106話 ☆3『ポーション製作』③(未完成)
「偏りがない? それはいったい……」
サイエンはアオの作った魔水の横に、俺の魔水を置く。俺をアオの机にまで連れてくると、俺とアオの魔水の違いは何か聞いてきた。
じっくり2つの魔水を見比べると、どちらも透明な液体に見えるが、アオの方の魔水は少しだけ青っぽく見えていた。
「違いが分かったようだね、シン君の魔水には色がない。先ほど星属性魔法を使っていたから、少しは星属性の反応が現れてもおかしくないんだが、どうも君にはそれがないみたいなんだよ」
「それって俺にはポーションを作るのは難しいってことですか?」
「ポーションを作ることにはあまり関係ないけど、無属性を作るのが難しいから興味が湧いたんだよ」
「無属性を作るのが難しい? どういうことですか。みんな無属性を使えるはずですよね」
無属性なんて誰でも使える簡単なものだと思っていた俺はサイエンに理由を尋ねてみる。
「確かに無属性は誰でも使える。だけど同時に他の属性も使えるのが普通なんだ。他の属性が使えるということは、完全な無属性じゃないんだよ。だからこうやって魔水に偏りとして現れる」
アオの魔水が入った容器を揺らして、そこから反射する光が淡く青い光をキラキラさせている。
「もしかしたら本当に無属性しか持っていないかもしれない、でも星属性魔法を使った。この矛盾が私の研究者としての血を騒がせてくれるんだよ!」
「……そうなんですね、あっ、そろそろポーション製作の続きやりましょう! みんな待っているみたいですし」
これ以上を聞いてみたい気持ちはあるけど、アオやコカはともかく、他の知らない冒険者も一緒にクエストを受けているので、ポーション製作に話しを戻すことにした。
「そういえばそうだったね。こんな所で新しいものを見て気持ちを抑えられなかった。続きを始めようか」
サイエンが俺に魔水を返すと、自分の使っている机に移動した。俺も自分の机に戻るとポーション製作の続きが始まる。
「えーっと、どこまでやったかな? 魔石に魔力を込めて、洗って、煮て魔水を作って、容器に移したところまでやったから…………おっと、まだ魔水を作る途中だったね、それじゃあ残りの魔法石でさっき教えたのと同じように魔水を作るんだよ。分からなかったら聞いてね」
こうして残った魔法石で魔水を作り、容器の中に全て移した。
「次は釜に残った魔水を全部釜から出すんだよ。今度は釜にある水も一緒にしても大丈夫だよ」
俺らは釜に残った魔水を水と一緒に掬い取り、別の容器に移した。
「これで釜の中には魔水は無くなったね。次は、釜に薬草を入れて煮ていくんだよ」
サイエンは両手いっぱいに薬草を掴むと、釜の中に放り込んだ。そして棒でかき混ぜて、どんどん水の色が青くなっていった。
薬草を取り出し、釜の中にある薬草のエキスがしみ込んだ青い液体を、ザルを使って薬草の残りカスが入らないようにしながら容器に入れた。
俺らもサイエンと同じように進めて、透明な魔水と青色の液体が用意できた。
「この薬草から採れた薬草エキスと、魔水を合わせることでポーションが完成する」
サイエンは試験管のような容器2本を用意して、片方には魔水を半分、もう片方には薬草エキスを魔水と同じ量になるように半分入れた。
その2つを別の容器で混ぜ合わせると、最初に参考として渡されたポーションと同じ薄い青色のものが出来上がった。
その液体をポーションの容器に入れ、蓋を閉めると道具屋でも売られているポーションが完成した。
「これでポーションは完成だよ、だけど注意しないといけないのは、私がさっきやったように、魔水と薬草エキスの配分が5:5が正解と限らないということなんだ。君たちの作った魔水の質や薬草エキスの濃度によって、組み合わせる比率が変わってしまう。だから最初の1つ目は失敗しても気を落とさなくていいんだよ。そこから魔水を増やすのか、薬草エキスを増やすのか一緒に調整してあげるから、私に頼るんだよ」
