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78 『巻き込まれ』

 店を開いて四苦八苦しながらも、アメリアから言い渡されていた一週間という期間を過ごしたレイス。


 彼は今、約束通り冒険者ギルドへと訪れていた。


「あの人、ちゃんとたどり着けたのかな」


 ギルドの中へ入ってから、ふとレイスは道中で出会った少女のことを思い返していた。自身と同じ黒髪で、頭の上に狐を乗せた変わった少女だった。


 まず間違いなく竜車に乗ってやってきた人間だろう。


「というかあの狐、尻尾が三本もあったな。ああいうのをマスコットとかにすれば目立ったりするんだろうなぁ」


 外装内装の設計、商品作製にロゴ入れ。店のために色々とやってきたが、まだレイスには心残りが一つ。


 それは――マスコット。


 飲食店や宿屋などで店の看板娘、などと言われたりするが、役割としてはマスコットも似たようなものだろう。いわゆる客引きに役立つワンポイントというわけだ。


 王都で店をやっていく上にあたって、少しでも知名度はあった方がいい。そのためのマスコットなのだが。如何せんそんな都合のいいものにレイスは心当たりがない。


 故に、少女の頭の上に乗っていた狐に興味を惹かれた。とはいえ、少女のペットであろう狐をマスコットにできるわけもない。


 つい最近、デイジーから少しは宣伝をしろと言われたばかりだ。依然として客の増加は見込めないままなので、早急に問題を解決しなければならない。そういうわけで話題作りになるものなら何でもほしいと思ってしまう。


「むぅぅ……」


 アメリアを待つ間、目を瞑り、熟考。

 そんな彼の隣に近寄る二つの影。


「……おーい、レイスさん。レイスさーん、聞こえてますかー」


 一人で考えに耽っていたレイスがふと目を開くと、目の前にはひらひらと控えめに手を振っているシルヴィアがいた。その隣には、いつも通りラフィーの姿が。


「ああ、ごめん。ちょっと考え事をな」

「随分と真剣そうでしたけど、何を考えてたんです?」

「つい最近ようやく店を開いたんだけど、中々上手くいかなくてさ。……まあ色々と」


 ラフィーとシルヴィア、互いに顔を見合わせ、パチクリと不思議そうに目を瞬かせる。


「……意外だな。てっきり私は人で溢れると思ってたぞ」

「私もです」


 予想と反する結果に、姉妹二人は本当に驚いていた。レイスの実力を一番近くで感じ続けてきた二人だ。そう思うのも仕方のないことだろう。


「商売ってものはそう甘くないってことだな……」


 レイスが感傷に浸っていると、彼が待っていた人物であるアメリアが戻ってくる。


「お待たせしましたレイスさん。こちら、失くさないように保管しておいてください」

「ありがとうございます。今日はもうこれで帰っても?」

「はい、審査自体は先週に終わっていますので、大丈夫ですよ」

「分かりました」


 依頼など、冒険者ギルドにこれ以上特に用はない。デイジーにも店を開くので依頼を受けられないことは伝えているし、しばらくは店に集中することになる。


 まずは客を増やすところから。


「じゃ、俺は帰ろうかな。二人とも、依頼気をつけてな」

「ああ、レイスも店、頑張れよ」

「頑張ってください!」

「おう!」


 笑顔で応え、レイスは出口へ向かおうとし――


「俺が、帰ってきた!!」


 突如、冒険者ギルドの扉が開け放たれたと思うと、そんな声が響き渡る。


 出口へ向かおうとしていたレイスの足は自然と止まった。ギルド内も静まり返り、冒険者たちの視線が一斉に出口へと注がれる。


 すべての視線を受けながらも堂々たる足取りでギルドへ入ってきたのは、金髪の男。全身を銀の鎧で包み、腰には剣を差している。非常に顔が整っており、微笑を浮かべている様は異性には魅力的に映るだろう。


