159話 ☆3『スーパーポイズンスライム』③(第二)
振り下ろした剣がスーパーポイズンスライムの端を切る。
「スラ!」
「逃がすか!」
スーパーポイズンスライムは毒沼に逃げようとしているので追いかける、しかし足が動かなくてどんどん距離が遠ざかる。
「あれ、動けない!? またお前らか!」
自分の足を見てみると、ツチノテが俺の両足を掴んでいた。動けなくなったのはツチノテに拘束されていたからのようだ。
俺がツチノテにてこずる間に、スーパーポイズンスライムは毒沼まで辿り着き、傷を回復させていた。
戦闘が振り出しに戻るだけなら良かったが、俺はまだツチノテに拘束されたままだ、急いで足を掴むツチノテたちを倒したころ、俺の顔に緑色の毒の球が飛んで来て当たった。
「ぐはっ!」
顔面を殴られたような衝撃で頭から倒れ、後頭部を地面にぶつけてしまい、1度の攻撃で2度のダメージを受ける。
しかし、これだけでは終わらない。
「あっ……あぁぁっっっ! うえっ……」
顔に毒の球が当たったことで口から毒が身体に入ったようだ。頭痛に腹痛、眩暈に吐き気などの症状がすぐに表れる。
だがこれだけではない、毒が入った場所は口だけでなく、目の中にまで入り、目を開けることが出来ず、地面にうずくまって痛みに耐える。
(毒の影響が強すぎる……早く上解毒薬を飲まないと……)
俺は手探りで袋から上解毒薬を探し手に取ると、蓋を外して全部飲み干す。
効果が表れ始めたのか、みるみる体調が良くなっていく。そして、俺の身体からは完全に毒が消えた。
「……シン、大丈夫か!」
「大丈夫だよ、それよりスーパーポイズンスライムは?」
「……そいつなら矢を放ちまくったら逃げていった、また探さなきゃいけない」
「逃げられたのか……あとちょっとで倒せそうだったのにツチノテの邪魔が入らなければ!」
俺は拳を握りしめ、悔しさを表す。
「……あれは惜しかったな。だが、あのままやっていても俺の矢が足りなくなって足止めができなくなっていただろう。そしたらシン1人で戦うことになっていた。毒沼に逃げるスーパーポイズンスライムを追いかけるのは、今のシンじゃ厳しいだろう。ツチノテの邪魔が入るなら余計にな」
ハクの言う通り、俺1人じゃスーパーポイズンスライムに追いつく前に毒沼に辿り着かれてしまう。ユカリだったら俺よりも速いから追いつくことが出来ただろう。
もう1人誰かパーティーに入れてクエストを受ければ良かったと後悔している。
「……俺は矢を回収してくるから、それが終わったら追うぞ」
ハクはそう言うと、紫色の毒沼の方から矢を回収していく。俺もそれについて行った。
ハクは刺さった矢を地面から引き抜いてしまっていく。俺はそれを少し離れた位置で見ていた。
「ハクって矢を使い切りそうになること多くなったよね。ちょっと前までは矢の本数に余裕があったのに」
「……そうだな、受けるクエストの難易度を上げているからか、魔物を倒すのに多くの矢を使うようになったのは確かだ。だから毒を矢に付けたりして、少ない本数で魔物を倒せるように工夫している」
「それってどのくらい矢の節約になるの?」
「……数本の節約になるくらいだな。俺の矢は魔物に当てるというより、魔物を誘導するために放つことが多い。だからこうやって魔物に当たることもなく地面に刺さる矢ばかりだ」
ハクは地面に刺さっている最後の矢を抜き終わった。
「誘導するための矢は、魔力で作れたりしないかな。魔物に当てる矢以外は毒が塗られていない普通の矢でしょ?」
「……魔力で矢を作るか……魔法を矢に付与することはやっても、魔力だけで矢を作ったことはなかったな。このクエストが終わったら鍛錬しておこう。ん? ザイゲンたちがこちらに来るぞ」
ザイゲン1人だけが俺たちの所に歩いてくる。
