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148話 ☆3『ウルフ討伐』⑤(死体)

 あれから俺はみんなの所まで戻り、ウルフがゴブリンを食べて強くなったこと、そして大きな足跡があり、かなり強くなっているウルフがいることを説明した。



「……これは大変なことが起きているな、その大きな足跡のウルフに出会ったら全滅もありえる」


「大きな魔物がいるのにギルドに討伐依頼や注意喚起がないのも怖いですわ」


「ゴブリンを食べて急激に強くなったんだろうね。俺たちがお昼に魔物の討伐をしていなかったら、その魔物もウルフに食べられて糧にされていたかもしれない」



 5人の表情は暗く、松明の明かりをただ見つめる。



「ねえみんな、ここは帰ってギルドに報告した方が良いよ」


「アオくんの言う通りですわ! こんな状態でのウルフ討伐なんて危険ですから、帰った方が良いですわ」



 アオとユカリは帰る方が良いと言っているが、ハクとキャリーは違うようだ。



「……帰るにしても、状況を報告するために詳しく調べる必要がある」


「そうですよ! どれくらいの被害なのか確認しないとギルドも対応が出来ません」


「……シンはウルフの足跡がいくつあったとか、どちらに向かって移動しているとか、食べられていたゴブリンの数とか分かるか?」


「ごめん、そこまで詳しくは調べてなかった」



 俺は大きな足跡とたくさんのゴブリンが食べられていた状況を見て、みんなの所に引き返して情報を集めていなかった。



「……これで決まりだな、街に帰るのは調べてからにする」


「そうですね、早く情報を集めて森から抜け出しましょう! シンさん案内お願いします」


「こっちだよハク、キャリー」



 俺はみんなをゴブリンが食べられたところに案内しようと移動する。



「仕方ないですわね、行きますわよアオくん」


「うん……大きいウルフかぁ……どうか僕たちの前に現れませんように!」



 ユカリは歩き出し、アオは祈るように両手を合わせてユカリについて行った。






 俺はみんなをゴブリンが食べられていた場所まで連れてくる。



「うっ……」


「これは……」


「いっぱい食べられていますね……それに虫も多くいます」



 アオやユカリは目を背けて、キャリーは口を押えながら食べられたゴブリンたちを見る。


 俺はハクを地面に残った足跡の所まで連れていく。



「ここだよハク」


「……これが大きなウルフの足跡か……確かに大きいな……キャリー、こいつをどう判断する?」


「この大きさならウルフからドン・ウルフ進化しているはずです」



 ハクとキャリーはしゃがんで足跡を見つめる。



「……俺たちで倒せそうか?」


「厳しいと思います。ドン・ウルフも(ほし)3の討伐クエストに出される魔物ですが、今回のウルフ討伐のように、討伐数が多いから(ほし)3にされているクエストとは違い、(ほし)3冒険者くらいの実力が要求されます」


