゴブ!」「ゴブ!」
「っ! 囲まれた!」
俺が逃げられないようにゴブリンが壁となり、少しずつ俺を小さい池まで追い詰めていく。まだ池の向こう側にはゴブリンが少ないので、多少のダメージを受けてもいいという覚悟で、池を飛び越えようとした。
「うわぁ!」
しかし、雨で濡れていたせいもあってか、飛び越えようした時に足を滑らせて、バシャンと音を立てて、池の中に入ってしまった。
俺は手足をバタバタと動かし、水面に顔を出して息をする。そして呼吸が安定したころに周りを見ると、ゴブリンたちに完全に囲まれていて、池から出た瞬間に攻撃されるだろう。
「くっ……池に落ちたせいで今度こそ逃げられなくなっちゃった……」
俺は足をバタバタと動かし、沈まないようにしながら武器を構える。
「どこからでもかかってこい! 来たゴブリンから順番に倒してやる!」
しかし、ゴブリンたちは俺を襲って来ないし、ドン・ゴブリンもそれを見ているだけで何もしてこない。だが、とうとう痺れを切らしたのか、ドン・ゴブリンが吠える。
それを聞いたゴブリンたちは、一部を除き、一斉に池の中に飛び込んできた。
俺はゴブリンたちが飛び込んできたタイミングで剣を振り、何体かのゴブリンにダメージを与えていく。しかし、数が多すぎて、ゴブリンと一緒に俺は水の中に沈められてしまった。
ゴブリンたちは俺の身体に抱き着いてくる。
(俺の身体を掴むな、離せ! うっ!)
ゴブリンを殴るが、そのたびにゴブリンの爪が身体に食い込んでダメージを受ける。
俺は剣を逆手に持ち替えて、ゴブリンの背中に剣を刺す。ゴブリンは口から空気を吐き出すと、俺から手を離して沈んでいく。
他にも俺の身体を掴んでいるゴブリンに攻撃をして、俺の身体から離れさせた。
これで俺は自由に動けるようになったが、水中にはまだまだゴブリンがいて、俺に襲い掛かって来る。ゴブリンたちは泳ぎ慣れていないのか動きが遅く、爪で攻撃をしてくる。
引っ掻かれるとダメージを受けるが、地上に比べたら大したことはなかった。俺の剣での攻撃もあまりダメージを与えていられなくて、ゴブリンを倒すことは出来ていないが、それでもゴブリンの息を吐き出させることは出来るみたいで、次々に周りからゴブリンが息継ぎをするためにいなくなる。
(うっ……俺も息が……)
俺も息継ぎをするために浮上するが、息継ぎを終えたゴブリンが再び襲い掛かる。
(邪魔しないでよ!)
俺は剣を振り続け、ゴブリンが近づけないようにすることで、ゴブリンに身体を引っ張られることなく水面から顔を出すことができた。
「ぷはぁ……はぁ……はぁ……あれ? ドン・ゴブリンがいない」
息を整えながら地上を見ているとドン・ゴブリンがいなくなっていた、それだけじゃなく、池に飛び込まなかったゴブリンもいない。それに、争ったような形跡もあった
ここにいるのは、俺と一緒に水中まで来ていたゴブリンだけのようだ。
「俺が水中に入る前にはあんな争った跡はなかった。地上で何かあったのか? でもこれはチャンスだ、今のうちにここから離れるぞ!」
俺が池から出ようとすると、池の中にいるゴブリンが足を掴んで引っ張って来る。
俺の足を掴むゴブリンに更に別のゴブリンが掴んでいて、足が思うように動かすことができない。ずるずると池に引きずり込まれる。俺は再び水中に入ると覚悟し、たくさん息を吸い込んでから水中に入った。
俺が水中に入ると、ゴブリンを掴んでいたゴブリンたちが離れ、今度は俺の手足を掴み、剣を振ることどころか、殴ったり蹴ったりすることもできなくなった。
(うぅ……動かせない! この状況をどうやって打開するか…………そうだ、できるか分からないけど、アレを試してみよう!)
