128話 ☆3『魔素の核の破壊』⑤(鋏蟹)
3つ目の魔素の核がある所まで到着する。もう辺りは明るくなっていて他の冒険者がこの場所まで来る可能性がある時間帯になってきていた。
「ここを含めた残り3つの魔素の核は、湖の半分より奥側にあります。例え他の冒険者が湖にまで来ていたとしても、船着き場辺りからでは私たちが何をしているかまでは分からないでしょう。ですが、人目に触れると気が付かれるかもしれませんので、早めに終わらせてしまいましょう」
「「「「はい」」」」
俺たちは一斉に湖に入り、真下に向かって進んで行く。
(そろそろ魔素の核が見えても良い頃なのに見つからないな……! これは!?)
俺たちがさっきまで魔素の核を壊していた方向には底が見えていた。だが、これから向かおうとしている所はまだまだ底が見えないでいた。
俺は不安を抱えながらフィーシュたちについて行く。
(少し苦しいな……)
深くなるにつれて胸が苦しくなってきて、身体も重く感じるようになってきた。
(見つけた、魔素の核だ!)
フィーシュたちも魔素の核を見つけたようで慎重に近づいて行く。すると、魔素の核が急に見えなくなった。
(なんだ、なんで急に見えなくなった?)
見えなくなったことを不思議に思っていると暗い中に何かが動いているように見えた、ランタンを持ったフィーシュが近づくとその正体が分かった。
飛び出した2つの目に赤い殻、6本の足に左右にある大きなハサミを広げこちらを威嚇してくる。
(あれは……蟹? でも3Mくらいの大きさだ、少し大きすぎるけどシザークラブか?)
本に載っていたシザークラブよりも大きいが、形も色も同じなため、魔素の核の影響で強くなった個体なのだろう。
もしそうだとしたら今の俺には倒せない相手なのでミートたちに任せることにする。3人とシザークラブが同時に見えるくらいまで上に行き攻撃範囲から外れる。
俺が移動している間に戦闘が始まるかと思っていたが、シザークラブは攻撃してくることは無く、代わりに足を使って地面の土を動かして魔素の核を隠していた。
ミートたちはそんなシザークラブがいつ攻撃してきても良いように、ミートはハンマーを、フィーシュは槍を、ベジタは短剣を構えている。
ミートたちは俺が離れたことを確認すると、3人は一斉にシザークラブに襲い掛かる。
まずフィーシュは槍を構えながらシザークラブの背後に回り込み、お腹の部分を狙って突撃をする。シザークラブはくるっと身体を半回転させるとハサミで突撃をしてくるフィーシュに攻撃をする。
フィーシュは方向転換をすることで避けたが、当然シザークラブにも攻撃が当たらない。
次はベジタが短剣を地面に突き刺し魔法を放つ。短剣を刺した場所からボコボコとシザークラブの方まで地面が盛り上がりながら移動して、シザークラブのお腹の場所で大きく地面が盛り上がる。
それにより体勢を崩したシザークラブが地面から足が離れ、ゆっくりと水中で回転してお腹部分を丸出しにする。
そこにミートがハンマーを思いっきり振り下ろそうと近づいたら、シザークラブは口から泡を噴き出し、ミートを攻撃する。
噴き出した泡はミートの横まで来るとパンッと弾けて、ミートは衝撃で飛ばされる。しかし、飛ばされた所にも泡はあり、そちらもパンッと弾けて、泡が近くに無くなるまで、ミートは何回も弾き飛ばされた。
しかもシザークラブは泡を使った攻撃をするだけでなく、自分のひっくり返った体勢を、泡を噴き出す勢いを使って、元の体勢に戻る。
(ハサミ以外にも攻撃方法があったのか! なに! ミートに当たらなかった泡が上がってきて俺の方まで)
俺の横まで泡が来ると、泡が弾けて俺を飛ばす。
(うわっ! 攻撃範囲から外れていると思っていたけど、水中でのシザークラブの攻撃範囲は、上方向に限り無限ってことか……っ! しまった! 俺らの真上にはイカダが!)
俺は水面に向かって上って行く泡を追いかける。幸い泡はゆっくりと上っているので、すぐに追いつくことができた。
俺は剣を抜き、泡に剣先を近づけて弾けさせる。剣は弾けて飛ばされそうになるが、しっかり握って離さない。離れて弾けさせたことで、俺に襲い来る衝撃の威力も弱かった。
(まだ何個かある、全部今のうちに割らないと!)
上に移動しているのにどんどん周りが暗くなってくる。ここは水中でも深い場所、地上から降り注ぐ光が届きにくい。上がれば上がるほど、下でシザークラブと戦っているフィーシュが持つランタンの光から離れていく。
(クソッ! もう泡がほとんど見えない!)
