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153話 ☆3『ウルフ討伐』⑩(契約)

「グルルルゥ……ヴゥゥ……」



 ゾンビとなったドン・ウルフがオウマに向かって走り出す。



「なっ! ゾンビになっているのに速い、オウマ!」


「これくらいの速さなら避けられるよ」



 ゾンビが噛み付こうとするが、オウマはそれを横に避ける。そして闇の炎でゾンビの横腹を焼いた。


 オウマの闇の炎が消えると、徐々にゾンビの爛れた肉が治っていく。



「ヴゥゥ……」


「もっと威力を上げて……えい!」



 オウマは両手を使って大きい闇の炎を作り、ゾンビの足元から焼いていくが、ゾンビはダメージを受けつつ、構わず前に進んでくる。



「死んでもおかしくないダメージを与えているけど、ゾンビになっているから動き続けるね」


「ヴゥゥ……」


「炎を使っても致命傷にならないか……だったら、その首をもらうよ」



 オウマは空中に闇の球を出すと、そこに手を突っ込み掴む。闇の球から手を出すと、剣のような形に変わっていった。


 攻撃してくるゾンビを、飛んで避けたオウマは、ゾンビのうなじを掴むと、剣でゾンビの首を切り落とした。



「ヴァァ……」



 首を切られたことで、ゾンビの身体は倒れ動かなくなったが、頭は口を使って這いずり、オウマを睨んでいる。


 それを冷めた目で見つめるオウマは、頭だけとなったゾンビに向かって手を向け、闇の炎を浴びせた。



「アァァ……」



 ゾンビは身動きが取れず焼かれ続けて、経験値を吐き出した。






 オウマの戦いを見終わったブラホスは、鼻息を鳴らすと、洞窟に帰って行った。



「終わった……のかな?」


「終わったよ。これでもう襲ってくる魔物はいないはずだよ、シンたちも父さんと一緒に洞窟の奥に行っていて良いよ」


「これで安心して眠れるね」


「そうですわね!」



 アオとユカリは胸をなでおろすと、ブラホスの後について行った。

 俺とハクとキャリーもその後を追う。






 オウマたちが住処にしている所に戻ると、キャリーはカバンから寝袋を出して、みんなが眠れるように準備を整えていた。



「ではみなさん、寝袋の用意が出来ました。これでいつでもおやすみになれます」



 キャリーが準備してくれた寝袋に、俺たちは入って行った。



「私は眠いので寝ますわね、シンくん、アオくん、ハクくん、キャリーさん、オウマくん、おやすみなさいですわ」


「ユカリちゃんおやすみ。それじゃあ僕も寝るね」


「……俺も寝る」



 ユカリとアオとハクはそう言うと、数分もしないうちに寝てしまい寝息を立てている。



「俺も寝るよ、おやすみオウマ」


「ああ、朝までゆっくりしていてね」



 俺は目を閉じ眠るのであった。






 ■






 美味しそうな匂いがする、目を開けると、キャリーがスープを温めていた。



「あ、シンくん起きたんだね、おはよう」


「アオ、おはよう。ハクとユカリは?」


「外の空気を吸いに行っているよ。ほら、帰ってきたみたい」



 洞窟の入口側から、ハクとユカリの2人が歩いてくる。



「スープの良い香りが外からも分かりましたわ」


「シンも起きたようだな、食べたら街に帰るぞ」


「うん」


「みなさん朝食が出来ました! 食べましょう!」



 料理が出来たようなので、俺たちは朝食を食べた。






 食べ終わると、俺たちは装備を整えて荷物をまとめて、洞窟の外に出る。外は太陽の光が出ていて、明るく照らしてくれていた。



「シンたちとはここでお別れだね。久々に話し相手がいて楽しかったよ」


「俺たちの方こそ、森で色々助けてくれてありがとう。オウマたちはこれからどうするの? まだこの洞窟を住処にする感じかな?」


「いや、僕たちは場所を変えようと思っているよ。魔王軍に住処がバレちゃったからね」


「そっか」



 オウマはブラホスの背中に乗る。



「それじゃあまたどこかで会おうね」


「うん、ばいばい」



 俺たちは全員手を振って、オウマとブラホスが森を去っていくのを見届けた。


 こうして、オウマたちと別れた俺たちは、森と草原で魔物と遭遇することなく、アルンの街に帰ることが出来た。






 ■■






「それでは私はカバンに入ったウルフたちを運ぶため、違う所からギルドに入りますね」



 キャリーは俺たちにそういうと、俺たちの前から消えていった。俺たちはギルドに入って、クエストクリアの報告をする。



「クエストお疲れ様でした。シンさんたちの活躍はギルド職員から確認済みです。こちらが報酬金となります」



 俺は750(ゴールド)入った袋を受け取り、ギルドカードには1500GP(ギルドポイント)が追加された。


 後半はほとんどオウマが弱らせたウルフを倒していただけだったけど、魔王軍と遭遇したりで大変なクエストだったと感じた。



「あと、シンさんたちは会議室に来てほしいとのことです」


「分かりました」



 俺たちは、ハンナさんに案内されて、会議室に行くことになった。


 会議室に入ると、キャリーとギルド長のドラコニスが座って待っていた。そして、ドラコニスさんの目の前にあるテーブルには、ゾンビとなったゴブリンとドン・ウルフの肉と骨が、布を敷いた板の上に置かれていた。



