第7話 困った神様
カントの世界を見守り今日で、ちょうど1年が経過していた。
『何人、奴隷がいるんだよ~』
今、俺が見ている画面に映っているのは俺がスキルを与えた迷い人の高校生君だ。
ここに来るまで、数々の試練を乗り越え今では立派な英雄の仲間入りをしている。
仲間にも恵まれ、レベルも上がりスキルも色々覚えて充実した毎日を送っていた。
そして、わずか1年で『ホルバード王国』の王様を倒し、奴隷解放を成し遂げることができたのだ。
さっきの嘆きは、奴隷の数があまりにも多くて奴隷解放のための手続きが大変だったことのようだ。
「ついに、英雄になった」
「この半年、クロエと一緒に応援してたけど強くなったな~」
信仰の神たちも一目置いているみたいで、彼を鑑定してみれば、何人かの加護が付いていた。
中には、人間として彼の仲間になった信仰の神まで出る始末だ。
これから彼がどんな物語を生きていくかは分からないが、いずれ元の地球に帰れるといいかもな……。
それと、この1年『グリフィード大陸』以外の大陸はそんなに事件はなかったが、人の進出はあったな。
所謂、新大陸発見みたいな感じだ。
船で海に出る、この世界ではこれが難しい。
何せ、海には大型の魔物がたくさんいて安全に航海というものができないのだ。
命がけで海に出て、新大陸を発見したということだ。
『グリフィード大陸』の隣にある『グローリー大陸』に、ようやく人が進出したのだ。
距離は、地球のドーバー海峡ぐらいのものだが、この離れている距離を渡るのが問題なのだ。
さっきも言ったが、この程度の離れた海でも大型の魔物はいる。
寧ろ、陸上よりも海の中の方が大型の魔物は多いだろう。
これから何度も船が沈められ、人々は考え改良し、そして、海を1つ乗り越え大陸へ進出していく。
でも、おそらくそこまで苦労して進出した大陸でも戦争は起こるのだろう。
これはもう、人たるものの業なのかもしれないな……。
▽ ▽ ▽ ▽
信仰の神の住まう神界。
ここで一番頭を抱えていたのは、創造神かもしれない。
何せ、信仰の神の一部が、人の肉体を疑似的に作り地上へ行っていたからだ。
信仰の神は、コージという世界神とは違いゴッドポイントで何かを交換しているわけではない。
そのため、地上に降りるための『仮初の肉体』を自分たちの力で作れるのだ。
ただ、容姿までこだわる神は少なく、神の時の自分に似せた姿を作るため時々、魔物に間違われることがある。
そんな時は、仮初の肉体を作ってくれる神に頼むんだが、見返りを求められるそうだ。
「はぁ~、地上が楽しいのはわかりますが、神としての仕事をしてくれませんかねぇ~」
「創造神様、今は地上に迷い人がいるとき。
迷い人はいろいろな話題をもたらしてくれますから……」
「いえね、面白いのはわかりますが神としての仕事をしてほしいんですよね……」
地上に遊びに行った神の中には、重要な仕事を請け負っている神もいるのだ。
今から、代わりを探すとなっても何年かかるか……。
「レミブール、とりあえず今必要な神は地上から連れ戻してください。
見つからない場合は、私に知らせてください。
……コージ様に、世界神様に、お願いしなければならないかもしれませんから」
「わかりました……」
創造神の部屋から、レミブールが退出すると創造神は再びため息を吐くのだった。
▽ ▽ ▽ ▽
今日も一日、画面の前で俺は世界を見つめる。
この役割も慣れてきたな~、こんな時は時間を早めてみたい衝動に駆られるけど、そんなことをすれば緊急事態に対処できなくなるからな。
退屈でも、飽きてきても、通常時間で見守るしかないのだ。
トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルルルル。
俺の椅子に付けているホットラインが鳴る。
創造神から俺に電話とは、初めてではないだろうか……。
「はい、もしもし?」
『お久しぶりです、コージ様。今、大丈夫ですか?」
「お久しぶりですね、大丈夫ですよ。
それでどんな要件です?」
『はい、実は、大変申しあげにくい事なんですが、お願いがございます』
「創造神からのお願いとは、初めてですね。
それで、お願いとは何ですか? 俺のできることなら協力しますよ?」
『……あの、私どもの仕事を手伝っていただけないでしょうか?』
世界神である俺に手伝ってくれってことは、相当困ってのことだな。
これは、手伝わないといざという時ギクシャクして連携どころじゃないよな……。
「勿論構わないよ、それで、どんな仕事をすればいいんだ?」
『ありがとうございます! 仕事は簡単なんです。
こちらで指定した者を少しの間見守り、助けてあげてほしいんです』
「それは、スキルや加護を与えずにか?」
『与えても構いませんが、強力なものや人生観を変えるものはやめてください。
ただ、見守るだけでも構いませんので、お願いいたします』
なかなか難しい注文だな。
その者の人生観を変えるなか……。
「わかった、詳細をこっちに送ってくれ」
『では、よろしくお願いします』
受話器を置くと、クロエのもとに資料が転送されてきた。
紙媒体で、送られてくるとは珍しい。
俺はさっそく中身をクロエと一緒に確認していく。
「名前はミリー。 15歳の女の子で今年の初めに冒険者になったばかり。
現在レベルは14で、将来は薬師になることを目指している、か……」
こうして資料を読む限り、どこにでもいる普通の女の子だ。
ただ、姉弟が多く働いている母親を助けるために、冒険者で稼いでいるようだ。
がんばっているな……。
冒険者で稼ぎ、薬師になるための勉強をしている努力の子だ。
「クロエ、どう? 見つかった?」
「……見つけた、この女の子で間違いない」
画面を見ると、森の中で薬草採取をしている女の子が映っている。
髪をポニーテールにまとめた活発そうな女の子が、森の入り口の辺りでしゃがみこんで薬草採取をしていた。
麻袋に、丁寧に採取した薬草を入れている。
「真面目な女の子だね、この子を見守ればいいんだよね?」
「そう、神様がんばれ」
「ミリーの周りに魔物はいないようだね……」
それにしても、薬草だけを採取できるとは優秀だな。
これも薬師になるための勉強を頑張っている証拠になるのかな……。
でも、ミリーに薬師の才能はないんだよね……。
おそらく創造神は、努力で才能は芽吹くのかを証明したいのだろう。
これから先、ミリーにどんな試練が待っているのか分からないが、俺とクロエが見守っているんだ大丈夫だろう……。
第7話を読んでくれてありがとう。
書きたいものを書くってある意味難しい。
小説家の才能がほしい……。