156話 ☆2『ポイズンスライム討伐』②(埋める)
俺は紫色の霧の中に入った。霧を吸ってみると毒霧だと分かる、この近くにポイズンスライムがいることは確かだ。
「前回戦った時には使っていなかったけど、今回はあの時とは違うんだ。姿を現せ『ウィンド』!」
俺は手から風の刃が飛んでいく。それに毒霧が巻き込まれ、視界が良くなっていった。
「スラ!」
「どこにいる!」
所々に毒沼が見える。これらのどこかにポイズンスライムが隠れているはずだ。
「……ふん!」
ハクが毒沼に向かって矢を放つが、そこにはポイズンスライムはいなかった。ハクは次々と矢の刺さっていない毒沼に矢を放つ。すると、毒沼がうねうねと動き出す。
毒沼から飛び出してきたのは、スライムが溶けたような見た目をしている紫色の魔物だ。
「……シン、ポイズンスライムだ!」
「ああ、あとは任せて!」
俺はポイズンスライムに向かって走り出す。ポイズンスライムは毒霧を出して目眩ましをしているが、俺はそれを『ウィンド』を使うことで、ポイズンスライムに攻撃しつつ、毒霧を消していく。
ポイズンスライムは『ウィンド』を避けることが出来たが、俺の剣による攻撃は避けられなかったようで、身体の一部を切り裂かれる。
「スラ!」
ポイズンスライムはダメージを受けて動きは鈍くなったが、別の毒沼に隠れてしまった。そしてそこから出てきたポイズンスライムは、さっき切ったはずの身体が元に戻っていた。
「なに!? 元に戻っただと!」
「……どうやら毒沼に入ると回復するようだな。だが、ダメージを受けたポイズンスライムが入った毒沼は、回復するのに使ったことで綺麗になくなっているようだ」
「つまり回復するのにも限度があるってことだね。でも、そこら中に毒沼があるから時間がかかるよ」
「……そうだな、ポイズンスライムが毒沼に入る前にもう一撃与えられることが出来れば良いんだが……」
「一撃を入れられなくても、ポイズンスライムが毒沼を回復に使っている限り、毒霧で攻撃してくることしか出来ないから、虱潰しにやっていくよ」
「スラ!」
ポイズンスライムが毒沼に移動しようとしている。
「ポイズンスライムが動き始めた! ハクは毒霧を吸い込まないように気を付けてね!」
「……ああ!」
ハクが後ろに引くと、俺は再びポイズンスライムに攻撃を仕掛けに行く。ポイズンスライムはダメージを受けて、それを毒沼で回復する。
「回復が終わる前に仕掛ける!」
「スラ!」
ポイズンスライムは濃い紫色の球体を作り出し、それを俺に向かってぶつけてくる。俺は間一髪のところで避けることが出来たが、それで体勢を崩してしまい、その間にポイズンスライムは別の毒沼に隠れたようだ。
「毒の球を真っ直ぐ飛ばすこともできるのか! これは想像以上に倒すのが面倒だぞ、いったいどうするか……っ! そうか、あの方法ならもしかしたら!」
俺はポイズンスライムの方には向かわずに、何も隠れていない毒沼の方に走る。
「……シン、そこにはポイズンスライムはいないぞ!」
「大丈夫! これもポイズンスライムを倒すために必要なことだから、さて、毒沼の前まで来たぞ」
俺は何も隠れていない毒沼に向かって手を向ける。
「『アース』!」
俺の手の平から土が吐き出され、毒沼を土で埋めていく。そして、毒沼は俺の『アース』で完全に土で隠れてしまった。
「……そんな方法があったのか! それならポイズンスライムに攻撃をしなくても毒沼を減らせる」
「ああ、それに……」
「スラ!」
「よっと」
ポイズンスライムは毒の球を俺のいる方に山なりに投げてくるが、それを難なく避ける。
「運んでくれてありがとう」
俺はそう言うと、毒の球が着弾した所にできた、新たな毒沼に『アース』を使って土で埋めていく。
後はただここで待つだけだ。ポイズンスライムが、自分の生命線である毒沼を毒の球に変え、俺の所に投げてできた毒沼を『アース』埋めていく。
これを繰り返していると、毒の球が来なくなった。どうやらポイズンスライムは近くにある毒沼を使い切ったようだ。
俺は一気にポイズンスライムに駆け寄り、剣で切りつける。
「えい!」
「スラ!」
ポイズンスライムは切られた身体で逃げ出すが、自分を回復したり毒の球を投げたりするのに必要な毒沼がなく、俺に追いつかれてもう一度剣で切られる。
「ス……ラ……」
ポイズンスライムは経験値を吐き出して動かなくなった。
「……やったな。俺はポイズンスライムの回収をする、シンは辺りを警戒していてくれ」
「分かった」
ハクは目の前のポイズンスライムを回収した後、俺が途中で切ったポイズンスライムの断片も回収して、辺りに紫色のものはなくなった。
