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132話 ☆3『魔素の核の破壊』⑨(経験値)

「こっちだ!」


「ギュア!」


「こっちよ!」


「ギュアァ!」



 ワニゲーターは俺の方に顔を向けると、反対からフィーシュの声がしてそちらの方に顔を向ける。



「あらあら、こっちですわ」


「ギュアァァァ!」



 色んな方向から挑発されていたワニゲーターは、ベジタに向かって走り出す。



「『ディグ』」


「ギュア!?」



 ワニゲーターが踏み込んだ地面が『ディグ』によって穴が開き、前足1本を穴に落とした。それにより体勢を崩したワニゲーターはベジタの所に向かうことができず、自分の前足が引っかかって、前足を軸にしながら向きが変わる。


 穴から前足を出したら、前足にワニゲーターの血が流れていた。自分の巨体と移動の速さを、穴に落ちたことで、前足1本で支えることになったのだ、その負担は相当なものだったのだろう。


 ワニゲーターの足も強靭な作りをしているが。血が流れようとも骨までは折れていないようだ。


 だが、俺たちがやっていたのはワニゲーターのヘイトを集めることであり、ダメージを与えることではない。ワニゲーターがこれだけ俺たちに集中していたことで、ミートの攻撃が通りやすくなる。



「『ヒートスタンプ』!」


「ギュアァァァ!」



 最初に放った『ヒートスタンプ』よりも赤く光ったハンマーを、ワニゲーターの魔素の核に向かって叩きつける。


 バリンッと割れる音と共に魔素の核が見えている部分は砕けているが、まだ奥に眠る魔素の核を完全には砕けていないことを、ミートはハンマーの感触で理解した。



「これでもまだ砕け切らないのか! もっと攻撃しないとダメっしょ!」



 魔素の核からは更に強く魔素が漏れ始める。それにより、ワニゲーターの身体の変化が早くなっていく。


 ワニゲーターの肌の色はどんどん黒くなっていく。前足の傷も塞がってきたようで、血が止まっていた。



「ギュアァァァ!」


「!?」



 ワニゲーターが叫ぶと、上半身を上げて2本足で立つ。背中に乗っていたミートは、背中を蹴って退避する。


 ワニゲーターは上げていた身体を勢いよく地面に叩きつけた。



「うわぁぁぁ!」「きゃっぁぁ!」「あぁっ!」



 ズドンという大きな衝撃が地面越しに俺とフィーシュとベジタに伝わって、宙に浮かされ、そのまま地面に倒れる。



「みんな大丈夫っしょ!?」



 たまたま空中にいてワニゲーターの地面への叩きつけに巻き込まれなかったのはミートだけだった。


 俺たちは今の衝撃で足が痺れて立つどころか、動くこともできなくなっていた。



「ギュアァァァ!」



 まずい、ワニゲーターの顔をフィーシュの方を向いている。今はそのフィーシュも足が痺れて動けなくなっている。


 フィーシュは槍を支えにしながら上半身だけ起き上がるが、足が動いていない。腕の力だけで立たせようとするが、足に力が入らないので身体を支えることができずに倒れてしまう。


 その時に槍が手の届かない場所まで転がってしまい、フィーシュは懸命に手を槍まで伸ばすが、指先にすら触れられなかった。



「ワニゲーター! 俺を狙え!」



 俺がそう叫んでもワニゲーターはフィーシュを狙って走り出す。



「あぁっ……」



 その場を動けないフィーシュは自分の所に向かってくるワニゲーターを絶望した顔で見ることしかできなかった。


 フィーシュは顔を伏せて目を閉じ、これから自分の身に起こることから現実逃避をする。


 ガブッとワニゲーターの噛む音がフィーシュに聞こえる。しかし不思議と痛みはない。目を開け、顔を上げると、目の前にはストーンゴーレムに噛みついているワニゲーターがいた。



「ぎりぎり、間に合ったわ」



 ベジタは足が動かない中、ストーンゴーレムを動かすことに集中していた。ワニゲーターが地面を叩きつけたことにより、地上にいた俺たちは動けなくなったが、地中に埋まっていたストーンゴーレムは、地面から脱出することができていた。



「くすくす、ゴーレムは私たちと違って痺れて動けなくなるなんてことはないわ。間一髪だったわね。でも、ストーンゴーレムはもう無理そうだわ」



 噛みつかれているストーンゴーレムは、魔素の影響で狂暴化が進んだワニゲーターによって、徐々に噛み砕かれていく。


 そして、ワニゲーターが顎に力を入れると、ストーンゴーレムは崩れ去り、ワニゲーターの口の中に大きな石が詰まった状態になった。



「ベジタ、助かるっしょ。フィーシュ、今からこいつを倒すから、そこで見てるっしょ!」



 ミートは赤く光るハンマーを肩に担ぎながら力を溜めている。



「『ヒートスタンプ』は溜めれば溜めるほど強くなる、限界まで溜めた威力と、シンのバフと、フィーシュを怖がらせた怒り……この全部をぶつけるっしょ!」



 ワニゲーターは尻尾を振って攻撃してくるが、尻尾の届く距離にミートはいない。だが、もう1回転すると、ストーンゴーレムの崩れた残骸を尻尾に当てて、ミートの所に石を飛ばしてきた。