俺は身体に魔力を溜める、そして頭の中で魔法を唱えた。
(『スマッシュ』!)
しかし『スマッシュ』が不発になり、魔力だけが消費された。
(やっぱり練習をしていない無言詠唱がいきなりできるわけないか……これは帰ったら鍛錬だな。仕方ない、こうなったら、俺とゴブリンのどっちが長く潜っていられるか勝負だ!)
ゴブリンたちは俺を掴むだけで攻撃してこないので、俺は長く息が持つように目を閉じ、極力体力を使わないように体の力を抜く。
俺とゴブリンたちは、どんどん池の底に向かって沈んで行った。
(それにしても、いつまで沈んでいくんだ? こんな小さな池にしては深すぎる気が……)
未だに底を感じない池を不思議に思いながらも耐えていく。
そして時は来る、大人しく待っているとブクブクっと泡がゴブリンの口から吐き出された。そして、次々に俺から手を放して地上に向かって行く様子を、目を開け確認した。とうとうゴブリンたちは息ができなくなり、息継ぎのために地上に向かったようだ。
(よし! この調子でいけば、ゴブリンが全員離れるぞ!)
そう思って地上に向かうゴブリンを見ていると、触手に掴まれてどこかへ連れていかれる。
どうやら池の中にいたミズクラゲに捕まってしまったようだ。
(おかしい……池は小さいはずなのに、なぜゴブリンがあんなに離れて見える? っ! 違う、池が小さいのは上だけだ!)
そう、この池が小さいのは上だけだった。下に向かうほど広くなっていた。そして、ミズクラゲは1体だけじゃなかった。
(あっちにも、こっちにも、下にもいる! 息もかなりきつくなってきている、ミズクラゲに捕まったら終わりだ!)
だが、逃げようにもまだゴブリンが身体を掴んでいて逃げることができない。しかし、そんなゴブリンにミズクラゲの触手が襲い掛かる。
ゴブリンは触手に捕まると、俺の身体を必死に掴んで離そうとしない。釣られて俺も引っ張られるが、違う方向にいる他のミズクラゲが、俺の身体を掴むゴブリンを触手で掴む。
そんな状態になり、2体のミズクラゲは綱引きをするようにゴブリンを自分の所へ引っ張ろうとする。やがてゴブリンたちは息が続かなくなり、手の力が弱まって俺を摘み続けられなくて手を離し、ミズクラゲに捕まってしまった。
それを見た他のゴブリンたちは、全員俺から離れて逃げようとするが、ゴブリンを捕まえていない他のミズクラゲに捕まってしまった。
ミズクラゲがゴブリンたちの相手をしているうちに、俺は地上へ逃げる。
俺を追いかけるミズクラゲはいなかったので、無事に地上に逃げることができた。
ドン・ゴブリンから逃げようとすると、ドン・ゴブリンが空に向かって叫ぶと、逃げようとする先にゴブリンが現れて逃げられなくなった。
逃げ道を減らして小さい池まで追い詰めてきたゴブリンだが、池の方にはゴブリンが少なく、池を飛び越え、ダメージ覚悟で逃げようとしたところ、池の手前んで転んでしまい、池に入ってしまう。
池の周りを囲まれて逃げられなくなったので、ここで迎え撃つことにした。
一部を除いてゴブリンが一斉に池に入り、俺の身体を掴み水中に引きずり込む。
何とかゴブリンたちを引きはがし地上に出ると、争った形跡を残してドン・ゴブリンたちが消えていた。
チャンスだと思い地上に出ようとするが、水中にいるゴブリンたちに足を掴まれて、再び水中へ。
無言詠唱を試すも、練習をしていないので不発になった。
ゴブリンとどちらが長く潜っていられるかをやっていると、息が続かないゴブリンたちが地上へ向かう。しかし、そのゴブリンたちはミズクラゲの触手に捕まってしまう。
池は上が小さいだけで、下は広かった。
その後、他のミズクラゲが現れ、ゴブリンを捕まえていく。
俺はミズクラゲがゴブリンに構っている間に地上に逃げることができた。




