136話 鍛冶屋で新装備!③(予約)
「シンさん、新しい武器おめでとうございます! 足を怪我しているのにこの威力が出せるなんて驚きました」
「俺も驚いています。足に衝撃が行かないように軽く振ったつもりなのに、あんなにあっさりと切れるなんて。クリエートが作ってくれたこの武器は凄いです」
俺が剣のことを褒めていると、バンダナで隠れていてもクリエートが嬉しそうな顔をしていることが分かる。
「では、正式にシンの武器に決まりじゃのぉ。クリエート、武器の名前はどうするんじゃ?」
「うーん、どうしようかな……」
スミスはこのワニゲーターの牙を使った武器の名前を、クリエートに決めさせるようだ。クリエートは目を閉じ、腕を組んで考えている。
「牙で作った剣だから……ファングソードにしよう!」
「ファングソードかぁ、いいねそれ」
「うむ、安直な名前じゃが、クリエートがそれでいいならそうしよう」
俺の武器はファングソードと名付けられた。
「では、新しい武器が完成しましたので、シンさんは料金を払わないといけないですね。クリエートさん、このファングソードはいくらになりますか?」
「うーん……爺ちゃん、いくらくらいが良いと思う?」
「バカもん、クリエートが作ったんじゃからクリエートが考えなきゃいかんじゃろ!」
「うぅ……でも、僕は初めてやったんだよ! 鉄の剣や鋼の剣なら相場が分かるけど、ワニゲーターの牙を使った鍛冶の相場が分からないよ!」
スミスとクリエートはこの剣にいくらつけるかで揉めているようだ。クリエートは眉間にシワを寄せながらスミスに声を張り上げるし、スミスは、クリエートのそんな態度を全く怖がらずにどっしりと構えている。
このままでは話が進まないと思ったので、大量にGの入った袋を2人の前にドンと置いた。俺の行動に2人とも言い争うのをやめて、俺の置いた袋を見つめる。
「ここに3000Gあります、これはギルドにワニゲーターから採れた素材の特別報酬としてギルドから渡されました。クリエートの作ったファングソードがどれくらいの価値があるかは僕には分かりません。でも、スミスさんから聞いた鉄の剣や鋼の剣の相場を参考にすると、このくらいのGがかかると思いました」
「鉄の剣や鋼の剣は素材をワシらが用意した時の値段じゃ、ワニゲーターはシンが用意した素材、クリエートの技術料だけでよい」
「……クリエート、スミスさんはこう言っているんだ。自分の技術に値段を付けなよ」
「うぅ……」
クリエートは俺からファングソードを受け取ると、じっくりと観察する。この剣を作る技術にどれだけの金額を付けるか考えているようだ。
「……に……」
「に?」
「2000G……僕の作ったファングソードには2000Gの値段を付ける!」
「クリエートはそれで良いんだね?」
「うん、シンは高いと思う?」
クリエートは首をかしげながら、不安そうに俺に聞く。
「どうだろう、俺には分からないけど、こんなに使いやすい武器が使えるなら出しても良いって思うよ」
「そう? シンにそう言ってもらえるなら僕は嬉しいよ!」
不安そうな顔は晴れて、元気を取り戻したクリエート。俺が出した袋から2000Gだけ取り出して、クリエートは自分の持っている袋の中にしまった。
「ところでずっと気になっていたんだけど、シンは何で雨でもないのにレインブーツ履いているの?」
クリエートは不思議そうに俺の靴を見る。
「あぁ、これはワニゲーターとの戦闘で靴がボロボロになっちゃって、とても履ける状態じゃなかったから、代わりにこのレインブーツを履いているだけなんだ。新しい靴を買わないとね……はぁ」
俺はため息交じりでクリエートに説明した。
「だったら僕がシンの靴を作ってあげるよ!」
「え、良いの! というより作れるの!?」
「当たり前じゃん、僕は鍛冶職人見習いだよ! 武器だけじゃなくて防具も作るんだ。靴も作れるよ!」
「なるほど、それで、いくらで作ってくれるの?」
「そうだな、500Gでどうかな?」
「500Gか、うん、良いよ。クリエートなら俺の足にピッタリの靴を作ってくれそうだ。でも、今は足を怪我しているから、怪我が治ってからお願いするよ」
「分かった、シンの怪我が治ってから作るね!」
「クリエートは商売上手じゃのぉ、もう次の仕事の予約を付けたのか。ワシは孫の成長が見れて嬉しいぞ」
スミスはうんうんと頷き、クリエートを温かい目で見つめる。その後は、ファングソードの鞘を作って、剣を鞘に納めて、俺の腰に装備した。