「座ってください、話はだいたいキャリーさんから聞きました。森に魔王幹部の1人であるブランチがいて、新たに報告された魔王幹部の1人であるベルゼが現れたと……しかもベルゼは死体に虫を取り着かせゾンビに変えるのですね。みなさんも見ていたはずですが、キャリーさんの言っていることは事実ですか?」


「はい、事実です。テーブルの上に置かれているドン・ウルフを倒すと、ブランチとベルゼが現れて、帰り際にベルゼが、倒したドン・ウルフの周りに虫を集め、ゾンビに変えました」


「そうですか、北に向かった上位冒険者から、ゾンビの報告が何十件もあったのでおかしいとは思っていましたが、魔王軍にゾンビを生み出せる者がいるとは……」



 ドラコニスは困ったような表情を浮かべていた。そして、さらに険しい表情をしながら、別のことを聞いてくる。



「それで他にも聞きたいことがあるのですが、シンくんたちではドン・ウルフを倒すことが出来ても、魔王幹部を退けることは出来ませんよね、何があったのですか?」



 俺たちは、助けてくれたオウマたちのことを言うべきか悩んだが、隠すことで余計なトラブルが起きても困るので、正直に話すことにした。






「…………ブラホス……ですか。また厄介な相手と会いましたね」


「ドラコニスさんは知っているのですか?」


「ええ、彼が元魔王というのは本当の話です。100年以上前の記録ですが、魔王として暴れていました。そして、冒険者学校の校長を務めるジークさんに倒されたことも書かれています。弱体化しているとはいえ、生きているとは……それでも今の魔王幹部を退けられる実力があるのも恐ろしいです」


「オウマやオウマのお父さんはこれからどうなるのでしょうか」


「話を聞く限り、我々に敵対する気はないようですので放置していても大丈夫でしょう」


「魔王はどうしますか?」


「魔王スラルンに関しては、姿を現していないので、ギルドでも対策が取れない状態です。ですが、スライムの突然変異種というのが分かったので助かりました。ありがとうございます」



 ドラコニスは俺たちに頭を下げて感謝を伝えた。



「ここからはドン・ウルフを倒した事と、ゾンビの発生理由の解明と、魔王幹部および魔王の新たな情報の功績として、特別報酬を与えたいと思います」


「特別報酬!? 何だろうねシンくん」


「何が与えられるのかしら?」


「……無難に(ゴールド)とかだろう」



 アオもユカリもハクも、特別報酬に期待しているようだ。



「こちらの書類にサインして欲しいのですが、嫌でしたら別の報酬を用意しますよ」



 ドラコニスはキャリーを除いた俺たち4人に紙を渡した。



「これは?」


「これは宿屋の契約書ですよ。今はアオくん、ハクくん、ユカリさんが使用している宿といった方が分かりやすいですか?」


「あの宿ですか!? ごめんなさい、まだ宿代が貯まっていないんです」



 アオは立ち上がって謝るが、ドラコニスは「まあまあ」と落ち着かせる。



「これはその宿を1ヵ月間の代金を、我々ギルドが負担するという契約です。アオくんたちは、まだ1週間と数日ほど契約期間が残っているので、それが終わり次第、この契約書が有効になります。シンくんも、この契約書に今サインをしてくだされば、即入居させることが出来ます。もちろん、アオくんたちと同じく1週間と数日後に契約書が有効になりますが、我々がその分の代金を負担いたします。どうしますか?」



 そんな美味しい話を断る理由はないだろう。ちょうど、俺の住んでいる宿の更新も今日で切れるので、新たな宿に引っ越しをしようと思う。



「「「「お願いします!」」」」



 こうして俺は、新しい宿に身を置くことになった。

ドン・ウルフのゾンビは、オウマに首を切られて頭を燃やされて倒された。


ドラコニスに魔王幹部のブランチやベルゼのことを話、元魔王ブラホスや魔王スラルンのことも話した。


そしてドン・ウルフを倒した事と、ゾンビの発生理由の解明と、魔王幹部および魔王の新たな情報の功績として、アオたちが住んでいる宿に、1ヵ月間の代金をギルド負担で済むことが出来るようになった。

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