「つまり俺たちの実力じゃ……」



 俺とハクとアオとユカリは全員(ほし)2の冒険者、実力には合っていない。



「……厳しい戦いになることは確実だな。幸い、ドン・ウルフの足跡は森の奥に続いていて、街とは反対の方向だ、このまますぐに帰れば出会うことはないだろう」


「そうですね、食べられたゴブリンの数もシンさんが言っていたほど多くないみたいですし」


「あれ? 俺が見たときもっとゴブリンがいたような……」


「……それはどういうことだ?」



 ハクが俺に聞いてくる。



「俺が最初に見たとき、あそこの木の近くで倒れていたゴブリンがいたはずなんだよ。他にも、場所は覚えていないけど、もっとゴブリンは多かった!」


「……見間違いじゃないのか?」


「分からない、でも確かにここにいたはず……」



 俺は一部だけ覚えているゴブリンが倒れていた場所に向かった。



「あっ……」


「……どうした」



 立ち上がったハクが俺を見る。



「血だ……」


「……血?」


「ここだけ血溜まりになっているのにゴブリンがいない」


「……なんだと! 本当だ、血だけ残っている」



 俺の側まで駆け寄ったハクは、地面に残った血溜まりを見て驚いていた。この血の量はここに血を流したゴブリンが、しばらくの間この場所にいないとできないほどの量だ。



「……ウルフの足跡はあるか? あったらウルフが戻ってきて残らず食べたという可能性がある」


「ううん、ないよ。どこにもウルフの足跡はない」


「……それじゃあいったい……」


「うわぁぁぁ!」「きゃぁぁぁ!」



 アオとユカリの叫び声が聞こえる。



「……また虫か?」


「ハク、違うみたいだよ!」



 アオとユカリが俺たちの方に走ってきて、俺とハクの後ろに隠れる。



「いったい何が……うわぁ!」


「……何だシン? 何が見えている。キャリー、アオたちが逃げてきた方向を明るくしてくれ!」


「は、はい!」



 キャリーは松明を向けると、草むらからゆっくりとこちらに近づく存在がいる。


 近づくにつれて正体が分かる、足が見えるが、ほとんどが骨で、肉は少しだけ骨に付いているだけだ。次に腰、腹、胸、頭と下から順番に明るく照らされていく。その部位はほとんどが肉で、一部骨が露出している。



