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110話 ☆2『馬車の護衛』②(火鳥)

 馬の歩く音や馬車の動く音を寝転がりながら聞いていた。とは言っても、荷物がたくさん乗せられているので、寝返りをするほどのスペースは無い。


 ときどき馬を操るギルド職員の背中を眺めたり、向かう先の景色を眺めたりしていた。


 それに飽きると、乗せられた荷物が何なのか気になり始めて、箱をジッと見つめていた。



「中身が気になりますか?」



 いきなり声をかけられたことに驚いて起き上がり、声のした方を見る。どうやら馬車を操るギルド職員が俺に話しかけていたようだ。



「何を運んでいるのかなぁとは思います。それより、前を見てないと危ないんじゃ……」


「この辺りは見通しが良いので大丈夫ですよ。荷物の中身は武器や防具に、ポーションなどの回復アイテム、そして食料と水です」


「普通の物ばかりなのですね」


「確かに普通ですね。ただ、冒険者の方々が少しでも長く前線維持ができるように、替えの装備品を用意するのはもちろん、加護が切れて怪我をしてもすぐに復帰できるようにする回復アイテム、そしてこれらより大事なのはやはり食料と水。いくら強い冒険者でも、飲まず食わずじゃ弱い魔物にすら負けてしまいますので、絶対に欠かせません」



 ギルド職員は前を向き、俺と話している間に少し進む方向が変わってしまった馬車の方向を修正する。



「話しの途中ですが、そろそろ山道が見えてきますよ」



 俺は前を見ると、草は少し生えているが、木は生えていない緩やかな坂道が続く岩山のような山道が見えてきた。



「ここからは山道を通っていきます、魔物が出やすいので、その時はよろしくお願いします」



 そう言って俺たちを乗せた馬車は山道へと入っていった。






 山道の地面はでこぼこしているのか、馬車がガタガタと揺れてお尻に衝撃が伝わってくる。また、緩いとはいえ坂道になっているので馬車の進みもゆっくりとなっていた。


 この速度なら歩いても追いつけるので馬車から降りることにした。俺1人分軽くなれば良いと思ったことと、お尻に伝わる衝撃の不快で離れたかったというのがあった。


 馬車の外に出ると、ハクやユカリも馬車の外に出て歩いていた。



「2人とも歩いているんだ」


「ずっと座っているのも大変ですから、歩いて身体を動かしているのですわ」


「……俺もユカリと似た感じだ、シンもそうだろ?」


「そんなところだね」



 そうやって話していると先頭を走っていた馬車が急に止まった。それに続いて後ろから付いてきていた馬車も止まる。俺たち3人は先頭の馬車の様子を見に行った。



「何かあったのですか?」


「この先に魔物の気配を感じます、みなさん様子を見に行ってもらえませんか?」


「魔物? どこにも見当たりませんが……」


「耳をすませてください、鳴き声が聞こえてきませんか?」



 俺たちは目を閉じ音に集中する。かすかに何かの鳴き声らしき音が聞こえる。



「たしかに何か聞こえますね、分かりました、様子を見に行ってきます。2人もそれでいいよね」


「もちろんですわ」


「……あぁ」


 俺たちは馬車にギルド職員を置いて、先に進んで様子を見に行くことになった。






 進めば進むほど鳴き声が大きくなってくる。



「この声は……鳥? 魔物じゃないのかな?」


「でも鳥にしては声が大きすぎないかしら、これだけ聞こえるなら近くにいても良いはずですわ」


「……こういう山道で鳥か、だとすると……っ! みんな避けろ!」



 ハクの言葉でその場を離れると、俺たちのいた場所に火の球が飛んできた。



「いったいどこから!?」


「上ですわ!」



 ユカリの指差す方向に目を向けると、炎をまとった鳥が1体こちらを睨みつけていた。羽を閉じていて正確な大きさは分からないが、それでも50(センチ)くらいありそうだ。


 俺とユカリは剣を、ハクは弓矢を構えて戦闘態勢に入る。



「……やはりファイアーバードか、ここは山道といっても石や岩の多い岩山。ファイアーバードの生息地ってわけだ」


「クワァ!」



 ファイアーバードが叫ぶと口から火の球を作り、ユカリに向かって飛ばしてくる。ユカリはそれを難なく避ける。


 ユカリが狙われているうちに、ハクがファイアーバードを弓矢で狙い撃つ。しかし、気付かれたのか、空を飛ばれてハクの矢が避けられてしまった。


 ファイアーバードは旋回しながら俺たちのことを観察していた。



「空を飛んでいる魔物か、厄介だな。攻撃方法が限られる」


「……俺の矢を避けられるほど動きも早い、何よりまずいのはこの地面だ」


「地面?」



 俺は地面を見ると赤く色付く石が視界に入った、そしてその石からは熱を感じる。だが、耐えきれる温度になっている。



「まさかファイアーバードの火の球で……でもこのくらいの熱さなら耐えられるよ」


「……俺たちは耐えられても、ここを通る馬車は耐えられないだろ」


「そういうことか……」


「攻撃が来ますわ!」


「クワァ!」



 空中で体勢を維持しながらファイアーバードは火の球を飛ばしてくる、今度の標的は俺のようだ。



「やってみるしかないか……『スマッシュ』!」



 俺は火の球に向かって『スマッシュ』を飛ばす。火の球と『スマッシュ』がぶつかった。ファイアーバードの火の球が強かったみたいで俺の『スマッシュ』が消え、俺に火の球が当たり倒れこむ。