「……よし、回収は終わった。シン、次も頼む」
「任せてよ!」
こうして俺とハクは奥の方に向かい、2体のポイズンスライムを見つける。
2体になったことで毒の球を投げてくる頻度が多くなったが、俺は毒耐性の指輪のおかげで、毒の球に当たっても毒にはならず、毒の球のダメージもそこまで高くないので負けることはなかった。
そして、2体で毒沼を毒の球に変えていたので、その分早く毒沼が俺たちの所に集まり土に埋め、残されたポイズンスライムたちを簡単に倒すことが出来た。
「……クエストクリアだな。回収も終わったことだし帰るとしよう」
「そうだね。ん? あれはなんだ?」
俺が指差す方向に緑色の霧があった。
「……っ! マズイぞシン! 今すぐここから離れるんだ!」
「え? ちょっと待ってよ!」
ハクは全力で緑色の霧から逃げ出したので、俺はハクの背中を追ってこの場から離れる。
後ろを振り返ると、霧の中から緑色のポイズンスライムが現れた。俺たちを追いかけているようで、ぬるぬると近づいてきている。そして、緑色のポイズンスライムが通った近くにあった毒草は枯れてしまった。
「あの魔物はいったいなんだ!?」
「……あいつはポイズンスライムの強個体、スーパーポイズンスライムだ! シンの毒耐性の指輪でも防げない猛毒を使ってくる」
「何だって!? でもあいつを倒せれば、強い毒を手に入れられるよね?」
「……馬鹿なことは考えるな、今の装備であの魔物に挑むにはリスクが大きすぎる! スーパーポイズンスライムの毒にかかったら、俺の持っている解毒薬じゃ完全には治らないぞ! 気持ちは嬉しいが、ここは一旦引くんだ」
「…………仕方がないか……一旦引くよハク」
俺はハクの忠告を聞き入れスーパーポイズンスライムから逃げる。看板が見えてきたまで来ると、スーパーポイズンスライムは追いかけて来なくなっていた。
「ふぅ……ここまでは追って来ないみたいだね」
「……そうみたいだな」
俺たちは安堵の表情を浮かべ街に帰るのであった。
■
ギルドに帰ってくると、受付にいるハンナさんにクエストクリアの報告をする。
「ハンナさん、クエスト終わりました」
「……これがポイズンスライム3体だ」
ハクは回収したポイズンスライム3体をハンナさんに見せる。
「ハクさん、シンさん、クエストお疲れ様でした。ハクさんたちが倒したポイズンスライムは、3体回収されたことを確認しました。こちらが報酬金となります」
俺は200Gと600GPを受け取った。
「……それと、毒沼にスーパーポイズンスライムが現れた」
「スーパーポイズンスライムですか、分かりました。すぐにギルド職員に確認を取り、発見次第掲示板にクエストを貼り出します。報告ありがとうございました」
ハンナさんはお礼を言うとどこかへ行ってしまい、姿が見えなくなった。
「……毒は欲しかったが、あの魔物と準備不足で戦うのは危険だ。これで良かったんだ」
「ハク、準備不足だったのなら準備を整えようよ! そして、その時にスーパーポイズンスライムと戦おう!」
「……そうだな、そこまで言うならシンに期待してみるか。準備が出来たら俺を誘ってくれよ。あとこれ」
ハクは使わなかったポーションを俺に返した。そして、ハクは俺の肩をポンと叩くと帰ろうとする。
「ちょっと待ってハク!」
「……どうした?」
「何を準備すれば良いの?」
「…………」
ハクはヤレヤレといった表情を見せ、俺は恥ずかしそうに笑って。必要になるものを聞いてこの日は終わった。
ポイズンスライムの毒霧を『ウィンド』を使い消したり、毒沼に『アース』を使って埋めたりしてポイズンスライムを追い詰めて倒すことが出来た。
緑色の霧の中からスーパーポイズンスライムが現れて俺たちは逃げ出した。
これからは、そのスーパーポイズンスライムを倒すための準備をすることになった。
魔物の紹介
・ポイズンスライム
スライムが溶けたような見た目をしている紫色のスライム。毒沼に隠れて毒霧を使い、冒険者を毒状態にしてくる。
近くにある毒沼から水を集めて、それを塊として投げつけてくる攻撃をしてくる。これを毒の球と呼ぶ。
毒を好むためか、生息地は毒のある所が多い。また、その場所の毒の強さによって、ポイズンスライムの毒の強さも変わる。
切られた身体は毒沼に浸かることで回復する。
・スーパーポイズンスライム
ポイズンスライムの強個体で、緑色にしたような見た目だが毒は猛毒である。また、並みの解毒薬では完全な解毒にならない。
基本的にポイズンスライムと同じ攻撃方法だが、毒以外の攻撃方法も使ってくるので要注意。