 現に、レイスから少し離れたところにいる新人冒険者の少女は金髪の男に見蕩れている。


「俺が、帰ってきた」


 目を閉じて胸に手を置き、もう一度強調するように金髪の男は言う。レイスが彼を見て思うことはただ一つ。


 ――いや、誰だよお前。


 さも皆知っているだろう、的な雰囲気を出されてもレイスにはまったく見覚えのない人物だ。装いを見るに、冒険者であることは間違いない。


 しかし、そう思っているのはレイスだけのようで。


「おいっ、あいつってまさか……」

「ああ、間違いない。最近見ないと思ってたんだが、長期の依頼でもやってたのか」

「数少ないS級の……」


 周囲から一気にヒソヒソと話し声が聞こえてくる。金髪の男自身も注目に気を良くしているのか、左手で前髪を軽く払い、格好つけてみせた。


 ただ、レイスには誰なのかまったく分からない。ギルドから帰る前に訊いていこうと、レイスはラフィーたちの方へ振り返る。


 すると、そこには苦笑しているシルヴィアの後ろに何故か隠れているラフィーの姿。そもそもラフィーの方が身長が高いので、隠れると言ってもさほど効果はないのだが。


「……何やってるんだ?」


 金髪の男の正体よりも、まずそちらが気になった。ただ、ラフィー本人は至って真剣に隠れているらしく、口に人差し指を当てて静かにするように伝えてくる。


 目が本気だ。レイスにはどういう状況なのか訳が分からないが、何故かラフィーはここ最近で一番真剣な目をしている。


 仕方なくレイスは会話を諦めた。このままここにいても仕方ないと思い、帰ろうとするが。


「おおっ、そこにいるのはラフィーじゃないか」


 金髪の男の口から、ラフィーの名前が出る。思わずレイスがラフィーを見ると、彼女は今まで見たことのないようなげんなりとした表情をしていた。


 金髪の男は笑みを浮かべてラフィーの前まで歩み寄る。


「久しぶり、ラフィーにシルヴィアちゃん。元気にしてた?」

「……ああ、久しぶり、エリアル」

「お久しぶりです、エリアルさん」


 名前を知っているということは、知り合いなのか。思わず足を止めて会話を聞くレイス。


 ギルド内の冒険者たちもラフィーたちの会話を気にしているようで、変わらずヒソヒソと話し合っていた。


「おい、また始まるぞ」

「いつものアレな」


 隣の冒険者から聞こえてきた言葉に、レイスは首を傾げる。ただ、その答えはすぐに分かることになる。


「――それで、俺と付き合ってはくれるのかな?」


 近況やちょっとした雑談をしていたエリアルとラフィー。しかし、話題は一気に変わりエリアルの口からそんな言葉が飛び出る。


 思わずレイスは面食らう。


 ただ、告白を受けたラフィーに動揺はない。静かに首を振り、否定の意を示した。


「エリアル、何度も言っているが、私にその気はない」

「ああ、何度も聞いたとも。だけど、俺は諦めないよ。君に意中の相手がいないのなら、何度だって告白しよう」


 ラフィーは困ったようにを眉を寄せたあと、急にハッとした表情になる。そして何故か、レイスの方をチラリと見た。


「いるさ」

「……?」

「付き合っている相手が、いる」


 ラフィーの言葉には、シルヴィアやアメリアも驚いた表情。何より、エリアルは澄ました表情を崩して目を見開いていた。


「なっ……! だ、誰なんだ!?」


 ラフィーはその言葉には答えず、真っ直ぐ歩き出す。その視線の先に捉えているのは――


「この人だ」


 逃がさないとでも言うようにガッシリと右腕を掴まれたレイス。頑張って振り解こうと試みたものの、右腕はビクともしない。


 そんな中、集まるギルド中の視線。部外者だと思っていたのも束の間、何故かいつの間にか巻き込まれている。


 ……何これ、どういう状況。


 理解が追いつかず、硬直することしか出来ない。

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