14話 魔法鍛錬!②(瞑想)
「シンくんは魔力の総量が全然足りません、今は瞑想の時間を増やして魔力量を増やします」
「はい」
ランド先生の部屋で俺は朝にいつもやる瞑想をする。見られていると意識すると瞑想に集中することが難しかった。
「乱れていますね、瞑想を止めてください」
俺は瞑想を止めランド先生の方を見る。困ったような顔をしていた。顎に手を付け目線を上の方へ向け考え出す。少しすると案が出たのか、机の引き出しから袋を取り出した。
「ランド先生それは?」
「これにはハーブが入っています、香りを嗅ぐと落ち着きますよ。シンくんの瞑想が乱れるのは緊張のせいもあると思います。一度試してみましょう」
そう言うと別の引き出しを開きポットを用意する。ミルクの入っていた箱から水を用意しポットに入れる。袋に入っていたハーブを取り出し、それもポットの中へと入れていく。シンが落とした魔法石を手に乗せ魔力を送ると青黒い色から明るい青に変わっていった。
「シンくん、これが魔力を十分に送った魔法石の色です、とても綺麗でしょう。そしてこれはただ綺麗なだけの石ではありません」
ランド先生は魔法石とポットを持って別の机に向かう。机は一部金属でできていて、そこにポットを置いた。机に繋がっている入れ物に魔法石を入れると、金属の部分が赤くなって熱を出し始めた。
「これは!?」
「お湯を沸かすことのできるアイテムです、魔法石の魔力を使って動きます」
(まさか冷蔵庫っぽい物に続いてコンロっぽい物も出てくるとは……もしかして冷蔵庫も魔法石を使っているんじゃ)
俺が色々考えている間に良い香りがしてきた。ポットをみるとゆっくりと湯気が出ていた。嗅ぐと確かに落ち着いた。
「シンくん、今度はイスに座って瞑想をしてみてください」
俺はイスに座り瞑想を始める。ハーブの香りのおかげか自分の中に意識が集中していくのが分かる。そうなると先ほどまで聞こえていなかった音が聞こえてくるようになる。ポットからぐつぐつとお湯の沸く音、窓が風によって揺れる音、ランド先生がイスに座る音、俺の呼吸の音……目は閉じているのに周りが見える、まるで上から見ている感覚だ。
「その調子です、ゆっくりと意識を身体に巡る魔力に」
ランド先生はささやくように話す、シンにはその声の大きさでも十分に聞こえるほど周りの音に敏感になっていたが。しだいに周りの音が小さくなっていく、自分から音が離れていくような……そして音は聞こえなくなり身体からも無駄な力が抜けていった。
(良い瞑想ですね、眠るような脱力ができています……ハーブの香りが無くなるまで私も……)
ランド先生はシンの瞑想を見て自分も瞑想を始める。意識が無になり気が付けば窓からは夕日の優しい光が2人を包んでいた。ポットの水がすべて蒸発してハーブの香りを作れなくなったので、時間とともに部屋に充満していたハーブの香りも薄れていた。
ランド先生が瞑想を止めシンの様子を見る、シンは寝息を立てていた。シンの肩を優しく叩き起こそうとする。
「シンくん、起きてください」
「……ん……あっ……すみませんランド先生、いつの間にか寝ていました」
「私も瞑想に集中しすぎてシンくんが寝ていると気が付きませんでした、お互い様です。寝たことによって魔力は回復したと思います、もう一度魔法石に魔力を流し込んでください」
渡された魔法石に魔力を流す、イスに座っていたので倒れはしなかった。魔法石は微かに光っていた。
「数時間の瞑想ですが成果は出たようですね、まずは第一歩と言ったところです」
そう俺に微笑みかける。
「ランド先生、魔法はいつになったら教えてもらえるのでしょうか?」
「呪文でしたら明日からでも教えます、ただ魔法は……」
少し悩んだ後、俺の手にある魔法石を握らせる。
「ではこの魔法石をシンくんにあげます。毎日寝る前に魔力を流して光らせてください。そしたら魔法を使う鍛錬をします、それまでは瞑想と呪文を教えます」
「分かりました」
「よろしい、では明日の昼食後に私の部屋に来てください」
「はい!今日はありがとうございました、また明日もよろしくお願いします」
俺はイスから立ち上がり頭を下げて部屋を出た。
――
夕日は沈み、もう夜と言っていい時間になってきた。
「こんな遅くに帰ってくるんだから何か教えてもらったの?」
「ランド先生から魔法について教えてもらうことになったよ」
自分の部屋に戻るとアオから質問があり、俺は教わることになったと素直に話す。
「……魔法を選ぶということは、剣での攻撃に期待できないということでもあるな」
「ははは……それは……うん、そうだね」
ハクからは厳しい現実を言われる。
「ランド先生からは課題をクリアするまで瞑想と呪文を教えるって言われてるから、魔法を覚えるのはまだまだ時間はかかりそうだね」
「僕もまだ魔法を覚えてないからシンくんと一緒だね」
「……俺も魔法は使えないから今はシンと同じだな、だがあまり時間をかけてると俺とアオが先に魔法覚えちまうぞ」
アオは純粋に俺を励まし、ハクもなんだかんだ言いつつも俺を励ましている。
「アオ、ハク……ありがとう」
「ところで、ランド先生からの課題って何なの?」
俺が感動しているとアオから課題は何かと尋ねられた。俺は魔法石を出し見せる。
「この石を光られることが課題」
「……ちょっと見せてもらってもいいか?」
「え?あぁ良いよ」
ハクは俺から魔法石を受け取ると、自分のベッドに置いてある本を開き石と交互に見比べていた。
「なにかおかしいところでもあった?」
「……本物の魔法石か確認していた。レア度の低い魔法石だが本物だ」
「魔法石なんて初めて見たけど珍しい物なの?」
アオも初めて魔法石を見たみたいだ。
「……俺も魔法石は本でしか見たことがないから本物か確認してしまった。この魔法石は珍しくないが、レア度の高い魔法石はなかなか出回らないな、まさかこんなに早く実物を見るとは思わなかった。シンありがとう」
俺に魔法石を返すとお礼を言われた。貰い物なので素直に喜んでいいか分からなかった。その後も雑談をして夕食を取り寝るだけとなった。
(これから毎日魔法石に魔力を流す……)
ベッドで横になりながら淡々と魔法石に魔力を流していた。
(今日はここまでにしよう……)
寝ている姿勢でもふらっとしたので魔力を流すことを止めた。
久々に長いと感じる1日であった。