「あつっ!」



 服に付いた火を、ゴロゴロと地面に転がることで鎮火していく。



「シンくん、大丈夫!」



 ユカリが俺の心配をしている間に、ハクは空中でまた火の球を飛ばそうとしていたファイアーバードに矢を放つ。



「クワァァ!」



 今度は避けきれなかったのか、羽の先に矢が当たったが、その場所ではダメージが無さそうだ。続けてユカリもファイアーバードに攻撃をする。



「『ウィンドショック』!」



 ユカリの振った剣から風属性の衝撃波を飛ばして追撃する。だが、当たりはしたが距離が離れているのと、衝撃が空中に逃げてしまうことで、ファイアーバードにダメージを少ししか与えられなかった。



「なんとかファイアーバードを地面に下せないかしら、空中にいられるとまともにダメージを与えられませんわ」



 ユカリがそう言うと、ハクが少し考えたあと言葉を発する。



「…………地面に落とす方法はある」


「ハクくん、そんな方法があるのですわね、早速やって欲しいですわ」


「……だが、これを使うとファイアーバードは地面に落ちるが、俺たちも攻撃ができない」


「ハク、それはどういうことなの?」


「……1発なら問題ないか、見ててくれ」



 ハクがファイアーバードに向かって手を向ける。



「『ボイズスモーク』」



 ハクの手から紫色の球が飛んで、ファイアーバードの近くで膨れ上がり、一気にモクモクとした煙が広がった。



「クワァ! クワァ!」



 煙の中からファイアーバードの鳴き声が聞こえてくる、すると煙の下の方からファイアーバードが現れる。ふらふらとした飛び方だったのに、煙から出ると元気になったのか、煙を避けるように高く飛んだ。



「ハク、これは……」


「……これは『ボイズスモーク』……毒の煙だ。あの煙を吸ったらさっきのファイアーバードのようにふらふらになる」


「いつの間にこんな魔法を」


「……つい最近覚えたばかりだ、もっとも、シンたちと一緒にアイアンタートルと戦ったときに、矢の攻撃が通じない相手にも毒が通じるこの魔法を覚えようとは思っていたが」


「これがあればファイアーバードは地面に来てくれますわね」


「……それは無理だ。さっきも見ただろう、『ボイズスモーク』の中にいる間はふらふらにできるが、毒性が弱いため煙から離れるとすぐに回復してしまう。ファイアーバードが地面に下りてきても、煙の外だったらすぐに飛んでしまう。俺たちが煙の中にいなければ攻撃ができない」


「そうなのですわね、いったいどうしたらいいのかしら……」



 突破口が見えてきたと思ったら、そう上手くはいかないことにユカリが落ち込んでいた。だが、俺はハクの言葉で気になる箇所があった。



「ねぇハク、毒性ってそんなに弱いの?」


「……あぁ、長時間吸い続ければ分からないが、少なくとも、数秒吸ったくらいならすぐに回復してしまうほど弱い」


「なるほど、だったら俺が毒の煙の中に入って戦うよ」


「……シン、いくら弱い毒だからといって、毒にならないわけじゃ……」


「大丈夫、俺を信じて」


「…………分かった」



 長い沈黙の後、これしかファイアーバードに勝てる方法が思いつかないのか、渋々俺の案にハクは乗ってくれた。


 だが俺たちが作戦を立てている間も魔物は止まらない、俺たちの所に火の球が迫って来ていた。



「クワァ!」


「『ウィンドショック』!」



 ユカリの飛ばした『ウィンドショック』で火の球がかき消される。



「シンくんを毒の中に入れたくはありませんが、倒すには仕方のないことなのですわよね……だったら私も出来る限りのことを頑張りますわ!」


「ユカリありがとう……よしハク! ファイアーバードを地面に落としてくれ!」


「……分かった……『ボイズスモーク』!」


「クワァ!」



 ファイアーバードは毒の煙に包まれる、その後もハクは周りに『ボイズスモーク』を使うことで毒の煙から脱出しにくいようにした。



「それじゃあ行ってくる」



 2人にそう言って俺は毒の煙に向かった。俺の指に装備された指輪をキラリと光らせて……

馬車で運んでいる荷物の中身は武器や防具に、ポーションなどの回復アイテム、そして食料と水だった。


魔物の気配がすると言われたので、ギルド職員を馬車に残して俺とハクとユカリの3人で確認をしに行く。


ファイアーバードと遭遇して戦闘になる、空中にいるため、まともにダメージを与えられずに困っていたところ、ハクの新しく覚えた『ボイズスモーク』を試みる。


しかし、毒性が弱いため毒の煙の外に出られると回復してしまうので、俺が毒の煙の中に入って戦うことにした。



魔物の紹介


・ファイアーバード


岩山などで確認されることの多い魔物。

50(センチ)くらいの大きさがある。

体当たりで攻撃してくる。

水属性の攻撃に弱いので、水属性(弱)のパッシブがある。ただし、1度水属性攻撃をすると炎が消え、再び炎が出るまで水属性(弱)のパッシブが無くなる。


なお、今回の戦いに出てきた個体は火の球を飛ばしてきているようだ。



魔法の紹介


・『ボイズスモーク』


紫色の球を飛ばして膨れ上がり、モクモクとした毒の煙でいっぱいにする。この中で呼吸をすると、毒にかかりふらふらとする。


ただ、毒性が弱いので、毒の煙から出るとすぐに毒が回復する。

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