160話 ☆3『スーパーポイズンスライム』④(石牢)
「スラ!」
先に動いたのはスーパーポイズンスライムからだ、小さい毒の球を複数個作ると、それらを真っ直ぐ俺の方に飛ばしてくる。
1つ1つは小さいが、数が多いため避けることが出来ない。俺は口に毒が入らないように背中を向けてガードする。
すると後ろからドスンと響く音が聞こえてくるだけで、毒の球が俺に1つも当たらなかった。
振り返ると、そこにはさっきまでなかった石の壁があった。
「大丈夫……?」
「この壁はコカさんが?」
「うん……私の魔法……『ストーンウォール』」
「あの毒の球を避けるのは難しかったので助かりました」
石の壁に亀裂が入り、上の方から徐々に崩れ始める。
「今度はこっちが攻撃する番……」
コカは空に両手を向け魔力を込めると詠唱を始める。
「『ガル・ドン・ピラーストーン』」
空には円柱の形をした石がたくさん現れ、ズドンズドンと地面を揺らしながらたくさん地面に刺さっていく。ツチノテの何体かは、巻き込まれて潰されたようだ。
それと同時に石の壁は完全に崩れ落ち、スーパーポイズンスライムの姿が毒を補充するため毒沼に向かって移動をしている所を確認する。
「障害物が出来た……これなら隠れて近づける……」
「ありがとうございます、行くよハク!」
「……ああ!」
俺とハクは石の柱を利用しながらスーパーポイズンスライムに近づいて行く。スーパーポイズンスライムは柱が邪魔で、俺たちに遠距離から攻撃をすることが出来ないようだ。
柱が石でできているため、ツチノテたちも潜り込むことが出来ない。次々とハクに切り飛ばされていく。
ハクが倒しきれていないツチノテは俺の足を掴もうとするが、ジャンプして避けたり、石の柱を掴んで、柱を軸に1周して、掴むタイミングをずらさせて捕まらないようにする。
「スラ!」
スーパーポイズンスライムは毒沼で毒の球を投げる準備を済ませて、俺たちが石の柱から抜けるのを待っていた。
だが、それはスーパーポイズンスライムにとっては悪手になってしまった。相手にしているのは、俺とハクだけではない、コカも戦っているのだ。
スーパーポイズンスライムの頭上には、大岩の塊が空から降って来る。
「スラ!?」
自分の周りに影が出来、見上げるスーパーポイズンスライムは、大岩の存在に気が付き、一目散にその場から逃げ出す。反応があと少しでも遅れていたら下敷きになっていたが、避けることが出来た。
しかし、そばにいたことで揺れる地面の影響を受けてしまい、スーパーポイズンスライムの目は上下に揺れ、その場で震えて動けなくなっている。
ツチノテたちも揺れる地面の影響を受け、痺れて動けていない。俺とハクは、このチャンスを逃さないように攻めていく。
ハクは速く進もうと石の柱に手をかけ、腕の力でも加速しようとしたら、弾かれたように地面に倒れた。
「……うっ」
「ハクどうした!?」
「……シン、武器をしまえ。この石の柱にも振動が伝わっていて、触れただけで凄い衝撃が来る。シンの剣は長いから柱に当たるかもしれない」
俺は頷き、武器を鞘に入れ、柱に振れないように走る。
石の柱を抜けると、いよいよスーパーポイズンスライムまで一直線に進めるようになる。まだスーパーポイズンスライムは震えから解放されていない、俺は剣に手をかけ進んで行く。
「今だ! いけぇ!」
剣を抜き、地面に剣先を擦らせながらスーパーポイズンスライムの頭上を進んで行く。俺の剣には、スーパーポイズンスライムの緑色の体液が付いていた。
その体液が剣から滴り落ちると、スーパーポイズンスライムの身体は左右に別れて倒れ、経験値を吐き出した。
「……やったなシン。これでクエストクリアだ」
「お疲れ様……」
ハクとコカは石の柱を抜けて俺の前までやって来る。
「そうだねハク。コカさんもありがとうございます! さて、スーパーポイズンスライムを持って帰ろうか」
「……ああ」
ハクは袋に倒したスーパーポイズンスライムを入れた。
「もう終わりましたか? そろそろ毒沼の洗浄を再開しても大丈夫ですか?」
「もう……大丈夫……」
離れていたギルド職員たちが戻って来たので、コカは石の柱を消していく。ギルド職員たちは毒沼の洗浄を始めた。
