13話 魔法鍛錬!(魔力)
「誰も死なずに魔物を倒せたようですね、みなさん良く頑張りました」
魔物を倒したことで離れて様子を見ていたランド先生が近づき俺たちを労った。1匹倒すことが目標だったので、町に帰ることとなった。他のパーティーにいたアオとハクとユカリも無事に魔物を倒したそうだ。
――
町に着き学校へと戻る。時間はお昼で食堂に駆け込む生徒が多かった。お腹の空いた俺たちも食堂に向かった。
「随分と落ち込んでるようだけどどうしたの?」
「あぁ……ちょっとね……」
俺は目をそらしながら生返事をする。いつも通りに食事をしているつもりだったけど、アオはいつもの俺とは様子が違ったことに気が付いて声をかけてくれた。
「…………実は魔物にかすり傷すら付けることができなかったんだ」
「「「!?」」」
俺は今日あったことを相談することに決めた。強くなるには弱さと向き合わなきゃいけないと思ったし、みんなになら弱さを見せても良いと思ったから。
「私でもかすり傷は付けられたわよ」
「……かすり傷は付けられたな」
「僕もそのくらいはできたかな……」
みんなでも魔物にダメージを与えることができたみたいだ。
「リクくんにはダメージを与えられていたわよね!なんで魔物には傷一つ付かないのかしら?」
「……すぐに思いつくことといったら防御力の差だろうな」
ユカリの言葉にハクがつぶやく、それに反論するかのようにアオが話す。
「だからって魔物には金属製の武器を使っているんだよ?」
「……それは魔物の方が人間より強いからだろう」
「……」
ハクの言葉にアオは黙るしかなかった。
「ランド先生に相談してみたら?なにか解決法を知っているかもしれませんわ」
「そ……そうだね!シンくんはランド先生に相談してみると良いかもね!」
「……悪いな、俺たちじゃまだシンの助けになれそうにない」
「あっ、うん……そうしてみるよ。ありがとうみんな」
自分たちでシンの悩みを解決できないのが悔しいのか、アオとハクはどことなく元気がない、そんな感じがする。俺はランド先生のところへ向かうために食堂を出た。
――
俺はランド先生が寝泊まりしている部屋の前に着いた。
(こういうことをするのは緊張するな)
俺がノックをしようと扉に近づくと扉が開いた。
「おや?誰かと思えばシンくんじゃないですか。どうしたのですか?」
「あ……あの……ランド先生に相談がありまして」
「……分かりました、そういうことならこんなところで立ち話しもなんですから、どうぞ私の部屋へ」
急にランド先生が扉を開けたので驚いたが、相談があると伝えるとすぐに部屋に案内してくれた。部屋の中は俺たちが使ってる部屋と変わらないけど、いくつか俺たちの部屋に無い物が置かれていた。ベッドが1つしかないので1人でこの部屋を使っているようだ。
「どうぞお好きな席についてください。シンくんは紅茶とミルクのどちらを飲みますか?」
「じゃあミルクでお願いします」
「分かりました」
俺がイスに座っている間に、ランド先生は部屋の隅に置いてある箱を開く。すると中から冷気が出てきて、そこからミルクとクッキーを取り出した。
「ランド先生!その箱は!?」
俺は口を大きく開けて驚いた。まさかこの世界に冷蔵庫があると思わなかったからである。
「シンくんは初めてですか?物を冷やしておけるのでとても便利なアイテムなんですよ」
ランド先生はニコニコしながらアイテムの説明をしてくれた。俺が口を開けている間に、机の真ん中にはクッキーが置かれ、俺とランド先生の前にはコップに注がれたミルクが置かれていた。
「それで相談とは何ですか?」
そう言ってランド先生はクッキーをかじりミルクを飲む。俺もしっかり冷えたミルクを一口飲み、魔物にダメージが入らないこと、これからどうすればいいのかと悩みを打ち明ける。
「なるほど……事情は分かりました」
「なにか解決する方法ありますか?」
「それは魔法を覚えることで解決できる問題ですね、ただ……それを教える前にシンくんに酷な話しをしなくてはいけません。耐えられますか?」
「……頑張ります」
真剣な目で見つめるランド先生に俺は言葉を濁して伝えた。
「分かりました。シンくんはこの学校に来た初日のことを、そのときに私に適性を調べてもらったことを覚えていますか?」
「そんなことあったような」
初日にそんなことをやったことをはっきりとしないが覚えている。それがいったい何だというのか俺には疑問だった。
「私はね、シンくんの適性が全て0だったのでとても驚きました。冒険者はもちろん他の職業もこれでは厳しいと思いました」
「…………他にはなにかありますか?」
「……いえ、ありません」
「…………」
そこからお互いに長い沈黙が続いた。ランド先生が深刻そうに話すのでとんでもない問題と思ったら、実際はそうでもなかった。女神様から貰ったスキルの影響でめちゃくちゃ弱くなっていることは分かっていた。ただ、それは俺のスキルの存在を知らない他人から見れば絶望と言えるほどの才能の無さだっただけ。
「……ショックが大きかったようですね」
「いえいえ、俺が他人より劣っていることは分かっていたので、その程度で済んで安心しました」
そんな俺は希望が見えてきていた。ランド先生はこんな俺でも魔法を覚えることで解決できると言った。
「ランド先生!俺に魔法を教えてください!」
俺はイスから立ち上がり、頭を下げてお願いした。
「特別に教えるとなるとこれまで以上に厳しくなりますよ、それもシンくんだけ……」
「耐えてみせます」
厳しいことを念押ししてくるランド先生に俺はハッキリと意志を伝えた。
「……分かりました」
そういうとイスから立ち上がり、壁近くにある机の引き出しから青黒い色の親指より大きいサイズの石を持って俺に渡した。
「これは?」
「これは魔法石と言い魔力を吸収したり放出したりする石です。それにシンくんの魔力を流し込んでみてください」
「っ……!?」
魔力を流すとみるみる俺の魔力を吸収する。あまりにも吸収するので膝をつき、石を手から転がしてしまう。床に転がった石をランド先生が拾い、じっと石を見ている。
「これではシンくんに魔法を教えるのはまだまだ先ですね。この石は今は青黒いですが、魔力を吸収すると黒さは取れ明るい青さが増していきます。でもシンくんの魔力では色はほぼ変わりませんでした。ここまで言えばもう分かりますね」
「魔法を使うための魔力が足りない……ということですか」
「その通りです」
どうやら俺はまだ魔法を使うことができないようだ。
「呪文の補助があってもおそらく1発が限度でしょう。魔法を撃っていれば自然と魔力は増え制御がしやすくなりますけど、今は日に何度も使えないので魔力量を増やす鍛錬を優先しましょう」
「はい!」
こうしてランド先生からの特別授業が始まるのである。