162話 ☆3『スーパーポイズンスライム』⑥(額)
「俺たちはこんな大きさの魔物に捕まっていたのか」
崩れて動かないプリズンゴーレムの一部を手に取り、しばらく観察した後、投げ捨てる。
クエストをクリアした俺とハクは、帰る準備をしていると、ゴゴゴっと地面が揺れる。
「またプリズンゴーレムか!?」
「……違う、この振動は、あそこで残骸となったプリズンゴーレムの方から感じる」
魔物の残骸が山の形の用に盛り上がると、プリズンゴーレムの頭の部分だけが顔を出す。そして、周りの土や崩れた自分の身体を集め、首や胴、腕や足などを作っていく。
大きさは変わらないが、横幅や奥行きは小さくなっている。プリズンゴーレムの身体からは、食べた者を閉じ込める牢が消え、手が生えたことで、戦闘向きな身体に変化していた。
「そんな、檻の中でハクが魔石を壊したし、経験値も吐き出したじゃないか、何でまだ生きている!」
「見て……プリズンゴーレムの額……」
プリズンゴーレムの額を見ると、さっきまでなかったキラキラと光る石があった。あれは牢の中でもあった魔石と同じ物のようで、プリズンゴーレムは魔石を2つ持っていて、俺たちはそのうちの1つを壊しただけのようだった。
「……っ! あんな所にも魔石が」
ハクは弓を搾り、プリズンゴーレムの額に向かって矢を放つが、プリズンゴーレムは手で額を守り、矢を弾く。
そして、額の魔石を覆うように土や石が集まり、魔石を隠してしまった。
「ンゴゴゴ!」
プリズンゴーレム叫ぶと、手を振り上げてこちらに叩きつける。俺たちはそれを避け、攻撃方法を探す。
「俺の剣じゃあの硬い身体は突破できないし、ハクの矢も通らない。頼れるのはコカさんの魔法だけだ」
「うん……『ガル・ドン・ファイア』」
コカは両手から炎を出し、プリズンゴーレムの頭に目掛けて当てる。
普通の魔物なら悶え苦しむだろうが、プリズンゴーレムはゴーレムなので、頭を燃やしたまま俺たちに攻撃を仕掛ける。
プリズンゴーレムは横から薙ぎ払うように手を動かし、避けられにくいようにしてきた。
ハクはジャンプすることで、攻撃を避けることが出来たが、俺とコカは避け切れずにダメージを受ける。
「うわっ!」
「くっ……」
プリズンゴーレムは次の攻撃を始める。反対の手でもう一度横から薙ぎ払うように攻撃をしてくる。先ほど攻撃を食らって体勢が悪くなっている俺とコカは避けることが出来ずに、連続でプリズンゴーレムの攻撃を食らってしまった。
攻撃を食らわなかったハクは、矢でヘイトを集めようと攻撃するが、プリズンゴーレムは見向きもしない。
動きが鈍くなった俺とコカに、プリズンゴーレムは両手で握り拳を作り、高く振り上げると、俺たちに向かって振り下ろした。
(この攻撃をまともに受けたら戦えなくなる!)
自分の身を守ることで精一杯な俺は、身を丸めて、ダメージを減らすことしか出来なかった。プリズンゴーレムの攻撃はズシンと大きい音が響き、地面がへこむくらいの威力だった。
だが、その攻撃で俺とコカはダメージを受けることはなかった。プリズンゴーレムの振り下ろした両拳は、俺たちから少し離れた位置にあった。
「危なかったね、丁度良いタイミングで来たって感じだよ」
「イラミさん! でも何で俺たち助かって……」
プリズンゴーレムの足元を見ると、地面の一部が削られていて、そこにプリズンゴーレムの足が落ち、攻撃する位置が変わったようだった。
プリズンゴーレムは足を移動させ、今度はイラミを攻撃しようとする。だが、プリズンゴーレムの膝裏に衝撃が与えられ、立っていることができず、衝撃を与えられた足の方向に向かって、プリズンゴーレムは倒れていった。
「すまない、コカのライトの合図を見てすぐに引き返したんだが遅くなった。俺も今から加勢する」
「ザイゲンさん! 助かりました」
イラミだけでなく、ザイゲンも戦闘に加わった。
「コカ、状況はどんな感じだ?」
「プリズンゴーレムを倒したら……まだ魔石があったみたいで……あんな姿に……」
「そうか、俺もあの姿のプリズンゴーレムは見たことがない」
「ザイゲン! もうじきプリズンゴーレムが起き上がるよ」
「ゴゴゴ」
プリズンゴーレムは腕を支えにして、片膝を付いたまま上体を起こした。
「魔石はどこに隠れている!?」
「……額に魔石が隠れている」
「あそこだな!」
ハクから情報を得たザイゲンはプリズンゴーレムの額に、魔石を守るために少しだけ盛り上がった場所を見つけ、そこに魔石があると把握する。
「イラミは足元の地面を崩して、倒れやすいようにしてくれ」
「コカは『ストーン』系の魔法を使って、プリズンゴーレムの攻撃範囲外から援護してくれ」
「分かったよ!」