「あとは索敵に向かったザイゲンさんとイラミさんが戻って来るのを待つだけですね」
「うん……」
「……おい、何か揺れてないか?」
ハクの言う通り、確かに揺れを感じる。揺れをどんどん大きくなってきていた。
「地震かな?」
「……地震にしては変だぞ」
「見て……地面が割れている……」
地面に亀裂が入り、ゴゴゴゴゴッと地鳴りがする。そして一気に地面が崩れ、俺とハクとコカの3人は足場を失った。
「うわぁぁぁ! 何で急に地面が崩れたんだ!?」
「……おい! 下に何かいるぞ!」
下を見ると、ゴツゴツとした大きい何かが口を開けているように見えた。
「あれは……プリズンゴーレム……」
足場を失って身動きの取れない俺たちは、プリズンゴーレムに飲み込まれてしまった。
壁にぶつかりながら落下していくと、平らな場所に辿り着いた。
「ここはどこだ、俺たちはどうなったんだ?」
「……プリズンゴーレムっていうのに食べられたみたいだ、魔物ということは分かるが、どういう魔物なんだ?」
「プリズンゴーレムは……食べた生き物を閉じ込める……あっ……動き始めた……」
プリズンゴーレムが動き始め、穴から出てくる。すると、俺らのいる場所が明るくなってきた。
光が来ている場所からは外が見えているが、石でできた格子があって、腕1本を外に出すので限界だった。
俺は剣で石格子を切ってみるが、硬くて切ることが出来なかった。
「俺の剣じゃ無理みたいだ、ハクはどう?」
「……無理だな、硬くてプリズンゴーレムに俺の毒は届かないだろう。ここで『ボイズスモーク』を使っても、この石格子しか空気の通り道がない、毒耐性の指輪で俺の毒に耐えられるシンしか耐えられない」
「そうか……じゃあコカさんの魔法はどうですか?」
「うん……やってみる……!?」
コカが魔法を使おうとしたら、プリズンゴーレムが身体を揺らして抵抗してくる。石格子側が下になるように傾き、俺たちは石格子に叩きつけられた。
それによって、外でプリズンゴーレムを見ていたギルド職員に俺たちが捕らわれていることに気が付いてもらった。
「おい! 冒険者たちが捕まっているぞ!」
「他の冒険者を呼びましょう!」
「2人ほどこの場を離れている冒険者がいます、急いで呼び戻しましょう!」
外にはプリズンゴーレムに食べられていないギルド職員たちが慌てている。無理もない、自分たちを護衛していた冒険者が捕らわれて閉じ込められているのだから。
「っ! 何でこんな所に魔物が!?」
俺らが捕らわれているプリズンゴーレムの中にはツチノテたちが現れ始めた。
「……俺たちと一緒に飲み込んだ土の中にツチノテがいたみたいだ。どんどん湧いてくるぞ」
俺たちは捕らわれていても安全ではないようだ。
コカの『ストーンウォール』で散弾のように飛ばしてくる毒の球を防いだ。そしてコカの『ガル・ドン・ピラーストーン』で石の柱を地面に刺し、スーパーポイズンスライムの遠距離攻撃をさせないようにした。
スーパーポイズンスライムは、近づいてくる俺とハクに集中している間に、コカは大岩を投げつけてスーパーポイズンスライムを揺らして身動きができないようにする。その間に、俺は剣で切りスーパーポイズンスライムを倒した。
その後、地面に穴が開き、下にはプリズンゴーレムがいて、俺とハクとコカは飲み込まれてしまった。
ギルド職員たちが俺たちの存在に気が付き、急いでザイゲンとイラミを呼び戻す。
そして、捕らわれた俺たちの前にツチノテが湧き始めていた。
魔法の紹介
・『ストーンウォール』
壁を作る土属性の魔法。石の壁を作り、敵の攻撃から身を守ることが出来る。
・『ガル・ドン・ピラーストーン』
石の柱を作る土属性の魔法。『ピラーストーン』のより2段階強い。たくさんの石柱を振り落としたり、大きな石柱を作ることもできる。
円柱の形をしている。
魔物の紹介
・プリズンゴーレム
全身が石でできているゴーレムで、飲み込まれると石で作られた牢屋があり、格子は石でできている。閉じ込められたものを衰弱させて取り込もうとする。また魔素を送ることで、体内に魔物を生み出せる。
普段は地面に隠れて、獲物を待っている。
全長は10Mほどで、お腹の辺りに獲物を捕らえる牢屋がある。




