第8話 誰かを見守ること
『……お姉ちゃん』
『大丈夫、大丈夫よケニー。
お母さん、強いもん。こんなことで負けたりしないから……』
『でも……でも……』
俺とクロエが見ている画面の中で、ミリーと弟のケニーが抱き合っている。
そして、その2人の視線の先にはベッドで眠る母親の姿が……。
少し苦しそうなのは、病に侵されているからだ。
ミリーという少女を見守り始めて、2年の歳月が流れた頃、ミリーの母親が病のために倒れた。
ミリーは母親の病状を調べて、自分の薬草の知識を生かして薬を作成。
それを母親に飲ませると、段々と容体が改善していった。
ところが、薬を作るお金が無くなった。
今まで働いていた母親の稼ぎが無くなったため、ミリー1人にのしかかったのだ。
当然冒険者で薬師見習のミリーがそんなに稼げるはずもなく、生活は苦しくなる一方だ。
特に、ここ半年は母親が貯めていたお金も底をつき、ミリーだけの稼ぎで生活していたため、薬すら作れなくなっていた。
また、借金は信用がないためできず、もし借金をするなら対価としてミリー自身が借金奴隷にならなければならない。
だが、ミリーが奴隷になってしまうと、まだ幼い弟と妹が母親の面倒を見ないといけなくなり借金もできずに、ミリーは困っていたのだ。
「何だが、ドラマみたい」
ハラハラしながらクロエは、ミリーを見守っている。
そう、俺たちは見守ることしかできないのだが、ミリーの人生に影響がない程度には手を出すことができるはずだ。
では、この場合どうすればいいのか?
母親の病を治し、健康にする。
ミリーたちにお金を渡す。
このまま黙って見守る。
他にもあるかもしれないが、ここは今後のことも考えて母親の健康かな。
「クロエ、ここは母親を健康にした方がいいかな?」
「……ミリーの人生に影響ない?」
「う~ん、どうかな? この局面をミリーだけで乗り切ることはできないだろう。
もし何かあってミリーが奴隷になったら、家族がバラバラになりそうだよ?」
「それなら、助けてあげて」
というわけで、俺はゴッドポイント変換リストを出すとその中から母親に付けるスキルを探す。
「ミリーの母親に付けるスキルなんだから、大げさなものじゃなくて良いよね……」
完全健康体 4000P
健康体 2000P
病気耐性 1000P
状態異常耐性 1万P
…
ここはやっぱり『健康体』と『病気耐性』でいいかな。
今までの生活に支障のないものとするなら、ある程度ミリーが手助けできるようなものを選ばないとね。
「では、『健康体』と『病気耐性』にゴッドポイント交換!」
すると、画面の中のミリーの母親が一瞬光ったかと思えば、そっと目を開ける。
母親が起きたことを知ると、ミリーと弟のケニーが側に縋りつく。
『お母さん!』
『お母さん、もう大丈夫なの?』
『ミリー、ケニー、もう大丈夫みたいよ……。
お母さん、なんだが体の調子がいいの……』
そこへ、隣の部屋で眠っていた妹が部屋に入ってくる。
そして、ベッドの端に座りミリーとケニーがベッドに座り左右から抱き着いている母親の姿を見て、少しほほを膨らまして母親に飛びついた。
『ラナも、おかあさんにだきつく~』
こうして家族4人で一緒のベッドの上で抱き合った。
どうやら、これで一応の正解だったようだ。
これからもミリーを見守って、彼女がどんな生涯を終えるのか楽しみだ……。
そして俺は再びミリーを見守ろうとすると、隣ですすり泣く声が聞こえる。
気になって、隣にいるクロエを見ると、号泣していた。
「うっ……うう……グスッ……」
「……」
俺はそっと、クロエにハンカチを手渡す。
しかし、クロエって案外涙もろいんだな………天使なのに。
『チャリ~ン』
おや、ゴッドポイントが入ってきたぞ?
俺は不思議に思い、画面を見るといつの間にかミリーたち親子四人が祈りをささげていた。
『神様、お母さんが元気になりました。ありがとうございました』
『神様、何時までも子供たちを見守ってください……』
『神様、ありがとう』
『カミしゃま、ありがとう』
これか、ミリーたちが神に祈りをささげたからポイントが入ったのか……。
それにしても、こういう祈りはポイントに還元されるんだな。
面白い発見だ、これからも他の人々を見守る際はこの祈りというものを少し意識してみるかな。
トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルルルル。
再びミリーを見守ろうとすると、創造神からのホットラインが入る。
……何か、まずいことをしてしまったかな?
俺は受話器を取り、話をする。
「はい、もしもし?」
『お久しぶりです、コージ様。創造神です』
「おお、お久しぶり。今日はどうしたの?」
『はい、実は今コージ様が見守っている人のことなんですが…』
「ああ、ミリーね。この二年見守ってきたけど、いい子だね~」
『ありがとうございます。それで、お願いがあるんですがよろしいでしょうか?』
「お願い?」
『はい、本来ミリーを見守っている女神が戻ってきましたので、役目を移したいのですが……どうでしょうか?』
「ふむ、その女神は大丈夫なのか?」
『はい、私どもで叱っておきましたので二度とこのようなことはしないと約束できます』
俺は、創造神と電話をしながらクロエを見ると、クロエは一度だけ頷いた。
「わかった、ではこの二年の資料を送っておくよ。
それじゃあ、ミリーのこと見守ってあげてね?」
『はい、ありがとうございますコージ様』
こうして、ミリーを見守る仕事は終わった。
引継ぎはあっけなかったが、この二年間見守ってきたミリーなら大丈夫というクロエの太鼓判もあるし、心配いらないだろう。
こうして俺たちは、再び世界を見守る仕事に戻る。
ところで、ミリーを見守る間も『グリフィード大陸』は大きく動いていた。
戦争は無くなることはなく、いろいろな国で争い続け、この二年で消えた国がたくさん存在する。
攻め滅ぼされた国、吸収された国、植民地化された国など数多く存在する。
『グリフィード大陸』で今一番勢力が大きい国が、北にある『元ポルペード帝国』こと現在の『ボルサード帝国』だ。
ボルサード帝国は勝利した国々を吸収していき、今や大陸の半分を占めるほどの巨大な国家へと成長していた。
だが、巨大な国ほど内側は反乱の影が付きまとう。
現にレジスタンスや、吸収された国々の元貴族たちが『ボルサード帝国』を倒すため日夜抵抗を続けていた……。
「クロエ、今度はどこを見守ろうか?」
「なるべく、女の子がいい」
「それは、ドラマみたいだからか?」
「そう」
クロエの趣味で、見守る人を選ぶのも悪くないかもな……。
第8話がやっと出来あがりました。
また、次回もよろしくお願いします。