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68 『計画』

 仮面の男の襲撃から五日。


 レイスは五日の間に燈銀の実験や謁見の申し出をこなし、多忙な日々を送っていた。


 そして、現在。


 王都に聳える王城の一室、謁見の間にて、レイスは二度目となる謁見を迎えていた。


「面をあげよ」


 横目で立ち並ぶ騎士を見て久しぶりのようにも感じられる厳かな雰囲気を感じながら、レイスは言われたとおり顔を上げる。相変わらず隣のルリメスは眠そうな表情で、緊張の欠片も感じられない。


 前回と違う点を挙げるとするなら、この場で王と謁見しているのはレイスとルリメスの二人だけだということだろう。オルダはともかくとして、セスもこの場にはいない。


 元々、依頼を達成するのはレイスという約束もあったのだが、また別件で今、セスは忙しいのだ。


 王はレイスとルリメスへ期待を込めた視線を向ける。


「晶竜を救う手立てができたと考えてもよいのか?」

「はい」


 問いに対し、言い切ってみせるレイス。もちろん自信があるからこそ、この場に来ているのだ。前方の台座の上にいる晶竜を見て、改めて気合を入れ直す。


「では、頼んだ」


 レイスは立ち上がると、晶竜の元へ。以前よりも更に衰弱しているように見える晶竜はレイスを見て、小さく喉を鳴らした。


 敵意を感じるようなものではなく、穏やかな声だ。


「任せてくれ」


 レイスも言い聞かせるようにそう言うと、鞄から一つの鉱物を取り出した。手に収まるほどの大きさの真っ白な鉱物だ。


 その正体は、レイスとルリメスによって作り出された魔道具の一種である。


 以前、レイスがスケルトンに襲われた際にラフィーが使用したルリメス手製の剣。アレや、レイスやニコラが持つ魔道具の鞄と原理は同じで、物質に対して魔法が込められた代物だ。


 魔法の内容は、水魔法の応用である氷結魔法。実験によって判明した、燈銀が液体へと変わる温度にできるように威力は調節されている。


 レイスは手に持った鉱物を、晶竜へと差し出す。ここしばらく何も口にしていない晶竜に対して、だ。


 晶竜は差し出された鉱物をじっと眺めたあと、ゆっくりとそれを口にした。思わずレイスは頬を綻ばせたが、喜ぶにはまだ早い。


 レイスの仕事はここからだ。


 一分もすると、晶竜にとある変化が起こり始める。背中の結晶にくっきりと浮かんでいた黒い濁りが、どんどん見えなくなっていったのだ。


 これは、結晶の中の燈銀の固体が液体へと変わった証拠である。


 ただ、これで晶竜の問題が解決したわけではない。それでも、レイスたちの予想通りの結果ではあった。


「よし。あとは俺の仕事だ……」


 レイスは濁りの少なくなった晶竜の結晶部分に手を当てると。


「『変形』」


 前回と同じように、錬金術によって結晶部分の形を変えていく。以前はそうすることで結晶全体に散らばっていた固体を取り除こうとしていたが、今回は違う。


 結晶の形を変える範囲を狭め、小さい円となるように『変形』させているのだ。『変形』の範囲を狭めることで力を強め、前回突破できなかった中層さえも乗り越えていく。


 しばらくすると、レイスは『底』に着いた手応えを感じた。


 何も、レイスは闇雲な場所を円状に『変形』させていたわけではない。溶かした金属を身体の表面へ流す管――先程まで固体だった燈銀で塞がれていたところを目指していたのだ。


「『抽出』」


 管へたどり着いたことを確信し、レイスは錬金術を切り替える。液体となった燈銀を取り除くのだ。このまま液体となった燈銀を放置したところで、また固体に変わるだけである。


「師匠!」

「うん、分かってる」


 結晶に開いている細い穴から出てくる青黒い液体となった燈銀は、ルリメスの魔法によって宙に浮かぶ。やがてすべての燈銀が取り出されると、ルリメスの手にある小瓶へ注がれた。


「『変形』」


 最後にレイスは、結晶に開いた穴を錬金術によって塞ぐ。


 晶竜の背から黒い濁りは消え、本来あるべき美しい姿を取り戻した。


「終わりました。これで、大丈夫なはずです」


 レイスの言葉を証明するかのように、晶竜が翼を広げて透き通った声で鳴く。美しい結晶の破片が宙を舞い、光を反射させた。


 ――パチパチと、拍手が巻き起こる。


 レイスが困惑気味に周囲を見ていると、穏やかな笑みを浮かべる王の姿が目に入った。


「よくやってくれた、この国の王として感謝する」


 王すらも手を叩き、レイスとルリメスへ感謝を述べる。慌ててレイスは膝を着くと、恭しく頭を下げた。


「ありがとうございます」

「報酬に関しては、近いうちにギルドを通じて支払おう。本当によくやってくれた」


 慣れない拍手を受けながらも、レイスは無事依頼を終えるのであった。




 ***




「それで、どうなったんだ」


 依頼を終えたレイスは一人、喫茶店でセスと会っていた。どうなった、とは五日前にあった襲撃に関することについてだ。


「まあ、あの男は当然だけどオルダと繋がってたみたいだね。レイスとラフィーさんたちを見てたのも、あの男だったみたいだ。オルダ含め、父さんから割と重い罰を食らっていたよ。それに、今後オルダは重要な役職には就けないだろうね」

「それでも軽すぎる気がするけど……まあ、そこは俺が口を出すところじゃないしな。ということは、家はセスが継ぐのか?」

「そうなるだろうね」


 これで、セスの家を継ぐという目的は達成されたわけだ。


「おめでとう」

「ありがとう……と言っても、なんだか釈然としないけどね。レイスの方は依頼は無事に達成できたのかい?」

「ああ、大丈夫だった」

「なら良かった。……そういえば、僕からレイスへの報酬の方はどうすればいい?」


 元々、レイスとセスが協力し始めたのはセスが家を継ぐという目的を達成するためだ。少々歪な形でそれが達成されたとはいえ、約束は約束だ。


 セスは義理堅く報酬を支払う意志を見せる。


「それなんだけどさ、報酬は金銭じゃなくてもいいか?」

「まあ、僕は構わないけど……何が欲しいの?」

「セスの家って薬師で有名な家系なんだろ? じゃあさ、当然薬を作るための材料を仕入れる固有のルートを持ってるはずだよな」


 薬を作るためには材料がいる。


 四大貴族程の規模の薬師の家系となれば、そのための人脈や物流は最高と言っていいレベルで整っているのだ。


「俺にその素材の一部を定期的に回してくれ。もちろん、金は出す」

「別にいいけど、随分変わった報酬だね」


 錬金術師としては素材は大切なのは確かだが、それにしても変わっている。レイスもセスの頼みを引き受けた当初は、金銭の支払いをお願いするつもりだった。


「やりたいことがあるんだ。そのために必要だと思ったからさ」

「何をやるつもりなんだい?」


 レイスはニヤリと笑みを浮かべると、堂々と宣言する。


「店を開こうと思う」


 レイスは工房を作り始めたときから薄々考えていた案を、実行しようとしていた。


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