134話 鍛冶屋で新装備!①(孫)
「……痛っ……朝か、嫌な目の覚め方だな」
足の痛みで俺は目を覚ました。昨日は早くから起きていたため、たくさん眠ることができ、頭はスッキリとしている。だが、足には傷が残っていて、治っていなかった。
「やっぱり1日じゃ治らないよね、いてて……昨日よりはかなり痛みが引いただけ良しとするか」
起き上がり、足をそっと引き寄せて傷口を指でなぞる。カサブタができ、指先にはザラザラとした感触が伝わってくる。
傷付いた足に力を込めると痛むので、立ち上がらずに服を着替えていく。大変だったのはズボンを履くことで、足を通すときに痛み、歯を食いしばりながら、履くことができた。
服を着替え終わると、今度は靴を履く。だが、履くのはいつもの靴ではなくレインブーツだ。
「ワニゲーターが俺の足と一緒に靴をボロボロにしたから、レインブーツくらいしか履ける靴がないな」
こうして靴も履いた俺は、窓の方まで身体を移動させて、窓の枠を支えに立ち上がる。
「ふぅ……そろそろこの部屋にもイスやテーブルが欲しいな。クエストに行くときは気にならないけど、こういう休む日には部屋に家具が無いのは殺風景すぎる」
いつかはこの布団やぬいぐるみくらいしかない部屋に何か新しいものを追加しようと考えるのであった。
「よし、足はつま先に力を入れなければ痛みを抑えられて歩けるな。これならギルドには行けそうだ。朝食を食べたら向かうぞー」
俺は歩くたびにビリっと来る痛みを耐えながら食堂で朝食を取り、ギルドへ向かうのであった。
ギルドに入ると冒険者がほとんどいない、クエストに出ていていないだけかと思ったが、掲示板にはたくさんのクエストが張り出されていた。受付にいるハンナさんも暇そうにしている。
「ハンナさん、おはようございます」
「シンさん、おはようございます。足は治ったのですか?」
俺が来たことで退屈そうだったハンナさんが笑顔になる。
「まだ治ってないですね、今も立っているだけで足が痛みます。クエストには行けませんが、歩けない痛みじゃないので、今日鍛冶屋にでも行こうかなって思っています」
足をさすりながら答えると、ハンナさんは驚いていた。
「どうしましょう、数日は来れないと思っていたので、案内できるギルド職員を用意していないんですよ。申し訳ございません」
ハンナさんは悲しそうな顔をして俺に謝る。
「ハンナが案内してあげなよ」
受付の奥で暇そうにしている女性のギルド職員が、ハンナさんにそう声をかける。
「え? でもですね……」
「どうせ今日は暇だろうし、私だけでも大丈夫」
「そうですか? それじゃあお任せますね。シンさん、今から準備しますので少々お待ちください」
ハンナさんは受付を離れると、書類をまとめてから俺の所までやってきた。
「それではシンさん、私が鍛冶屋までご案内しますね」
「はい! よろしくお願いします」
ハンナさんと一緒にギルドを出た。
ハンナさんは俺の横に並んで歩く。俺に歩幅を合わせてくれているのか、ゆっくりと進んでくれていて歩きやすかった。
「……こうやってハンナさんと2人で話すのは、俺が冒険者登録をした時を思い出します」
「そうですね、そういう機会がないと話すことってありませんから。ですが今日はいつもよりお話できます。クエストを受けてくれる冒険者さんが少なくなって、退屈していましたが、そのおかげで、シンさんを私が案内できています」
ハンナさんは楽しそうに語る。このままだと俺の話題になりそうだったので別の話題を出すことにした。
「あの、クエストを受ける冒険者が少ないって言っていましたが、やっぱり魔王軍のことがバレちゃったんですか?」
「いえ……ワニゲーターが森に現れたことが主な理由です。森にあんな魔物が出現すると分かったので、森に行くようなクエストはほとんど受けてもらっていませんでした。中には魔王軍の仕業と言っている冒険者さんもいましたので、他のクエストも受けてくれなくなるはずです……私たちギルド職員は精一杯調査をして、強力な魔物が入り込んでいないかチェックしていますが、そういう調査は冒険者さんと一緒にするものなので、ギルド職員だけで調べるには限界があるのです。ワニゲーターの件で、その調査すら嫌がる冒険者さんが増えてしまっている……という状況です」
ハンナさんはため息を吐きながらギルドが抱えている悩みを話す。
「そうですよね……俺もワニゲーターにこんな足にさせられちゃいましたし、身の危険を感じてクエストをやらないという選択も分かります」
「一部の冒険者さんは『こんな時こそ頑張る!』と言ってクエストを受けてくれるので頼もしいです」
「ははは、それは頼もしいですね。俺も装備を整えて、足が治ったら頑張りますよ!」
「わぁ! 嬉しいです。シンさん、その時はよろしくお願いします。あ、そろそろ聞こえてきますね!」
「何か聞こえますか?」
耳を澄ますとカーンカーンと叩く音が聞こえてくる。
「着きました、ここが冒険者さんたちの装備を作っている鍛冶屋です」