それでも、ギリギリ視認できた泡に向かって振りまくり、当たることを祈る。
なんとかパンッと弾けて割ることが出来たが、残りの泡は完全に見失ってしまった。
(どうすればいい、どうすればこの状況を解決できるんだ!)
俺は考える、もっと上に行き、太陽の光で明るくなった所まで進み、そこで泡が来ることを待つか。
(いや、それは難しい。どこにいるかも分からない泡を待つことなんてできない。もし俺よりも上に行っていたら? それを知らずに下から来ると思い込んで泡を待つのか? こんな時、ミートさんたちなら何をしますか)
俺は下で今もシザークラブと戦っている3人を見る。
■
シザークラブは左右のハサミを広げたり閉じたりを繰り返し、近くにいるミートにハサミを振るう。
ミートはそれに合わせてハンマーを当てるが、ハサミはへこむだけ。シザークラブはへこまされていないもう1つのハサミを使い、ミートを捕まえた。
ミートは苦しそうな表情を浮かべ、ハサミと一緒に地面に押さえつけられてしまう。
フィーシュはミートを助けるためにシザークラブの背中に乗り槍を突き刺そうとするが、硬い殻が槍を通してくれない。
ベジタも魔法を使って土を盛り上げようとするが、ミートを捕まえていない方のハサミで、シザークラブに近づくベジタの魔法が発動する前に、地面にハサミを刺して穴をあけ、ベジタの魔法はその穴の開いた場所で発動してしまい不発に終わる。
シザークラブは地面とハサミの間に挟まれたミートに顔を近づけ、口から泡を出しミートの近くで弾けさせる。
パパパパンッとたくさんの破裂音が水を伝って、遠くにいる俺の方まで聞こえてきた。
(ミートさん!)
ミートは衝撃により、ぐはぁっと空気を吐き出してしまう。その気泡が、たまたま弾けなかったシザークラブの泡に触れ弾けさせ、予想していなかった所からの破裂に驚いたシザークラブは、ハサミの力が抜け、緩くなったところで、ミートがハサミから抜け出すことが出来た。
背中に乗っていたフィーシュはチャンスと思い、シザークラブの足の付け根の隙間を狙って攻撃をする。それにより、6本あったシザークラブの足は5本になり、機動力が少しだけ落ちた。
俺は今の戦いを見ていてあることに気が付いた。
(空気に……ミートさんの吐いた空気に……泡が反応した? ということは!)
俺は自分の溜めていた空気を吐き出した。
(もし俺たちが吐き出した空気と、シザークラブの泡が同じ速さで上に行くならぶつからないはずだ。ぶつかるってことは上がる速度が違う、そして、俺らの空気でも剣と同様に外部から刺激を与えれば弾けることが分かった)
俺は、当たる確率を上げるために、場所を変えながら空気を吐き出していく。
そこら中に俺の空気が上に向かって進んで行った。
(これ以上息を吐くと、イカダまで帰るための空気が足りなくなる)
俺の吐いた空気が当たってくれと願うだけだ。そして……パンッと弾けるような衝撃が上から伝わって来た。その後も立て続けにパンッパンッと伝わってきた。これだけやればもう残っていないだろう。
そう思っていると、経験値が下から俺の身体に向かってくる。
(そうか、ミートさんたちはシザークラブを倒したのか)
シザークラブを倒したミートたちは隠された魔素の核を探し始める。ベジタが土の中に隠された魔素の核を見つけミートがハンマーで壊し袋に詰める。
それを持って俺の所まで上がってくる。
ミートは俺の肩をポンポン叩くと、ウィンクをしてイカダに帰ってしまった。
フィーシュとベジタもイカダに向かっているので、俺もイカダに帰る。
明るくなってきて、他の冒険者がクエストでここまで来るかもしれないから、早めに終わらせようとギルド職員に言われる。
最初に壊した魔素の核があった場所より深くなっていて、下に進むほど胸と身体が苦しくなってきていた。
シザークラブという蟹の魔物が現れる
シザークラブの噴き出した泡は上に行くので、真上にいるイカダが危ないと思い、泡を割ろうとする。
泡は俺らの吐き出す空気にも反応して弾けるので、なんとかイカダに被害が行くことは無かった。
俺が泡の相手をしているうちに、ミートたちはシザークラブを倒していた。俺にも経験値が入って来た。
魔素の核は残り2つだ。
魔物の紹介
・シザークラブ
飛び出した2つの目に赤い殻、6本の足に左右にある大きなハサミを持つ蟹の魔物。
ハサミで攻撃してきたり、弾ける泡で攻撃をしてくる。
泡は上に向かって進んで行くが、実は無限に上に行くのではなく、ある程度上に行くと弾けない普通の泡に変わる。シザークラブの大きさや強さによって、普通の泡に変わる距離が変わる。
普通の大きさは2Mくらいで、今回のは3Mあり大きかった。魔素の核の近くにいたことが原因だろう。




