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151話 ☆3『ウルフ討伐』⑧(黒馬)

 洞窟は奥まで続いていて、奥へ進むと洞窟の入口が小さくなっていく。松明の明かりに照らされて、洞窟の壁や床に所々血の跡があった。



「その血の跡は、ここに元々住んでいたウルフのものだよ。僕が寝床を確保しようと洞窟の中に入ったら。僕を見るなり襲ってきたから、壁に叩きつけてやったら、口から血を出しながら逃げて行っちゃってね。その時に付いた血だよ」


「逃げたってことは、オウマはそのウルフを倒さなかったの?」


「戦うつもりで来たわけじゃないからね。逃げるなら追ったり倒したりはしないよ。ほら、着いたよ。ここが僕と父さんが使っている場所だよ」


「ここは広くなっているんだね」



 オウマたちが使っている所は、高さも幅も、通って来た道より大きかった。



「……ここなら寝床として十分使えそうだな」


「そうだよね、僕ならここに明かりを置くかな」


「私はこの辺りにテーブルを置きますわ」



 ハクもアオもユカリもこの空間を楽しんでいるようだ。



「みなさん楽しそうですね、シンさんはどうですか?」


「俺は扉が欲しいかな。それにしても、ここの壁だけ異様に黒いよね? なんでだろう」



 キャリーの松明で照らされているのに、そこだけ明るくならないので、気になって俺はその黒い壁を触った。触れた手には温かいと伝わってくる。それでいて表面は適度に柔らかいのに、その奥には硬い何かがあるような感じがした。



「これはいったい……黒い毛?」


「シンが触っているのは父さんだよ」


「えっ! これがオウマのお父さん!?」



 俺は手を引っ込めて後ろに下がり、目の前にある黒い何かをしっかり見ようと後ろに下がり、全体を見ようとする。しかし、黒い何かがあるとしか思えなかった。


 アオたちもこの黒い何かがオウマのお父さんと聞いて驚いている。



「シンたちが見ているのは父さんの背中だよ。向こうから回り込めば顔が見えるよ」



 俺たちはオウマについて行きながら回り込んで、この黒い何かの正体が何なのかが分かる。



「馬……かな? でも角が生えているよ、誰か分かる?」



 俺がそう聞くとキャリーが答えてくれるみたいだ。



「ユニコーンに似ていますが黒い体毛ですねぇ。強個体でしょうか、突然変異種でしょうか? あっ、羽がありますよ。ペガサスでしょうか? とにかく魔物図鑑には載っていない魔物ですね」


「魔物!? オウマのお父さんって魔物なの!?」


「そうだよ、僕の父さんは魔物。でも今は人間を襲う気はないみたいだよ。シンたちのこと話してくるから、それまで大人しくしていてね」



 オウマは父親に近づいて行った。何か話しているようだがオウマだけの声が聞こえる。



「父さん、今日はお客さんを連れてきたよ」


「…………」


「違うよ、今日はこの人たちだよ」


「…………」


「そうそう! それで、外で寝泊まりしようとしていたからここに連れてきたんだ」


「…………」


「いいでしょ父さん、1日だけだからシン達をここにいさせてよ」


「…………」


「元でしょ? ねえ父さんお願いだよ」


「…………」


「ありがとう父さん! シンたちが魔物に襲われても僕が守るから大丈夫だよ」



 オウマは笑顔になると俺たちの所に戻って来た。



「父さんが1日だけならここにいて良いって!」


「本当にそんなこと言っているの? 俺にはオウマが勝手に話を進めているようにしか思わなかったけど」


「父さんは念話が使えるから、声に出さなくても会話ができるんだ」


「本当に?」


「信じていないなぁ」



 オウマは父親の方を向く。



「父さん、シンに念話を使ってみてよ」


「…………」


「『くだらん』とか言わないでやってよ。言う言葉は『力が欲しいか……』でお願いね」


「…………」



 オウマの父親が目を開け、俺の目を見る。その瞬間、あの感覚を思い出した。自分の死を予感させるほどの強力なプレッシャー、強い魔物と戦闘になった時のようだ。


 それの何倍も重く息苦しい。でも、殺意が込められていないからこそ、俺は立っていられる。もし殺気を込めて見られたとしたら、それだけで地に倒れていただろう。



「(力が欲しいか……)」


「っ! 頭の中に声が!?」


「(我の力が欲しいか……)」


「あ……あぁ……」



 俺は目を見開き、開けた口を震わせてその場に立ち尽くすだけで精一杯だった。そんな時に、両肩を誰かに掴まれた。



「うわっ!」



 心臓が跳ね上がるほど驚いた。



「どう? 念話は本当だったでしょ」



 俺の肩を掴んだのはオウマだった。



「うん、本当だった。ありがとう、助けてくれて」


「どういたしまして。それと父さんが張り切りすぎちゃってごめんね」


「それは大丈夫、念話が体験出来て良かったよ」



 あのままオウマが俺の肩を掴んで意識を外させてくれなかった、今頃どうなっていたか。俺の心臓はドクドクと強く脈打つ程度では済まなかっただろう。


 オウマの父親を見ると、役目を終えて静かに目を閉じている。



(確かオウマたちは逃げてここに住んでいるんだったよね、あれだけ強いプレッシャーを与えられるのに、逃げる必要はあったのかな?)