「ではシンさん、そろそろ私たちも戻りましょうか。スミスさん、クリエートさん、今日はありがとうございました。上位冒険者さんの装備のこと、よろしくお願いしますね」
「ハンナちゃん任せときな、ワシらは気合い入れて頑張るからのぉ!」
「バイバーイ!」
スミスは親指を立てて見送り、クリエートは両手をぶんぶん振って俺たちを見送った。俺もクリエートに向かって手を振って鍛冶屋から出て行った。
■
「良い武器に巡り合えて良かったですね」
「そうですね、これでクエストがかなり楽になりそうです。あれ? ギルドが騒がしくないですか?」
ハンナさんと一緒にギルドに向かって帰っていると、ギルドの前には冒険者が入れ替わるように出たり入ったりしている。そして、出て行った冒険者の手にはポーションが握られていた。
「何かあったのかもしれません、ハンナさんは俺に構わず、先に行ってきてください」
「分かりました!」
ハンナさんは駆け足でギルドに向かう。俺はゆっくりとギルドへ向かった。
俺がギルドに着くころには、ギルドの中は落ち着いていた。
「いったい何があったんだ?」
「おや? シン君じゃないか。数日ぶりなんだよ」
以前『ポーション製作』のクエストでポーションの作り方を教えてくれた、白衣を着た魔法薬研究長のサイエンが声をかけてきた。
「あ、サイエンさん! こんな所で会うなんて珍しいですね。そういえばさっきギルドが慌ただしかったみたいですが、何かあったんですか?」
「冒険者たちがポーションを買っていったんだよ。おかげで道具屋に売られていたポーションがなくなってしまったんだ、売れるのはギルドとして嬉しいんだけれど、なくなってしまうのは困るんだよ」
サイエンはボサボサの髪を搔きながら困っていた。それて、俺の顔をじっと見てくる。
「シン君はこのあと暇かい? 暇だったら『ポーション製作』のクエストを受けてもらいたいんだよ」
「あの、ごめんなさい。暇ですけど足怪我していまして、今日はクエスト受けるには厳しい状態なんです」
「そんなに痛むのかい? てっきりギルドに来ているものだから、大丈夫だと思っていたんだよ……なるほど、冒険者たちがポーションを買っていったのはシン君のせいだな」
「俺のせいじゃないですよ! とも言い切れないのが……」
ポーションが無くなるほど買われてしまったのは、昨日の俺の足の状態を見た冒険者たちが広めてしまえば、このようなことが起こることは予想できた。
つくづく噂とは怖いものである。
「そうか、シン君は今日は無理と……だったらこの魔法石を持ち帰りなさい」
サイエンは袋から別の袋を取り出し、それを俺にわたす。中には光を失った魔法石が入っていた。
「その足では魔法の鍛錬もできないはずだよ。それなら無駄になってしまう魔力を魔法石に込めて、少しでも多くポーションを作れるように準備をしておく必要があるんだよ」
「確かにそうですね、でも良いんですか? この魔法石を俺が使っても」
「良いんだよ、どうせ空になって魔力を流さないと使えない魔法石だから」
「分かりました、部屋に戻ったら魔力を込めて光らせておきますね!」
「それじゃあ、明日は『ポーション製作』よろしく頼むんだよ」
サイエンは受付の隣にある扉を開けて中に入り、消えていった。
俺は先にギルドに戻ったハンナさんの様子を見ると、書類を色々確認して忙しそうにしているハンナさんを見て、声をかけずにギルドから出て、自分の部屋に帰った。
そして、部屋に入ると、布団入り横になる。
袋から光を失った魔法石を取り出し、1個ずつ青白く光らせていった。そして、いつの間にか俺は魔法石を握りしめながら眠りにつくのであった。
ファングソードを作ってくれたクリエートに2000G払い、
靴もシンの足が治ったら500Gで作ってくれることになった。
ギルドは慌ただしくなっていて、道具屋にポーションが無くなるほど冒険者たちに買われていた。
サイエンからはまた『ポーション製作』のクエストを受けてほしいと言われたが、足を怪我しているので今日は無理となり、次の日にクエストを受けることになった。その時に、光を失った魔法石を袋ごと渡され、俺はそれを自分の部屋で魔力を込めながら、いつの間にか眠っていた。
武器の紹介
・ファングソード
ワニゲーターの牙から加工されて作られた剣の名前。
製作者はクリエートで、シンが使う武器である。




