103話 ☆2『ウッドォ討伐』③(属性)
森から帰ってギルドに着くと、受付を離れて食堂で昼食を食べているハンナさんと目が合った。俺を見かけるなり、口の中に残っていた食べ物をミルクで流し込んで声をかけてくれた。
「シンさんおかえりなさい、クエストクリアの報告ですよね? すぐ食べ終わりますので少々お待ちください」
「あぁ待ってください! 俺はまだクエストクリアしてないので食事を続けていて大丈夫ですよ」
俺が止めた頃には、ハンナさんは急いで食べようと頬に食べ物を詰めていて膨らんでいた。しばらくもぐもぐとした後、口の中に詰め込んだ物を全て食べ終え、やっと口が利けるようになった。
「そうだったのですね、もしかして負けたのですか? 服も焦げているようですし……」
「あはは……負けてはいないですけど、アイテムを使い切ってしまいまして、それの補充をしに帰ってきました」
「ということは、またすぐにクエストに向かってしまうのですね。もうお昼になっているので、あまり長く街の外に出ないように気を付けてください」
「はい、気を付けます! それじゃあまた、今度はクエストクリアしたときに会いましょう!」
「シンさんの活躍、期待して待っていますね」
俺はハンナさんと少し話した後、道具屋に向かった。
また俺とハンナさんの会話を聞いていた店員は火の羽を用意して俺のことを待っていた。今度から多めに買うことを勧められながらも、火の羽を1本受け取り、森に再び向かうのであった。
■
森に着くとギルド職員の人たちがウッドォの亡骸を運んでいた。所々燃えた痕があったので、俺が森で倒したウッドォだろう。
運んでいる後ろ姿を少しだけ見守って、俺は森の中へ入っていった。
「スラ!」「ゴブッ!」「ゴブッ!」
スライムとゴブリンたちを見かけて俺は草むらに身を潜める。
「お昼を過ぎているだけあって、魔物の活動が朝よりも活発になっているな」
俺はスライムとゴブリンが通りすぎるのをじっと待っているが、同じ所をぐるぐる回っているようで、この場所から離れてくれなかった。
しばらくすると、他の冒険者がゴブリンを見つけ、ゴブリンと戦うようだ。スライムはゴブリンが冒険者に意識を向けた隙に草むらに隠れてどこかへ行ってしまった。
俺もゴブリンとの戦闘に参加するべきか考えていたら、冒険者は攻撃をどんどん当てて、あっという間にゴブリンを倒してしまった。
そして倒れたゴブリンの胸を剣で貫こうとする。
「ゴッ……」
剣で貫かれたゴブリンが声を上げ、経験値を出した。
どうやら死んだふりをして冒険者が油断したところを狙おうとしたみたいだった。もう1体のゴブリンはその状況を見て逃げ出そうとするが、冒険者が背中から貫くことで、ゴブリンは身体を痙攣させた後、経験値を出して力尽きた。
冒険者は俺を見て魔物じゃないと分かると「大丈夫か?」と声をかけてくれた。俺は「大丈夫です」と答えると、周りにゴブリンがいるかもしれないから気を付けるように教えてもらい、森の奥に消えて行った。
「俺はまだまだ魔物を甘く見ていたってことだな。ゴブリンが死んだふりをするなんて思わなかった。ウッドォの時も油断しないで戦わないと!」
俺は気を引き締めてウッドォを探し始めた。
「見つけたぞ!」
葉は無く地面に根も埋まっていない、間違いなくウッドォだ。
俺は『パンプア』でバフをかけようとしたが、詠唱している途中で魔力が足りなくなる予感がして途中で詠唱を中断した。
「今日だけで2回も使っているもんな、魔力が足りなくなるのも仕方ないか……バフをかけることは出来ないけど、やれることをやるだけだ!」
剣を抜いて、手に火の羽を持ってウッドォに近づく。
「『ファイア』!」
「アァッ!」
火の羽から火の球が出てウッドォに当たったのを確認すると俺は距離を取り『スマッシュ』の詠唱を始める。俺の今使える魔力を全て込めて、ウッドォに付いた火が弱まるのを待つ。
「『スマッシュ』!」
飛んでいった『スマッシュ』は火で脆くなったウッドォに当たり、向こう側が見える程の穴を開けることに成功した。
「うっ……魔力を使い過ぎた……」
全ての魔力を使ったことで俺は眩暈がして倒れそうになる。持っていた剣を地面に刺してなんとか立つことが出来ていた。
「ア……ァッ!」
ウッドォは燃えてボロボロになっている枝を振って攻撃をしてくる。眩暈から回復した俺は、剣を下から上に振り上げて枝を払う。
脆くなっていた枝は簡単に切ることができ、切り離されて地面に落ちた枝は砕け散って灰に変わった。
俺は剣を両手で握りしめ、突進するようにウッドォに向かって行く。
「おらぁ!」
ウッドォの身体に剣を振り下ろす。しかし『パンプア』でバフをしていなかったからか、脆くなっているウッドォを一刀両断にすることは出来ず、途中で剣は止まってしまった。
でも、左右に揺らすと隙間が出来て剣を抜ける。
ウッドォは噛みついて攻撃しようとしてくるが、俺は必死に剣を振り続けて攻撃をしていった。腕が疲れて剣を持ち上げることすら辛くなってきた頃、ウッドォの身体が大きく揺れる。
その瞬間、ウッドォの上半分が後ろに倒れて、経験値を出した。
「…………勝った……んだよね? はぁ、疲れた……」
俺は剣を手放し、大の字で地面に倒れこむ。肩で息をするほど俺の身体は緊張が解けたことで腕の疲れが一層強力になった。
息も整い、そろそろ街へ帰ろうとすると、ギルド職員がやって来た。俺が倒したウッドォを回収するようだ。
横になって休んでいる俺に軽く頭を下げてから、ウッドォを袋に詰めて森から消えて行った。
俺は身体を起こして立ち上がり、手放した剣を拾い鞘に納めて、街に戻った。
■■
ギルドに帰ってくると、受付にいるハンナさんにクエストクリアの報告をする。
「ハンナさん、クエスト終わりました」
「シンさん、クエストお疲れ様でした。シンさんが倒したウッドォは、5体回収されたことをギルド職員が確認しています。こちらが報酬金となります」
俺は250Gと750GPを受け取った。
このクエストで50GPの火の羽を6本も買ったから、報酬金の750から300を引いた450GPが今回の儲けだ。
俺は遅めの昼食を食べて、自分の部屋に帰った。
部屋に帰ると、置いてある魔法書の属性魔法が書かれたページを開いて軽く読んでいく。
今日使ったアイテムの、火の羽から出てくる『ファイア』も当然載っていた。
魔物との戦いを有利にするには弱点を狙うことが有効であると実感した俺は、いずれここに載っている初級の属性魔法は全て覚えられるようにと心に誓うのであった。
一旦街に帰り、火の羽を補充。
他の冒険者がゴブリンと戦っていると、ゴブリンが死んだふりをしてだまし討ちをしようとしてきたが、そんなことには引っかからずに一突きして倒していた。
5体目のウッドォを倒すことが出来て、無事にクエストクリア。
火の羽を使ったことで弱点を狙うことの大切さを学び、色々な属性魔法に興味が湧いて、初級の属性魔法は全て覚えられるようにと心に誓った。