「シンさーん、料理の準備をするので来て下さい」


「分かった、今行くよ」



 キャリーに呼ばれたので、俺はオウマの父親から目を離して、みんなの所に行くのであった。






 ■






「「「「「いただきます」」」」」



 俺たちは湯気の立ったスープを飲み、パンを食べ、水で口の中を潤した。



「まさか外で温かい食事ができると思わなかったよ」


「魔法石を入れて火をつける魔道具なのですわね」


「はい! この火炎コンロのおかげで温かいスープを用意することが出来ました。シンさんとアオさんは驚かないんですね」


「僕とシンくんは『ポーション製作』のクエストで、火炎コンロを使ったことがあるから見たことあるんだよ」


「そうでしたか! あ、シンさんスープのおかわりありますよ」


「じゃあおかわりもらおうかな」



 俺は飲み終わったスープの器をキャリーに渡して、温かいスープを入れてもらった。それを受け取ると一口飲む。



「でも、どうやって液体のスープを零さずに運んだんだろう、キャリーもかなり走って荷物が揺れていたよね?」


「……シンはキャリーが作っているところを見ていなかったのか?」


「何かやっていたの?」


「はい! 実は、凍らせたスープを箱に入れて、箱を袋で包んで蓋が取れないようにしていたんですよ。凍らせているので、スープが動くことはなく、零れる心配はありません。そして、食べるときに温めれば、スープが飲めるようになるということです!」


「そういうやり方で運んでいたのか」


「そうなんです! ですので、スープは全部飲み切ってください!」


「じゃあ私もおかわりしますわ」


「僕も!」


「……俺も協力しよう」



 こうして俺たちは全員おかわりして、スープを飲み切り食べ終わった。






「私は食器を片付けますので、寝袋の用意はもう少しお待ちください」



 食器や料理器具などを軽く水で洗い、綺麗な布で拭き、箱に入れていく。

 全て洗い終わると箱に蓋をして、丁度良い大きさの袋に入れ、その袋をキャリーのカバンの中に入れた。


 俺は父親を背もたれに使っているオウマの前に座って話しかける。



「オウマ、本当にご飯は食べなくて良かったのか?」


「食事は父さんと一緒に食べるから大丈夫だよ」


「そっか……あのさ、何でオウマとオウマのお父さんは逃げてきたの?」


「何でそんなこと聞くの?」


「いや、話したくないなら言わなくていいんだけど、オウマのお父さんが俺に念話したとき、物凄く強い力を感じた。オウマのお父さんは強い方だと思うし、オウマだってウルフ相手に圧勝していたから、何から逃げているのかなって」



 オウマは俺から目を離して父親の方を見る、話して良いのかという許可をもらっているのだろうか。



「僕たちは、とある奴らに追われていてね、何度も追い返しているんだけど毎日しつこいから、住んでいる場所を変えているんだ。痛い目に合わせると逃げるから追いかけたりしなかったけど、そろそろ我慢の限界でね、父さんが力加減を間違えて追い返す前に、僕たちが奴らの前から姿を消したかったんだ。だから逃げていた」


「なるほど、そのしつこくしてくる奴らって、もしかして…………」






「ワオォォォーンッ!!!」






 洞窟の入口辺りから大きくそれでいて力強い咆哮が聴こえてきた。



「何だこの声は!?」



 俺たちは武器を装備して、急いで洞窟の入口まで走る。


 外に出ると、そこには俺の身体よりも大きいウルフがいた。



「……さっきの咆哮はこのウルフからか」


「大きいよっ!」


「私たち食べられてしまいますわ!」


「このウルフってもしかして、あの大きな足跡を付けたドン・ウルフ!?」


「グルルルゥ……いない……」


「「「「え?」」」」



 俺たちはウルフの声を聞いた、言葉を聞いた。



「俺様の探している奴じゃない」



 間違いない、ドン・ウルフが俺たちと同じ言葉を話している。



「ウルフが……言葉を……」


「シン、ここは僕に任せて」



 オウマは俺たちの前に出てウルフの正面に立つ。



「見つけた……お前を探していた」


「ん? 君と会ったことはないよ?」


「忘れたのか、俺様の住処を奪ったくせに」


「ああ、この洞窟に住んでいたウルフだったのか、ずいぶん大きくなったんだね。それで、何しに来たの? 洞窟なら僕たちがしばらく住むから返さないよ。でも、僕たちの使っている所の前とかだったら使っても良いよ」


「ふざけるな、お前を食い殺し、力尽くで奪う」



 ドン・ウルフは赤い目を光らせ、足に力を入れ、戦闘態勢に入った。



「それが、君の答えだね。みんな洞窟まで下がってくれ」



 俺たちはオウマの言うことを聞いて洞窟まで下がった。






「さあ、始めようか」



 オウマとドン・ウルフの戦いが今始まろうとしていた。

洞窟に入ると、壁や床に血の跡があり、ここに住んでいたウルフがオウマに襲い掛かり返り討ちにして出来た跡のようだ。この時のウルフは逃げた。


洞窟の奥まで進むと広めの空間があり、そこにはオウマの父親がいた。


オウマの父親は黒い体毛に角や羽が生えている馬の魔物だった。また念話を使って会話ができるようで、俺はそれでビビらされた。


キャリーが料理をして温かい食べ物を食べることが出来た。


オウマになぜ強いのに逃げてきたのか聞こうとしたら、洞窟の入口辺りから咆哮が聴こえて、急いで向かった。


外にはドン・ウルフがいて、そのドン・ウルフはオウマからこの洞窟を取り返そうと戦いを挑む。




新キャラ紹介


・ブラホス(オウマの父)


黒い体毛に角や羽が生えている馬の魔物。大きさは10(メートル)だが、縮むことも可能。


ペガサスやユニコーンの突然変異種で元々人型だったが、戦いにより深い傷を負い、人型を維持するほどの力が残っておらず、馬のままでいる。


念話を使うことができ、言葉を発さなくても意思を伝えることが出来る。

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