「シンとハクはまだこんな所にいたのか。大量のツチノテは倒れているみたいだが、スーパーポイズンスライムはまだ見つからないのか?」
「見つけたんですが、ツチノテに邪魔されて逃げられちゃいました……」
「そうか。そろそろこの辺りの毒沼の洗浄が始まるから、ゆっくり追い詰めればいい」
「……ああ、そうさせてもらおう」
「何かあったらイラミやコカの所に行け、俺はこの先を索敵してくる」
先へ進むザイゲンの後姿を見届けるころ、ギルド職員が毒沼の洗浄をしながらこちらに向かってくるのが見える。イラミやコカは退屈そうに護衛をしていた。
俺たちはそばでギルド職員の洗浄を眺めている、どんどん毒沼が綺麗になっていく。そして紫色の毒沼は無くなり、緑色の毒沼の洗浄が始まった。
俺たちがイラミたちと合流してから魔物は現れていない。
「シンたちは魔物と戦っていたんでしょ? いいなぁ、私も魔物と戦いたいよ。ザイゲンもコカも魔物と戦ったのに私だけ戦ってないよ」
イラミは自分だけ魔物と戦えていないことに不満があるようだ。
「戦わない方が楽……」
「そうだけど、ここまで何もしていないとつまらないよ」
「……なら索敵をしに行けばいいんじゃないか? ザイゲンは1人で先に進んだぞ」
「そうですよイラミさん、俺たちがコカさんと一緒にここで護衛をやっておきますので、索敵してきて良いですよ」
「本当に! 良いの?」
「問題ない……魔物来ないし……イラミが離れても大丈夫……」
コカがそう言うと、イラミは喜んだ。
「コカ! 何かあったら『ライト』で合図送ってよ!」
イラミはそう言い残すと、ザイゲンとは違う方向に走って索敵を始めた。
「あなたたちは……ここにいて良いの?」
コカは俺たちに向かってそう聞いてくる。スーパーポイズンスライムを討伐しに来た俺たちが、護衛を手伝っているのだ。コカが心配する気持ちは分かる。
「……毒沼を洗浄しながら、ゆっくり追い詰めるつもりだ」
「洗浄中に見つけたら倒しに向かうので、それまではここで護衛するつもりです」
「そう……でも、もういるみたい」
コカの見つめる先にはスーパーポイズンスライムがこちらを見ている、そしてその周りにはツチノテたちが集まって来ている。
「もう戦うことになるのか!」
「……今度は毒の球に当たるなよ」
俺たちが戦闘態勢に入ると、コカも俺たちの横に並んでくる。
「私も……手伝う……」
「これは頼もしい、援護お願いします! ギルド職員さんたちは離れてください」
ギルド職員がその場を離れると、ツチノテが地面に潜って移動を始める。スーパーポイズンスライムは毒霧を吐き始めた。
それを見たコカは空に向かって『ライト』を飛ばし、ここから離れているイラミとザイゲンに合図を送った。
「……シン、俺に『パンプア』をかけてくれ、ツチノテは俺がナイフで倒す、シンはコカと2人でスーパーポイズンスライムを頼む」
「分かった、『パンプア』!」
俺はハクにバフをかけると、毒霧に向かって『ウィンド』を使い、毒霧を消す。
「さあ、第2ラウンド始めるよ!」
スーパーポイズンスライムの端を切るが、ツチノテに追撃の邪魔をされてしまう。ツチノテの相手をしている間に回復され、毒の球を当てられてしまい、毒状態となり苦しめられた。
上解毒薬を飲んで回復している間にスーパーポイズンスライムは逃げたようで、戦いは一時休戦のようだ。
ハクの矢を回収しながら、魔力で矢を作るのはどうかと言う話をした。
ザイゲンたちと合流すると、ザイゲンとイラミは索敵のためこの場を離れ、俺とハクとコカの3人で、毒沼の洗浄をやっているギルド職員の護衛をすることになった。
イラミが離れてすぐにスーパーポイズンスライムとツチノテが現れ、戦闘を開始する。




