100話 魔王幹部ブランチの能力!(一部)
「……て……くん……起き……シン……」
なんだか誰かに呼ばれている気がする、でもだんだんと声がハッキリ聞こえてくるようになった。
「起きてシンくん」
「アオ……何でここに?」
「シンくんがいつまで経っても帰ってこないから様子を見に来たんだよ」
「あ、そうか。俺いつの間にか寝ちゃったのか」
どうやら少し横になるつもりが寝てしまったようだ。
「あれだけのことがあったら疲れちゃうよね」
「そうだね。ユカリはあれからどう?」
「まだ目を覚ましていないけど、落ち着いて寝ているよ。じゃあシンくんそろそろ行こうか」
「行く? 何処へ」
「ギルドだよ。僕たちは魔王の幹部にゲームとはいえ遭遇したんだからギルドに報告しないと。それに、シンくんは……その、1回死んじゃったし……」
アオは俺がブランチによって殺された時のことを思い出しているのか、目に涙が溜まり今にも泣きそうになっている。でもアオは手で涙を拭っていつもの笑顔に戻していた。
「早く行こう! ハクくんがギルドで待っているよ」
「そうだね」
■
俺たちがギルドに着くと冒険者の数は朝に比べて少なくなっていた。掲示板に貼られているクエストはほとんどなくなっているので、ギルドに用が無くなったのだろう。
そうやって辺りを見渡していると、受付近くにハクを見つけた。
「……やっと来たか」
「ごめん、眠っていたみたい」
「……シンが一番疲れているだろうから気にするな。それと、俺の方から簡単に今回の魔王幹部についてのことをギルドに報告しておいた。詳しい内容はドラコニスさんたちの準備ができてから話すつもりだ……準備が終わったみたいだな」
ハクが掲示板の横にある扉に目を向けると、扉の奥から数人の足音が聞こえてくる。
扉が開けられると、ドラコニスさんと数人のギルド職員が俺たちの前に来る。
「今来られるのは3人だけですか?」
「……はい、もう1人は今も昏睡状態です」
「なるほど、分かりました。1人でも多く情報を集めたかったですが仕方ないですね、みなさんは僕に付いてきてください」
俺たちはドラコニスさんたちの後に付いて行って部屋に入っていく。
部屋には、色々資料を持ち込んで確認しているギルド職員が何人かいて、そのギルド職員からドラコニスさんはまとめられた資料を受け取り、全員席に着いた。
「これから魔王軍活動報告を開始する。現在我々が分かっている情報は?」
ドラコニスさんは資料がたくさん置いてある席にいるギルド職員に向かって状況を確認する。
「はい! 3日ほど前にアルン国領土の北に位置するキッタ村が壊滅、村にいた冒険者の活躍により村人、冒険者ともに死者は無し。ですが負傷した者も多く出ています。こちらが現在我々ギルドが把握している魔王軍の進行状況です」
「なるほど、魔王軍は最初の進行からまだ他の村や街に攻撃を仕掛けていないということですね。では、新たに魔王軍の動きがあったと報告が入っているので、そちらの情報が正しいと確認が取れ次第、情報を更新してください」
ドラコニスさんは資料を取り、新たな情報を報告する。
「先ほど、冒険者からこの街に魔王幹部が入り込んでいるという情報が入って来ました」
「何だって!」「魔王幹部が!」「いつの間に!」
「みなさん落ち着いてください」
騒ぎ始めるギルド職員を静かにさせ続きを話していく。
「街に潜入した魔王幹部の名はブランチ、数日前に街にある店で奇妙な箱を売りつけていたそうです。こちらがその奇妙な箱です」
蓋を開けギルド職員たちが中を確認する。
「これは……魔力を流してゲーム空間へ移動させるものですが、ただのゲームです。しかし禍々しい魔力をこの箱は秘めています」
「そうですか、ではこの箱自体には危険は無いということですね。では、その箱を売りつけたブランチの情報です。ブランチは小麦色の肌で、ツーブロックショートの茶髪の男ということですが……」