「おぉ!」
大きな建物で、外からでも中の様子が見える。熱した素材を炉からだし、ハンマーで形を整えていく。この作業を1人でこなしている鍛冶職人が何人もいた。
「おーい、そこをどいてくれぇ!」
後ろを振り返ると、荷台にたくさんの荷物を載せている男性がいた。俺たちが前にいるせいで通れないようなので、横に移動して道を開ける。
「あらよっと!」
男性は荷台を動かすと鍛冶屋の中に入っていった。
「素材を運びやすくするために入り口は広くて扉も付けていないんだな」
「シンさん、そろそろ中に入りますよ」
「分かりました」
俺とハンナさんが中に入ると、険しい顔で作った武器を見て、武器立てに置く鍛冶職人の所へ向かう。
「スミスさんおはようございます!」
「おや、ハンナちゃんじゃないか。今日はどうしたんだい? まだ上位冒険者の装備は完成してないよ」
「今日はそのことじゃないです、昨日お伝えした、装備を作って欲しい冒険者さんを連れてきました。彼がその冒険者さんです」
ハンナさんは俺の方に手を向ける。
「シンです。よろしくお願いします!」
「ほう、この子が……ワシはスミス、ここの鍛冶屋のリーダーを任されているジジイじゃ」
スミスは、シワがたくさんある顔立ちであり、灰色の髪で筋肉質な身体、首にタオルがかけられているが上半身は裸である老人だ。
「それで、シンくんの装備は作れそうですか?」
「それなんだが、ワシも含めて全員上位冒険者の装備を作っていて、そこの彼の装備を作る暇がないのぉ」
「どれくらいかかりそうですか?」
「そうじゃのぅ、1週間以上はかかっちまうな」
「1週間ですか……それは冒険者にとっては長い期間の休みですね」
「出来が悪くて上位冒険者の武器として出せないものならあるが、職人としてはそんな武器を使ってもらいたくない。困ったのぉ」
スミスが俺について悩んでいると、素材を持った俺と同じくらいの年齢の子供がやってきた。
「爺ちゃん、素材持ってきたよ」
「そこに置いといてくれ」
「あれ、お客さんが来てるの? 僕クリエートって言うんだ、よろしく!」
クリエートは、バンダナで髪をまとめていて、鼻から下もバンダナで隠して、目と灰色の前髪が一部だけ見えている、俺と同じくらいの年齢の子供だ。
「そうじゃ、クリエートは黙っていなさい。いや孫がすまんな」
スミスは俺にペコペコと頭を下げる。
「お孫さんですか、この年からもう鍛冶職人をしているのですね」
「まだ鍛冶職人見習いじゃよ、まだ売りに出せるほど良い装備は作れていないよ。魔王軍が来なければ、今頃修行させられているのに、ワシらは装備を作るのに忙しく、面倒を見れないんじゃ」
「爺ちゃん……僕気にしないよ! 少し遅れたって、立派な鍛冶職人になって見せるさ!」
「クリエート……すまんのぉ」
目頭を押さえて涙をこらえる爺さんに、俺まで泣きそうになる。
「そうじゃ、ワシらは手が空いておらんが、クリエートは空いておる。もしよかったら、彼の装備をクリエートに作らせてはくれないか?」
「え? この子に俺の装備をですか?」
俺はクリエートの方を見る、クリエートはスミスの言葉に驚いているのか、焦っているようだった。
「え? え!? 僕が作って良いの!? やる、絶対良いの作るよ! やらせて!」
「う……うん、良いよ」
「やった!」
クリエートは作る気満々のようだったので、圧に負けて俺の装備を作ることを許可してしまった。
「えっと、あなたの名前なんだっけ?」
クリエートが俺に聞いてくる。
「シンだよ、クリエート」
「シンだね! じゃあシンは僕が初めて作る装備の使い手になるわけだ。やったね、それじゃあ道具持ってくるからそこで待っててね」
クリエートは走ってどこかへ行ってしまった。
「なんか騒がしいお孫さんですね」
「そうじゃの、可愛い孫じゃ。それじゃあハンナちゃんたちが持ってきた素材はクリエートに渡すが、良いかのハンナちゃん?」
「はい、かしこまりました。クリエートさんが戻ってきたらお伝えしておきます」
こうして、俺の装備はクリエートというスミスの孫が作ることになった。
1日経ったが、ワニゲーターに付けられた傷はまだ治らず、カサブタができていた。
冒険者が少なく、ハンナさんが暇そうにしていたので、ギルド職員が気を利かせてハンナさんを案内人にしてくれた。
鍛冶屋に着くと、スミスという爺さんに俺の装備を作るように頼むが、スミス以外の鍛冶職人も上位冒険者の装備を作っていて手を離せなかった。
そこで、スミスの孫である鍛冶職人見習いのクリエートが代わりに俺の装備を作ることになった。
新キャラ紹介
・スミス
鍛冶屋のリーダーをしている老人。シワがたくさんある顔立ちであり、灰色の髪で筋肉質な身体、首にタオルがかけられているが上半身は裸である。
・クリエート
バンダナで髪をまとめていて、鼻から下もバンダナで隠している。目と灰色の前髪が一部だけ見えている、シンと同じくらいの年齢の子供だ。
バンダナを取ると、綺麗な顔と髪が見えて女の子だと分かる。




