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24 『想像以上』

「ぅ……さっむ」


 早朝。凍えるような寒さを感じ、レイスは目を覚ました。

 硬い椅子に身体を預けて寝ていたせいか、妙に身体が重い。


 身体をほぐしながら立ち上がると、昨夜から放置されている鍋などの道具類が目に入る。


「あー……」


 見たくないものを見た、といった感じの表情のレイス。とはいえ、見なかった振りもできない。


「片付けるか……」


 渋々、といった様子で動き出す。朝から身体を動かすのは本望ではない。


「はぁ……」


 テキパキと動いたおかげか、数分で片付いた。レイスはもう一度椅子に座ると、身体を休める。その手には、昨夜作製したポーションが握られていた。


「さて」


 いつまでも休んでいるわけにもいかない。レイスは鞄を持って立ち上がると、部屋の外へ。ひとまずリビングへ向かうと、すでに起きていたらしいラフィーの姿があった。


「おはよう、ラフィー」

「ああ、おはよう」


 レイスの姿を見たラフィーに、驚きはない。元々、ポーション作製のために、レイスはラフィーの家に泊まり込む予定だったためだ。


「アメリアさんは?」

「ついさっき、帰ったところだ。私が帰ってきたし、シルヴィアの看病はできるからな。それより……」


 ラフィーの視線が、レイスの手元に注がれる。その分かりやすい反応に、レイスは苦笑。


「ああ、大丈夫。ポーションは完成した」

「そうか……良かった」


 ラフィーは心底ホッとした表情で、胸を撫で下ろす。いくらレイスが熟練の錬金術師とはいえ、不安であることに変わりはなかったのだろう。


 ラフィーをよく見てみれば、少し疲れが残っているようにも見えた。不安のあまり、熟睡できなかったのだ。


「……とりあえず、洗面所を借りていいか? それからシルヴィアの様子を見ようと思う」

「ああ、大丈夫だ。そこの廊下を真っ直ぐ行って右手にある」

「ありがとう」


 ラフィーのお言葉に甘え、レイスは洗面所へ向かった。

 まだぼんやりとしたままの頭を目覚めさせるべく、躊躇なく冷水を顔に浴びる。


「ふぅ……」


 死にかけた次の日だというのに、疲れは完全に消え去っていた。これも師匠の無茶振りに耐えてきた成果だと思うと、目頭が熱くなる。

 下手をすると冒険者よりも死に掛けた経験が多いかもしれないレイスは、しみじみと生を実感していた。


「ああ、生きてるって素晴らしい……」


 錬金術師に似つかわしくないことを言いながら、レイスは身支度を整えた。


「待たせた。じゃあ行くか」

「ああ、頼む」


 リビングで待っていたラフィーを連れて、シルヴィアの部屋へ。

 レイスが部屋の中に入ると、すでに目を覚ましていたシルヴィアがベッドの上で座っていた。


 と言っても、やはり体調は優れず、壁にもたれかかるようにして座っている。顔色も青く、今にも意識を失ってしまいそうだ。



「シルヴィア……!」

「姉、さん……」


 力なく笑うシルヴィアを見て、ラフィーは慌てて駆け寄る。レイスもベッドの側に行くと、改めてシルヴィアを見た。


「『解析(アナライズ)』」


 思ったよりも進行が早い。

 『解析(アナライズ)』でシルヴィアの身体の状態を把握したレイスは、まずそう思った。


 もしレイスたちが悠長に時間を使っていたら、恐らく処置は間に合わなかっただろう。


「シルヴィア、これを飲んでくれ」


 レイスは動けないシルヴィアのために、口元までポーションを持っていく。シルヴィアはラフィーに身体を支えられながらも、ゆっくりとポーションを飲み干した。


「……何も起こらないぞ?」


 青い紋様が浮かび上がったままのシルヴィアを見て、ラフィーは心配げな表情になる。シルヴィアも効果が実感できないのか、不思議そうに自分の身体を見ている。


「このポーションは遅効性なんだ。だから、念の為に今日一日はまだ安静にしていてくれ。それと、俺がいいって言うまでは絶対に魔力は使わないように」