「…………キッタ村で戦っていた冒険者の話しによりますと、村を襲った魔物のリーダーらしき者の特徴が、小麦色の肌で、ツーブロックショートの茶髪の男と一致しています……」
「ということは、ブランチは魔王幹部でこの街に潜入していたのは間違いではないということですか」
部屋は重苦しい雰囲気になっていた。
「この事実は受け入れるしかありません。幸い他には被害が出ていないのでこれから対策を進めていきましょう。さて次は、ブランチの能力についてです。魔王幹部と戦闘になりスキルまで使わせて、生き残った冒険者たちがいます。彼らは今この部屋で我々の会議を聞いているので話しをしてもらいましょう。では3人ともよろしくお願いします」
ドラコニスさんは俺たちに話しを振って来た、ギルド職員からの視線が凄い。魔王幹部と戦ったのが俺たちだけなので仕方ないことだが、俺はブランチについて話し始めた。
「俺たちがブランチと遭遇したのは、その箱の中でゲームをしているときでした。どうやらブランチは冒険者が来るのを待っていたようで『この箱を使って冒険者の強さを計る』と言っていました」
「この箱はそういう目的で……」
「ブランチは魔力を解放しただけで、俺たちは立っていることも出来ずにいました、ゲームキャラクターがブランチの気を引いてくれたおかげでなんとか動けるようにはなりましたが、そのあと俺は、伸ばした魔力を身体に刺されて『エナジードレイン』というスキルを使われて何かが取られていくような感覚になり動けなくなってしまいました」
「『エナジードレイン』ですか……確か加護が失われていない状態でも生命力を奪うことができるスキルだったはず、そんなスキルを使ってくるとは」
「その後は意識が朦朧としてハッキリ覚えていませんが、大きなもので潰されてその箱から脱出していました。俺が分かるのはここまでです」
部屋は静まり返り、俺の話しを記録していたギルド職員のペンを走らせる音だけが響いていた。
「分かりました、では次に君たちに聞いてみましょう」
今度はアオとハクに聞くようだ。
「僕はシンくんがやられちゃった後、ブランチが僕に近づいて僕の胸のあたりに手を置くと衝撃が伝わってきて、気が付いたら箱から脱出していました」
「……俺もアオと同じく、胸に手を置かれて衝撃が来て箱から脱出させられました。強い衝撃ではありましたが、それほど痛いわけではなく、脱出させるためだけの何かだと思います」
「じゃあアオやハクは俺みたいに殺されて脱出したわけじゃないんだね」
俺は2人が痛い思いをしないで脱出できたことを喜んだ。ということはユカリも同じなのだろう。
「そうですか、いずれにしろ君たちが死なずに済んで良かったです。さて、今回は魔王幹部のブランチについて一部ではありますが能力を知ることができました。これらの情報は上位冒険者たちに必ず役に立つはずです。以上、これより魔王軍活動報告を終了する」
ドラコニスさんはそう締めくくり、ギルド職員たちは資料を片付け始める。
「シンくん、アオくん、ハクくん、今日はご苦労様でした。あなたたちのおかげで魔王軍攻略の糸口になるかもしれません。明日に備えてゆっくり休んでください」
そう言ってドラコニスさんは部屋から出て行った。俺たちもギルドから出てそれぞれの宿に帰る。自分の部屋に戻る頃には夜になっていた。
アオたちと楽しく遊ぶ1日のはずがこんなに大変なことになるとは思わなかった。俺は店で買った喋りも動きもしないスライムのぬいぐるみを抱きしめながら、今度こそちゃんと自分の意思で眠りについた。
部屋で横になっていたら寝てしまっていてアオに起こされる。
ドラコニスさんやギルド職員たちとブランチについて話し合う。
・キッタ村
アルン国領土の北に位置にある村。
魔王軍によって滅ぼされ村はボロボロになっている
スキル紹介
・『エナジードレイン』
女神の加護を無視して生命力を奪う。
加護が無い状態で使えば効果は上がる。