「うん……」
イラミはプリズンゴーレムの足元に向かい、コカは逆に遠くに離れる。
「シンとハクは無理に攻めなくても良い、プリズンゴーレムのヘイトを買ってくれるだけで、俺やイラミやコカが攻撃しやすくなる。頼んだ」
「分かりました!」
「……分かった」
俺は右回りに、ハクは左回りにプリズンゴーレムの周りを移動して、プリズンゴーレムの動きを見る。
「ゴゴゴ」
プリズンゴーレムが攻撃対象に選んだのはハクだった。ハクはジャンプで高く飛び、薙ぎ払い攻撃を避ける。そして、足元にいたイラミが地面を削り、プリズンゴーレムの体勢を崩す。
プリズンゴーレムが次に攻撃対象として選んだのは俺だった。丁度体勢を崩したことで手が上にあるので、プリズンゴーレムはそのまま拳を握り叩きつける。この攻撃を俺は横に逃げることで食らわなかった。
俺がヘイトを買っている間にイラミは更に地面を削り、プリズンゴーレムは立っていられなくなり両膝を付く。
「準備は出来たか、コカ」
「うん……バッチリ」
コカの頭上には1本の大きな石柱が出来ていた。
「一点集中……『ガル・ドン・ピラーストーン』」
石柱はプリズンゴーレムの胴に当たると、そのまま胴を貫き、プリズンゴーレムを地面に拘束した。
ザイゲンは、倒れたプリズンゴーレムの身体に飛び乗ると、足から胴、胴から頭に移動をする。
額の真上まで来ると、両拳を握りしめた。
「はぁっ!」
ザイゲンは、プリズンゴーレムの額に右ストレートを食らわせる。そして次は左ストレート。それを交互に繰り返して、魔石を守っている土や石が剥がれ始める。
何度も何度も攻撃をしていると、魔石が見えてきた。
「ゴゴゴ」
「っ!?」
プリズンゴーレムはザイゲンを両手で潰そうとする。しかし、俺とイラミ、ハクとコカがそれぞれの手に攻撃を加えて、ザイゲンへの攻撃を阻止する。
「これで終わりだ!」
ザイゲンはプリズンゴーレムに最後の一撃を叩きつけると、額の魔石は砕けて、経験値を吐き出し、
今度こそプリズンゴーレムを倒すことが出来た。
「ふぅ……なんとか倒せたな。シン、ハク。俺とイラミが離れている間、コカと戦ってくれて助かった」
「シンもハクもやるじゃん!」
「いえいえ」
「……お互い様だ、俺たちもザイゲンやイラミに助けられた。もちろんコカにもな」
「ふふ……」
コカは照れくさそうに微笑む。
「俺たちはまだクエストが残っているが、シンたちはもう帰るんだろう?」
「そうですね。スーパーポイズンスライムを討伐して、もうここにいる意味はないですね」
「じゃあ俺たちのことは気にしないでアルンに帰ってクエストクリアの報告をすると良い。シンたちと離れて索敵しているときに、辺りの魔物を倒してきたから、もう魔物は来ないはずだ」
「……そうか、それじゃあ俺たちが残っていてもやることはなさそうだな。シン、帰るぞ」
「そうだね。ザイゲンさん、イラミさん、コカさん。今日はありがとうございました! ギルド職員さんも頑張ってください!」
俺は3人とギルド職員に別れを告げると、全員手を振ってくれ、それは俺とハクが見えなくなるまで続いた。
■
アルンに戻り、ギルドでクエストクリアの報告に向かう。
「クエストお疲れ様でした。シンさんたちの活躍はギルド職員から確認済みです。こちらが報酬金となります。」
俺は750G入った袋を受け取り、
ギルドカードには1500GPが追加された。
報酬を受け取った俺とハクは、ギルドから出て、一緒に宿まで帰る。そして、それぞれの住んでいる部屋の前まで帰って来た。
「……シン、目当ての毒が手に入ったのはお前のおかげだ。ありがとう」
「そういえばスーパーポイズンスライムの毒が目当てでこのクエストを受けたんだったね、戦闘が激しくて忘れていたよ」
「……俺の力が必要になったら誘ってくれ」
「ああ、その時はよろしく」
こうして、俺とハクは部屋に帰り、装備の手入れや、余った魔力を魔法石に込めたりなどをして、眠りにつくのであった。
魔石を壊してプリズンゴーレムを倒したと思ったら、まだプリズンゴーレムは魔石を持っていて、それを使って、戦闘向きな身体を作り出した。
額に魔石があり、それを攻撃しようとすると手で防がれ、しかも土や石で魔石を隠してしまった。
俺とハクとコカの3人で戦っていたが、プリズンゴーレムの薙ぎ払いにやられて、もう少しで大ダメージを受ける所を、索敵に行っていたイラミやザイゲンが戻ってきて助かった。
その後はザイゲンの指示に従い、プリズンゴーレムと戦い、ザイゲンが額の魔石を破壊して、プリズンゴーレムを倒すことが出来た。
そして俺とハクは、ギルドに戻り、クエストクリアの報告をして、部屋に戻り眠りにつくのであった。