 念を押すように、最後の一言は力強く言う。

 錬金術によってヴェットの魔力吸収の性質は抑えられているとはいえ、自分から魔力を放つようなことをしてしまえば、最悪魔力を吸い尽くされて死んでしまうためだ。


 レイスの真剣な表情を見て、シルヴィアはコクリと頷く。


「まあ、とりあえず命の危険はなくなったから、安心していいよ。今日はゆっくり休んでくれ」


 レイスは真剣な表情から人懐っこい笑顔にコロッと変わる。


「ありがとう、ございます」


 淡い笑みを浮かべ、シルヴィアは答えた。


「さてと。じゃあそろそろ帰るとしますか。また明日、様子を見に来ると思う」

「分かった。――本当にありがとう、レイス」

「……おう、何かあったらいつでも頼ってくれ」



 ***



「…………」

「何ボーっとしてるの」

「いや、平和だなぁって」

「年寄りみたいなこと言うわね」

「やめてくれ、まだ十代だ」


 ラフィーの家から帰ったあと、デイジーの店まで来たレイス。今日はちょうど手伝いをする日だったのだ。


 森にいたときの命懸けの鬼ごっことは対照的な平穏な時間に、思わず気が抜けてしまう。


「つい一昨日くらいは死にかけてたからなぁ」

「どうしたら死にかける経験をするのかしら……」

「いや、ちょっと事情があって森に素材の採取に行ってたんだよ。そしたらやたら強いスケルトンと出会ってさ。死ぬかと思った」


 デイジーは、あっけらかんと語るレイスに呆れた目を向ける。

 そのあと、ふと考え込むような素振りを見せると、


「ねえ、あなたが会ったスケルトンって、前にあなたが助けた冒険者を襲った魔物じゃないの?」

「ん……?」


 唐突な話題にレイスは少しだけ思考を巡らせると、すぐに思い出した。確かに、レイスはエリクサーを使って冒険者の少女を助けた。


 まあ、それが原因で指名依頼の山に襲われることになったのだが。


「魔物がいないはずの森に魔物が出たって、冒険者ギルドで話があったそうよ。しかも、魔物の中には巨大なスケルトンがいたみたい。あなたが助けた冒険者に話を聞いても、同じことを言っていたらしいわ」

「まーじか」


 つまり、以前レイスがデイジーと話していた急に魔物が現れた場所とは、レイスが住んでいた森に他ならなかったわけだ。


「それで、そのスケルトンはどうなったの?」

「ん、倒されたぞ」


 レイスが気軽に言い放つと、ポーションを作り続けていたデイジーの手がピタリと止まった。


「……それ本当?」

「まあ、当たり前だけど俺が倒したわけじゃないぞ。一緒にいた冒険者が一人で倒してくれた」

「……そのスケルトン、最低でもA+級はあるっていう話だったわよ」


 笑顔で話していたレイスは急に真面目な表情になると、


「……マジ?」

「マジよ。大マジよ」


 最低(・・)でも(・・)A+だ。つまりそれ以上のランクという可能性もある。

 そんな魔物を単独で倒すのは、言うまでもなく普通のことではない。


 レイスは漠然とラフィーは強いという認識を持っていた。そんな彼女の強さを厳密に測るとするなら、S級冒険者の中でもトップクラス。文句なしに最強を名乗れるレベルだ。


「あなたと一緒にいた冒険者って誰なの?」

「ラフィーというお方なのですが……」


 レイスは驚愕のあまりおかしな口調で返答する。


「どうして急に敬語になってるのよ……。というか、ラフィーって確か最年少でS級冒険者になった人じゃないの」

「わぁお」

「凄さで言えば、あなたと良い勝負じゃない?」


 普段はレイスばかりが賞賛されたり驚かれたりするが、ラフィーもレイスと肩を並べられるほどの功績を持っている。ラフィー自身は、それを気にしたりはしないのだが。


「というか、あなたよくそんな大物と知り合いになれたわね」

「俺もそう思う」


 しみじみとラフィーとの出会いに感謝するレイスであった。

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