139話 ☆3『スーパーポーション製作』③(鰐靴)
魔法薬製作室の扉付近でドカッとぶつかるような音がする、その後にティストが荷台を押しながら魔法薬製作室に入ってくる。
「サイエン、上薬草持ってきたぞ」
「ティスト……また荷台をぶつけたね、その中身は上薬草なんだよ。いつでも手に入る薬草とは違うんだ、もっと慎重に運んでほしいんだよ」
サイエンはティストを睨んだ。ティストは手を合わせて軽い口調で謝った。
「わかったわかった、次からは気を付けるからさ」
「はぁ……毎回同じことを言っているんだよ」
サイエンはため息を吐くが、すぐに気持ちを切り替える。
「倉庫から魔法石を持ってきたらティストもスーパーポーションを作ってほしいんだよ」
「りょーかい!」
ティストは元気よく返事をすると魔法薬製作室から出ていった。サイエンはティストが運んできた荷台の中の上薬草の入った袋を手に持つと、それを俺に渡す。
「やり方はポーションを作った時と同じだよ。覚えているかい?」
「はい、やってみます!」
俺は火炎コンロに魔法石を入れて火をつけて、沸騰するまで待った。沸騰したら、袋から上薬草を取り出し、釜に入れていく。棒を使って釜の中のかき混ぜていくと、水の色がどんどん濃い青色になっていった。
「あれ? こんな色だったっけ?」
「スーパーポーションは濃い青色だよ、シン君が想像しているのはポーションの青色だよ。使っている素材が違うんだ、当然現れる反応も変わるよ。さぁ、この上薬草エキスを掬い取るんだよ」
「分かりました」
俺は引き続きポーションの作り方を思い出しながら進めていく。次は、ザルを使って上薬草の残りカスが入らないようにしながら、濃い青色の上薬草エキスを容器に入れた。
「この上薬草エキスと、魔水を合わせることでスーパーポーションが完成する……で良いんですよね?」
「その通りだよ、よく覚えていたね。あとはシン君の魔水でスーパーポーションが作れるかどうかだよ。初めて作るときの比率か覚えているかい?」
「はい、最初は5:5ですよね」
「よし、そこまで分かっているなら問題ないんだよ」
俺は試験管のような容器2本を用意して、片方には魔水を半分、もう片方には上薬草エキスを魔水と同じ量になるように半分入れた。
その2つを別の容器で混ぜ合わせると、上薬草エキスの濃い青色から少し透明度が増したものが出来上がった。
「サイエンさん、これは魔水を増やすべきでしょうか、減らすべきでしょうか?」
俺は作ったスーパーポーションをサイエンに見せて答えを待つ。
「これは魔水が足りていないんだよ、次からは魔水を多く入れるんだよ」
「はい、この失敗したスーパーポーションはどうしますか?」
「それは後で使うからどこかに置いておくんだよ。まずはスーパーポーションを完成させよう」
「分かりました、次は魔水と上薬草エキスを7:3でやってみます」
7:3で混ぜ合わせたものは、先ほどよりも透明度が増してきた。そして、見覚えのある色にもなってきている。
「どうですか?」
「……まさか2回目で出来るとは思わなかったんだよ」
「え? じゃあこれはスーパーポーションが出来たってことですか!?」
「驚きなんだよ、ポーションには濃縮器がいらないと思っていたのに、スーパーポーションにも濃縮器がいらないほどシン君の魔力の質が上がっているとは」
「ということは、これから俺の魔水と上薬草エキスが続く限り7:3で作れますね」
「そうだね、たくさん作るんだよ」
俺は今作ったスーパーポーションを、専用の容器に詰めていく。そして、作れるだけのスーパーポーションをどんどん作っていった。
しかし、10個目を作り終わった辺りで、俺の魔水が足りなくなった。昨日のから魔力を込めていた魔法石も全部魔水に変えているので、今日は俺の魔水を用意することができなくなっていた。
「まだたくさん上薬草エキスがあるのに、これ以上作れないなんて……」
「いやいや、10個も作れたのは想定以上だったんだよ、本当はポーションの方が多くなると思っていたからね」
「ポーション? 俺が作っているのってスーパーポーションをですよね? なんでポーションの方が多くなると思っていたんですか?」
上薬草エキスと薬草エキスは別物のはず、俺はそう思っていた。
「シン君には使っている素材が違うと教えたね、でも上薬草エキスは薬草エキスよりも質が高いんだ、だから……」
サイエンは俺が最初に作った失敗作のスーパーポーションと魔水を手に持つと混ぜていく、すると、スーパーポーションとしては失敗だったものが、ポーションのような色に変わってきた。
