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125話 ☆3『魔素の核の破壊』②(全肺)

「おはようございます、一昨日ぶりですね」



 俺に声をかけてきたのは、アルンの湖調査で一緒に行動したギルド職員だった。



「おはようございます、この前はありがとうございました! こんな朝早くからギルド職員さんも仕事ですか?」


「えぇ、私もアルンの湖調査に参加をしていたとして、今回のこのクエストに同行することになりました。よろしくお願いします」


「また一緒に行けるなんて思っていなかったです。ギルド職員さんと行動することはあっても、一期一会の関係でしたので」


「普通はそうですよね」



 ギルド職員は軽く笑い、それにつられるように俺も笑った。



「クエストに行く前にこれを渡しておきます」



 ギルド職員が荷物から取り出したのは、薄い緑色の液体の入った容器だった。その容器を受け取るとおかしなことに気が付いてしまう。



「これはっ……軽い!?」



 見た目はポーションの色違いなのに、中身は液体の重さではなく、綿が入っているんじゃないかと思ってしまう軽さだった。容器が普通の重さをしていなければ、手に持っているのか分からなくなるだろう。



「それはエアーポーションです、飲むと息を長持ちさせてくれます。今回のクエストは水中に入るので、これを飲むことで楽にクエストを進められることでしょう」


「そういえばクエストの紙のエアーポーションのことが書いてありましたね、忘れていました。それで、このエアーポーションはいくらなんですか?」


「それはギルドからの支給品なのでお金はいりません、自由に使ってください」



 そう言われたので、俺は渡されたエアーポーションを袋にしまう。その後は眠くならないようにギルド職員と雑談をしていた。


 少しすると、ギルドの扉が開いて冒険者たちが入って来た。



「ふぁぁ……眠いなぁ。こんな朝早くからやらなくていいっしょ」


「人の少ない時間帯が良いって言われたでしょ」


「まあまあ、ミートが眠いことは私たちも分かっていますわ」



 やって来たのは昨日訓練所で会ったミート、フィーシュ、ベジタの3人だった。俺は3人に声をかけると、俺がいることに驚いているようだった。



「シンじゃん! もう出会うことになるなんて思わなかったよ」


「そうね、ミートは『次会うのは当分先』なんて言っていたものね」


「だぁぁ! その話しを持ち出すのはやめろぉ」



 フィーシュは煽るようにミートが過去に言ったことを笑い、それに対してミートは恥ずかしさからか、フィーシュの口を押えようとしていた。



「お2人ともそこまでにしましょう。こちらギルドからの支給品です、あちらの方はすでに受け取ってくれていますよ」



 ギルド職員はミートとフィーシュにエアーポーションを渡すとベジタの方へ視線を誘導させる。ベジタは2人にエアーポーションを見せびらかすように軽く容器を振っていた。


 ミートはフィーシュから離れて、エアーポーションを素早く2本受け取ると、1本をフィーシュに渡していた。


 それを見ていた俺は、何でミートさんたちにも支給品を渡しているのか分かっていなかった。



「では、全員揃いましたので向かいましょうか」



 ギルド職員がそう言うとミートたち3人は状況を飲み込めずに固まっていた。だが、俺はその言葉で誰と一緒にクエストに行くのかを理解してしまった。



「全員って、私たち以外の冒険者も来るって聞いていたのに、まだ来てないっしょ」


「ミートの言う通りよ……まさか、そこにいるシンが私たちと一緒に行くことになっている冒険者じゃないわよね?」


「うんうん、昨日実力を見ていましたけど、とてもこの件に関わっていい強さではなかったわ」


「その話しは街の外で移動しながらしましょう。では行きましょう」



 ギルド職員はギルドの扉を開け、外に出て行ってしまった。俺たちもその後ろを追いかけて行った。






 ■






 アルンの街を出て草原を歩き、森まで辿り着く。先頭にはミートとフィーシュ、その後ろに俺とギルド職員、最後尾にはベジタという感じで進んでいた。


