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5 『冒険者も悪くない』

「冒険者登録をお願いします」


 再びアメリアの前へ戻ってきたレイスは、開口一番そう言った。隣には、微妙な表情をしたラフィーが佇んでいる。


「本当に登録するのか……」

「ああ。単純に興味が湧いたのもあるし、報酬も貰えるなら登録しておいて損はない」

「まあ、確かにそうだが……」


 ラフィーが心配しているのは、レイスが依頼で常識外のことをしないかどうかなのだが。


 ――もしポーション作製の依頼でエリクサーでも渡そうとしようものなら、全力で止めねば。


 ラフィーが心の中で誓いを立てていると、冒険者登録が完了する。


「レイスさんはF級からのスタートとなります。D級までは討伐依頼以外の依頼でもランクを上げることができます」


 D級からは魔物の討伐依頼をこなさなければランクを上げることができない。つまり、魔物と戦えないレイスが上げられるランクの限界はDまでということだ。


「せっかく登録したんだ、何か依頼を受けてみるか?」

「んー、そうだな。さっき一つ気になった依頼があったんだ」


 レイスはそう言って、掲示板から一つの依頼を持ってくる。


「これは……錬金術の手伝いの依頼か?」

「ああ」


 錬金術師であるレイスにぴったりの依頼だ。初めての依頼としてもちょうどいいだろう。しかし、依頼の用紙を見たアメリアは苦い顔をした。


「この依頼はやめておいたほうがいいかもしれません」

「どうしてですか?」

「依頼主の錬金術師様が偏屈だって有名で……依頼を達成した人もいなくて、あまりオススメできません」

「ほうほう」


 レイスは腕を組んでうんうんと頷いた。


 確かに、アメリアが渋るのも分かる。苦労すると分かっているところにわざわざ行く必要なんてないだろう。


 というわけで、


「よし、じゃあこの依頼受けます」

「……あの、話聞いてました?」

「はい、聞いてましたよ」

「じゃあなんで……」


 レイスはニコリと笑い、言い放った。


「面白そうだからです」


 レイスの様子を見て、ラフィーは諦めたように肩を落とす。もともと、レイスにまともな考えを求めてはいない。


 そもそも、依頼主の錬金術師も手伝いの依頼で自分以上の錬金術師が来るなんて想像もしていないだろう。そう考えると、案外何とかなるかもしれない。


 ……レイスが何かしらの波乱を巻き起こさなければ、だが。


「レイス、この依頼を受けるなとは言わない。だけど、間違ってもエリクサーを見せたり作ったりするなよ」

「あ、ああ……」


 小声で念を押すラフィーの迫力に半ば強制的に頷かされたレイス。ラフィーは、レイスが何かしないように同行したいのは山々なのだが、錬金術に関しての技術を持たないので邪魔をするわけにもいかない。


 なので、こうして忠告をしているのだ。


 レイスとラフィーの会話の終わりを察したアメリアは、神妙な顔をして依頼の用紙に判を押した。依頼の受理を示すものだ。


「分かりました、レイスさんご自身が受けるというのであれば止めません。こちらが依頼主様のお店の場所だそうです」


 レイスは差し出された地図と依頼の用紙を受け取る。


「ありがとうございます」

「では、御依頼の達成を祈っております」


 丁寧に頭を下げるアメリアと不安そうな表情のラフィーに見送られ、レイスの初めての依頼が始まった。



 ***



「ここが依頼主の店か……」


 アメリアから手渡された地図を頼りにたどり着いた場所。そこにあった店は大きくもなく小さくもなく、といった普通の店だった。


 ここに来るまでに何度か迷ったことは、ラフィーには秘密にしたいところだ。


 どうも彼女は、心配性な面がある。


 今回の依頼を無事成功させて、ラフィーの信頼を勝ち取るのも悪くないだろう。


「よしっ!」


 気合いは充分。やる気を漲らせて、店内へと入る。店内は覚えのある薬品臭のようなものがし、色とりどりのポーションが棚に陳列されていた。


 錬金術師であるレイスにとっては見慣れた光景だ。特に驚くこともなく、カウンターまで進む。


「すみません、依頼で来たんですけど……」


 レイスは、カウンターにいた少女に話しかける。おそらく、年齢はレイスよりも下だろう。


 透き通るような青色の髪を肩ほどまでに乱雑に伸ばし、白衣をまとった小柄な少女だ。目の下にはくまができており、可愛らしい顔が今は疲れきったように歪んでいる。


 まさか依頼主だとは思わないが、ほかに人がいないのだ。本当の依頼主は、おおかた店の奥でポーションを作っていたりするのだろう。


 ――と、思ったのだが。


「ああ、ありがとね。さっそくだけど、来てくれるかしら」

「え……?」


 レイスは困惑し、思わず静止してしまう。


「何よ、私が依頼主のデイジーよ」

「え……君が?」

「ええ、そうよ。何か?」


 苛立った口調で不快げに言い放つデイジー。ただ、見た目はどう考えても十二歳程度の子どもなのだ。とてもじゃないが店を運営しているとは信じられなかった。


「先に言っておくけど、私はこれでもあなたと同じくらいの年齢だから」


 ――なん……だと。


 レイスは内心では衝撃を受けながらも、決して表情に出さないように努める。ここでボロを出せば、また目の前の少女が怒るのは目に見えていた。


「そ、そうなんだ。俺はレイス、依頼を受けに来た冒険者だ」

「はい、どうも。今度は黙ってついてきてね」


 鼻を鳴らし、店の奥へずんずん歩いていくデイジー。言われた通り、レイスはその後ろに続く。


「で、レイスは錬金術を始めてどれくらいかしら」

「えぇと、七、八年くらい」


 レイスが錬金術を始めたのは十歳のときからだ。始めは我流で学んでいたが、十二歳からは師匠のもとで色々なことを学んだ。


「結構長いのね。なら、少しは期待できそう」

「それはどうも……」

「ほら、ここよ」


 デイジーがそう言って案内したのは、薬草が保管された一室だった。多くの薬草は、品質が劣化しないよう特殊な薬品に浸されている。


「あなたにやってもらいたいのは、ここの薬草の『抽出』と『浄化』よ」


 『抽出』とは、薬効を含んだ液体を作り出す錬金術で、『浄化』はその液体から不純物を取り除く錬金術だ。


 どちらも錬金術師には必須の技術であり、熟練の錬金術師ほど速度や精度が上がる。もちろん、レイスも使いこなすことができる。


「それだけでいいのか?」

「ええ、それだけよ。数はできるだけ多く頼むわ」

「分かった」


 案外簡単な頼みだな、とレイスが内心ホッとしていると、


「くれぐれも、失敗しないようにね」


 今まで一番軽く、可愛らしい声で告げられたその言葉は、なぜだか有無を言わせぬ最大の迫力を持っていた。


 恐怖で震えるレイスを尻目に、デイジーはその場を離れる。


 ――失敗は許されない。


 改めて気が引き締まったレイスは、いつも(・・・)通り(・・)の作業に取りかかる。


 そう、彼にとっては普通である錬金術を用いて。


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