「サイエンさん、俺の作ったポーションの出来はどうですか?」
俺は濃い青色をしたポーションをサイエンに見せた。
「シン君が1番か、どれどれ…………これは魔水が全然足りていないんだよ。次はもっと魔水を増やしてみると良いんだよ」
「はい、ありがとうございます!」
「サイエンさん、僕もポーションできました」
今度はアオがポーションを完成させたようだ。
「君のは魔水が多すぎるみたいだよ、魔水を減らしてみようか」
「分かりました」
こうやってサイエンはポーションが完成した冒険者の所に向かい、アドバイスをしていった。
全員最初のポーションは失敗になってしまったけど、2つ目を作っていく。俺はアドバイスを元に魔水を9、薬草エキスを1にして、1回目に作ったポーションより少しだけ青さが減ったポーションを完成させた。これをサイエンに見てもらう。
「……シン君、これはどれくらいの魔水を入れました?」
「魔水が9で薬草エキスが1で作りました」
「9:1なんだね…………どうしようか。ティスト、どうするのが正解だと思う?」
「そうだなー、これ以上魔水を増やしてもポーションの効果が弱すぎて売り物にならないし、薬草エキスの濃度を上げても意味がないと思う。魔水の質を上げるのが最善かな?」
「ティストもやはりそう思うんだね。ということだシン君、君にはもう1つ追加でやってもらうことが増えた、私に付いてきて一緒に道具を運んでもらうよ」
「分かりました」
「ティストは私が離れている間、私の代わりにポーションの完成具合を見て欲しいんだよ」
「りょーかい」
俺はサイエンについて行き、魔法薬製作室の更に奥に向かうことになった。
サイエンが奥の部屋の鍵を開ける。
「私が触れても良いと言ったもの以外触れてはいけないんだよ。ここの部屋にあるものは危険な物が多いからね」
「はい、気を付けます」
サイエンは部屋に入ると、入り口を直ぐ曲がった。俺もその後を追いかける。サイエンが立ち止まり、指差した所にある道具を先にある道具を見る。
その道具は3つの容器が付いていて、真ん中に1つ、その隣に真ん中にある容器に管が繋がった2つの容器がある見た目だった。
「これは?」
「これは濃縮器と言って、端に付いている容器に濃縮したい物を入れると、真ん中の容器に濃縮された物が集まるという魔道具だよ」
「これを使って俺の魔素の質を上げるってことですか」
「その通りだよ、この魔道具は君が運ぶんだ」
おれは濃縮器を両手で持った、なかなか重い。サイエンは俺が棚の方に倒れないように、隣が棚の所を歩き、俺は隣が壁の所を歩いていた
「2人きりになったしちょうど良さそうだね、シン君、君を時々呼んでも構わないかい?」
「ポーションを作りに来てほしいってことですか? でも今の俺の感じだとあまり良いポーションが作れそうにないのですが……」
「確かに今の君には期待をしていないんだよ、でも今日作ってもらった魔水を見る限り、シン君は絶対に私たちに必要な存在になるんだよ」
「買いかぶりすぎですよ」
「買いかぶりすぎかもしれない、でも私はシン君に可能性を見た。もし私の想定した通りに成長しているなら…………いや、まだまだ先の話しだな。とにかく、今のうちに他に取られないように先手を打っているだけだよ」
そう言って俺たちはみんながいる所まで戻って来た。
魔水と薬草エキスを合わせてポーションを作ったが、なかなか完成しなかった。どうやら俺の魔水は質が悪いらしく、今のままではいくらやってもポーションを作れないみたいだ。
そこで濃縮器という魔道具を別の部屋から持ってくることになった。
素材の紹介
・薬草エキス
薬草を煮ることで出来た青色の液体。