 森に入るとギルド職員が、なぜシンがこのクエストに参加できているかを話し始めた。



「彼は魔王幹部がこのアルンの街に潜入していることを見つけた冒険者のうちの1人です」


「「「!?」」」


 3人はギョッとした表情で俺の顔を見たあと、ギルド職員の方に顔を向ける。そして痺れを切らしたミートたちが、自分たちの知っている魔王軍の状況を話す。



「そんな! 魔王軍はまだキッタ村付近以外で目撃されていないはず」


「そうよ! ドラコニスさんもそんなこと教えてくれなかったわ」


「そうそう、アルンの街に入ってきているなんて信じられないわ」



 安全であるはずの街に魔王の幹部が知らぬ間に入り込んでいた、そのことを知った3人は血の気が引いた顔をしていた。



「残念ながら事実です、魔王軍について知らないはずの彼らが持ってきた幹部の情報と、キッタ村で幹部と接触した上位冒険者の情報が一致していました」



 それを聞いた3人は言葉を失う。魔王幹部が街に入り込んでいたなんて下位冒険者に知られたら阿鼻叫喚になるだろう。そうなれば冒険者だけでなく、アルンに住む人たちにも伝わってしまう。それを避けるために自分たちは今まで詳しい内容は知らされていなかったことを知った。



「そこにいる彼はまだまだ実力は劣りますが、数少ない下位冒険者でありながら魔王軍関連のクエストを任せられる存在です。内密に事を進めるのに、我々ギルドはとても助かっています」


「シンは頑張っていたんだね」


「そうみたいね」


「うんうん、頑張っているね。よしよし」


「うわぁ!」



 ミートとフィーシュは労いの言葉をかけてくれたが、ベジタはそれに加えて後ろから俺に抱き着いて頭を撫でてきた。


 いきなりのことで驚いたが、感触が心地よかったので少しの間惚けてしまった。しかし、ギルド職員が俺の方を見ないように目線を逸らしたり、ミートとフィーシュはニヤニヤとした顔で俺のことを見ていて恥ずかしくなり、ベジタの抱き着く手を外し、後頭部にくっ付いているベジタの身体を両手で押し返す。



「あーあもったいない」


「そうよね、ベジタが進んでやっているんだからそのままでも良かったのに」



 ミートとフィーシュはそんなことを言っているが、あんな顔で俺のことを見られていたら、恥ずかしくてしょうがないさ。



「まあまあ、私もそろそろ離れようと思っていたから。抱き着かれていたから歩きにくかったわよね」



 俺は「そんなことなかったですよ」とだけ伝えといた。


 こんなことをしている間に、俺たちはアルンの湖に到着していた。






「ではみなさんにはこれから湖に入って魔素の核を破壊してもらいます。5つほど湖に設置されているみたいなので、魔素の反応が強かった所の上までイカダに乗って向かいます」



 俺たちは船着き場からイカダに乗り、1つ目の魔素の核がありそうな所の上まで来ていた。



「ではエアーポーションを飲んでください」



 俺たちは一斉にエアーポーションを飲み干す。すると、身体の内側に変な感覚が生まれる。そして息を吸い込むと、いくらでも息を吸い込むことができた。まるで全身が肺になったかのように。


 これなら水中でも長くいられそうだと理解した。



「ではみなさん、よろしくお願いします」



 俺たち4人はギルド職員をイカダの上に残して湖の中に飛び込んだ。

エアーポーションをギルド職員から支給品として受け取る。


クエストに参加する冒険者は、訓練所で会ったミートとフィーシュとベジタだった。


アルンの湖には5つの魔素の核があるらしく、イカダを使って魔素の核の上の方まで移動して、俺たちはエアーポーションを飲み、湖の中に入っていった。



アイテムの紹介


・『エアーポーション』


薄い緑色の液体で、ポーションに似ているが綿のように軽い。


飲むと息が長持ちするようで、全身が肺になったような感覚になり、たくさん息を吸い込むことができる。また、水中で息をすると水の中にある空気だけを吸い込むことができ、毒ガスの中でも毒じゃない成分だけを吸うことが可能。


材料には『空気草』が使われている。

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