「まさか……」
「そうだよ、スーパーポーションとしては使い物にならなくても、それより効能が落ちるポーションにすることができるんだよ。もちろん、スーパーポーションより報酬が安くなっちゃうけどね。でも、これなら失敗作も無駄にはならないんだよ」
コトッと音を立てながら、サイエンはポーションを机に置いた。
「でも、今日は失敗作が1つしかないから、これ以上ポーションが作れないね。これは嬉しい誤算だったんだよ。それじゃあ片づけを始めようか……ん?」
魔法薬製作室の扉付近でドカッとぶつかるような音がする、その後にティストが荷台を押しながら魔法薬製作室に入ってくる。
「サイエン、魔法石持ってきたぞ」
「ティスト……次からは気を付けるんじゃなかったのかい?」
「許してくれ!」
ティストは運んできた荷台を盾にしながらサイエンに許しをもらおうとしていた。
「ティストは持ってきた魔法石で私の分の魔水も作るんだよ、それとシン君の使った道具の片づけをしたら許す」
「ありがとう。シン、後は俺がやっておくよ」
ティストは俺の使った道具を片づけると、荷台から魔法石を取り出し、魔水を作る準備を始めた。
「さてシン君、ご苦労様なんだよ。それじゃあ今日の成果を確認するんだよ。シン君はスーパーポーション10つとポーション1つ。初めてポーション作った頃に比べたらかなり成長したんだよ。またお願いすることがあったらよろしく頼むんだよ」
「はい、今日はありがとうございました!」
俺はサイエンと魔水を作っているティストにお礼を言うと魔法薬製作室から出て行った。
受付の所まで戻ると、ハンナさんにクエストクリアの報告をする。
「ハンナさん、クエスト終わりました」
「シンさん、クエストお疲れ様でした。シンさんが製作したスーパーポーションは10つ、ポーションは1つとギルド職員が確認しています。こちらが報酬金となります」
俺は3050GPを受け取った。
「おぉ! こんなにもらえるのか! それじゃあハンナさん、また明日よろしくお願いします!」
ハンナさん手を振って見送ってくれて、俺はギルドから出て行き、クリエートに頼んだ靴を取りに鍛冶屋に行くのであった。
■
鍛冶屋に着くと、バンダナで顔を隠しているクリエートが、鍛冶職人の人たちに素材を運んであちこち動いていた。
素材を運び終えて一段落したところで俺と目が合った。すると急に慌てた様子で目線を外して、どこかへ走って行ってしまった。
「やっぱり朝のこと気にしているのかな……」
そう不安に思いながらしばらく待っていると、クリエートは靴を抱きしめるように持って戻ってきた。そして、俺の所に来ると、持ってきた靴を俺に見せてくる。
「シン、これ頼まれてた靴だよ」
「ありがとう」
俺は深い緑色をしている靴を受け取った。
「これって素材はもしかして……」
「そうだよ! ワニゲーターを使ったんだ!」
「靴にも使ったの!?」
「うん、お爺ちゃんから防具としては小さすぎて使えない部分を僕がもらって、繋ぎ合わせて作ったんだ。履いているところ見せて」
「良いよ」
俺は今履いているレインブーツを脱いで、クリエートの作った靴を履いた。俺の足にしっかり合っていて、とても動きやすくなった。
「凄く動きやすいよ!」
「シンにそう言ってもらえて良かったよ。靴の名前はゲーターブーツだよ」
「ゲーターブーツか、分かりやすくて良いね」
「これで僕の役目は終わりだね。また何かあったら僕の所に来てね!」
「ああ、また頼むことがあったらよろしく! あと、何もなくても遊びに誘ってもいいかな?」
俺がそう言うと、クリエートは目を輝いて嬉しそうにしているのが伝わってくる。
「うん、待ってるよ。遊びに誘ってね!」
「じゃあ俺は帰るね」
「バイバーイ」
クリエートは手を大きく振って俺を見送った。俺は鍛冶屋から出ると、自分の部屋に戻るのであった。
そして、部屋に入り、ファングソードとゲーターブーツを並べて一通り目で楽しむと、明日に備えて眠るのであった。
上薬草から上薬草エキスを出して、魔水と混ぜ合わせることでスーパーポーションを作った。
昨日から魔法石に魔力を込めていたおかげで、スーパーポーションを10つとポーション1つを作ることが出来た。
クリエートから受け取った靴はゲーターブーツという名に決まった。
・上薬草エキス
上薬草を煮ることで出来た濃い青色の液体。
装備の紹介
・ゲーターブーツ
ワニゲーターの革から加工されて作られた靴の名前。製作者はクリエートで、シンが使う装備である。
深い緑色をしている。
パッシブで装備時に防御力が少し上がる。