「……ゴブリン……だと? だがしかし、あの姿をゴブリンと言っていいのか……」



 ハクは目を見開き目の前の、顔や頭の骨が見えているゴブリンの姿に驚く。



「ヴゥゥ……」



 ゴブリンの姿をした何者かが呻き声を上げる。すると、したいとなっていたゴブリンたちがゆっくり起き上がろうとする。



「ヴゥゥ……」「ヴゥゥ……」「ヴゥゥ……」


「ハクさん! これはゾンビです! ゴブリンがゾンビの魔物に変わったのです!」


「……ゾンビだと? なぜそんな魔物がこんな所に?」



 ハクは落ち着いて弓を構えて、ゾンビの頭に狙いを定めて矢を放つ。



「ヴァァ……」



 ハクの矢はゾンビの頭に刺さって倒れるが、ゾンビは何事もなかったかのように起き上がり、こちらに向かってくる。



「……やはりあまり効果はないようだな」


「嘘だろ! ハクの矢が頭に当たったんだぞ、なんで動ける! 俺が切ってやる! はぁぁ!」



 俺は目の前にいる3体のゾンビたちの所まで剣を抜きながら走る、ゾンビは近づいた俺に攻撃をしようと腕を振り上げるが、動きが遅いのでゾンビたちが攻撃する前に切る。


 ゾンビたちの足や腕を切り落として、ゾンビたちは倒れるが、すぐに起き上がり、切ったはずの足や腕をもとの位置にくっつけて再び動き出す。



「切ったはずなのに全然効いていない!」



 俺は奥歯を噛みしめ、剣を強く握る。



「シンさん、ゾンビは死んでいる者が魔物に変化するのです、なので物理攻撃はほとんど効きません!」


「そうなのか!? でも、物理攻撃が効かないってことは、魔法は効くってことだよね」


「その通りです。ゾンビは火属性が苦手ですよ!」


「分かった!」



 俺はゾンビに向かって手の平を向ける。



「『ファイア』『ファイア』『ファイア』!」



 一気に3発の『ファイア』を放ち、3体のゴブリンを焼いていく。だが、身体の一部が燃えているだけで、致命傷にはなっていない。



「ヴァァ……」


「火力が足りないか……ユカリ! 風属性の魔法って使える?」


「普段は使いませんけど、一応使えますわ!」



 俺はユカリの方の向いて聞くと、風魔法を使えるとユカリはハクを盾にしながら顔を出して答えてくれる。



「じゃあゾンビに風魔法を使ってほしい。そうすれば炎が風で燃え上がって強くなるから」



 俺はニヤリと笑って、燃えるゴブリンの方に向き直す。



「分かりましたわ! 私の魔法が当たってしまいますので、シンくんはそこから離れてほしいですわ!」


「分かった、ユカリ頑張れ!」



 俺は横に避難する。



「『ウィンド』!」



 ユカリの手から風が吹き出し、周囲の草や葉が揺れ、ユカリの髪も揺れている。だがそれは、ユカリより後ろにあるものだけ。


 ユカリの正面は風で荒れていて、それが1体の燃えるゾンビに当たると、空気を取り込んだ炎が一気に強くなり、ゾンビの全身を包むように燃えていく。



「良いぞユカリ! この調子で残りの2体も頼む」


「分かりましたわ! 『ウィンド』『ウィンド』!」


「ヴァァ……」「ヴァァ……」



 他の2体のゾンビも炎に包まれ、全身を焼かれている。しかしそれでも、こちらに少しずつ歩み寄ろうとして来ていた。



「くっ……まだ倒せないのか!」


「……今度は俺の番だな」



 ハクが矢を3本放ち、3本ともゾンビの頭に当たりゾンビが倒れる。


 ゾンビたちは起き上がろうとするが、支えていた手や足がボロっと落ち、上手く起き上がれない。



「ヴゥゥ…………」



 炎はゾンビたちを焼き切り、骨だけになり動かなくなった。そしてゾンビたちから経験値が出て倒したと確信する。






「まさかウルフ討伐に来たのにゾンビと戦うことになるとは思わなかったよ」


「本当にそうですわ!」


「僕は虫とかお化けは嫌なのに何でこんなことに……」


「……とにかく今は急いで帰った方が良い、ゾンビがこんな所に出るなんておかしいからな」


「みなさん、大変です!」


「どうしたのキャリー……うわぁ!」



 キャリーが慌てているので辺りを見渡すと、周りはゾンビだらけになっていた。特に街の方向にはかなりの数のゾンビがいて、そちらに逃げることはできなさそうだ。



「この数の相手は無理だ! みんな森の奥に逃げるよ!」



 俺たちはゾンビたちから逃げるため、森の奥に進んで行った。

みんなの所に戻って、ウルフがゴブリンを食べて強くなったこと、大きな足跡があり、ゴブリンを食べかなり強くなっているウルフがいることを伝えた。


街に帰ってギルドに報告しようということになりそうだったが、俺が詳しくゴブリンが食べられていた場所を調べていなかったため、あの場所に戻り、調べ直してから帰るということになった。


着くと、強くなったウルフはドン・ウルフとなっている可能性が高いみたいだ。そしてドン・ウルフの足跡は森の奥に進んでいるようだった。


調べたので帰ろうとしたらアオたちが悲鳴を上げ、逃げてきた先を見るとゴブリンがゾンビになっていた。


何とか3体のゴブリンを俺の『ファイア』とユカリの『ウィンド』を使って燃やし、ハクが矢で地面に倒れさせて、ゾンビは起き上がると身体がボロっと崩れ、そのまま骨だけになるまで燃え、倒した。


そうしている間に、新たなゾンビに周りを囲まれ、街に帰るための方向にはゾンビが多すぎて進めなかったので、街とは反対の森の奥へ逃げることになった。



魔物の紹介


・ゾンビ


死んでいる者が魔素を取り込むことでゾンビという魔物になる。決まった見た目はないが、今回はゴブリンの死体から魔物になったので、ゴブリンの姿に似ている。


動きは遅いが、物理攻撃があまり効かず、なかなか倒すことが出来ない。頭を貫かれても、手足を切り離しても、動くことができ、手足はくっつけて治すことが出来る。くっつけるのが難しいくらい粉砕すると物理攻撃でも倒せる。


魔法や属性攻撃に弱く、それらを使えばダメージを与えられる。また、回復魔法は大ダメージを与えられる。



・ドン・ウルフ


ウルフが大きくなったような魔物。ウルフのリーダーみたいな存在である。

倒すのに(ほし)3冒険者くらいの実力が必要。

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