「そんなの当たってやらないっしょ!」



 飛んでくる石をステップを踏むように左右に避けていく。


 ワニゲーターは効かないと分かると、上半身を上げて2本足で立つ。



「その攻撃は……もう見たっしょ!」



 ミートは高く飛ぶと、ワニゲーターはその瞬間に身体を勢いよく地面に叩きつけた。ワニゲーターの口の中にあった石が割れるほどの衝撃が地面に走り、地面にへこみができる。


 俺たちはその衝撃で再び宙に浮かされるが、ダメージはさっきよりも高く、足以外も痺れるような感覚に襲われた。


 しかし、俺たちとは違い、空中にいるミートにはダメージがない。


 ミート着地するとワニゲーターに向かって走り出す。



「ギュア!」



 石がなくなり、口を自由に使えるようになったワニゲーターが縦向きで噛みつこうとする。ミートは前に回転しながら飛び、ワニゲーターの口先に踵落としをする。


 それによって口は強制的に閉じられる。ミートはワニゲーターの口先を足場に使い、もう一度高く飛び上がる。そして重力に引かれて速度を上げながら落ちてくると、ハンマーの光が強くなった。


 ミートが今出せる最大火力の『ヒートスタンプ』の完成である。



「これで……終わりっしょ! はぁぁ!!!」



 空中で振りかぶると、ミートは渾身の力を込めて、ワニゲーターの背中にある魔素の核に叩きつけた。


 まるでその瞬間だけ無音になったかのように静かになる。そして、パキッという小さな割れる音が聞こえたと思ったら、ハンマーで叩いた衝撃の音が、耳からだけでなく身体にまで響いてきていた。



「ギュアァァァアアアァァァ!!!」



 今までにない、けたたましい叫び声をあげ、倒れて動かなくなった。魔素の核が完全に砕かれたことで、魔素が漏れ出すことがなくなった。


 魔素の影響で黒く変わり始めていた肌の色は、ワニゲーターの本来の色である深い緑色に戻った。


 ミートは呼吸を整えると、にこっと笑顔を作り、フィーシュとベジタと俺に向かってピースをしてくる。






「倒した……のね。私……生きてる……」



 フィーシュは自分が生きていることに涙が溢れてくる。



「うん、生きてるっしょ」



 ミートはフィーシュのそばに駆け寄り、抱きしめて泣きわめくフィーシュの背中をトントンと優しく叩いて落ち着かせる。


 俺とベジタは身体の痺れが取れて動けるようになる。ベジタはゴーレムで投げ飛ばした冒険者たちの方へ向かい、その冒険者のケアをしている。


 俺はワニゲーターのそばにいき、皮膚の感触を確かめていた。



「触ってみるとこの皮膚硬いな、指で押してもビクともしない」



 俺は持っている剣を思いっきり切り付けても、ワニゲーターの皮膚には傷一つ付かなかった。



「こんなに硬い相手を、よくミートさんは倒したなぁ」



 ワニゲーターを触りながら頭の方まで移動して、倒した余韻に浸っていた。しかし、なんだか不安を感じている。本当にこれだけなのかと。


 俺は頭を横に振って自分のネガティブな思考を考えから捨てる。ミートが『ヒートスタンプ』で魔素の核を壊してワニゲーターを倒したのを自分の目で見たじゃないかと。


 その後にワニゲーターは動かなくなったじゃないかと、だが、ここで俺はある重大なことを忘れていたことを思い出した。



「みんな逃げて! まだワニゲーターは生きてる!」



 俺の声にミートもフィーシュもベジタも、そして巻き込まれた名も知らない冒険者たちも状況を理解していなかった。


 俺が叫ぶと、横にいるワニゲーターの目が開き、俺と目が合う。



「ギュアァァァ!」



 俺と張り合うかのように、俺の横でワニゲーターも叫ぶ。この至近距離で咆哮を浴びたことで身体がいうことを聞かなくなっていた。


 ここでやっとミートたちが状況を理解する。まだ戦いは終わってなかったと。



(ミートさんが魔素の核を破壊してワニゲーターが倒れたあの時に気づくべきだった。本当に倒したんだったら経験値が出るってことを。浮かれていた、強敵に辛勝したことで最後の最後で油断した)



 ミートとフィーシュは抱き合っていて、武器を持つまでに時間がかかる。ベジタは冒険者たちの所にいて、とてもここまで間に合うとは思えない。


 俺を噛みつこうとするワニゲーターの口が目の前に迫る。


 動かない自分の身体、助けが間に合わない仲間。


 この状況になったのは自分の油断のせいだ。






 バクッ!






 暗闇の中、鋭利なものが肉を裂きながら進んでいく感触を味わっていた。暖かい液体が、俺の手に触れていくのであった。それとは別に、俺の足の甲にも鋭い痛みが走る。とても熱く感じていた。


 朦朧とする意識の中、見慣れた光の粒が俺の身体に入っていくことを感じながら、意識を手放した。

俺とフィーシュとベジタがヘイトを集めたことで、ワニゲーターはベジタに攻撃を仕掛けるも、ベジタは『ディグ』で穴を作り、ワニゲーターの前足1本を穴に入れ、攻撃を不発に終わらせ、穴に落ちた前足を怪我させる。


ミートはその間に『ヒートスタンプ』で攻撃するも、まだ魔素の核を破壊しきれなかった。


ワニゲーターは上半身を上げて地面に叩きつける。俺とフィーシュとベジタは宙に浮き、足が痺れて動けなくなる。


動けないフィーシュがワニゲーターに攻撃されそうになるが、ベジタのストーンゴーレムで防ぎ、間一髪生き残る。


ミートは『ヒートスタンプ』を最大まで溜めて叩きつけ、魔素の核を破壊してワニゲーターを倒した。かに思えたが、実はまだ生きていて、俺がワニゲーターに食べられることになった。


鋭利なものが肉を裂きながら進んでいく感触の中、見慣れた光の粒が身体に入っていくことを感じながら意識を手放した。

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