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23 『性質利用』

「ラフィー、やっぱりめちゃくちゃ強いんだな……」

「まあ、一応S級冒険者だからな」


 スケルトンの頭骨に突き刺さった剣を抜いて、少し照れたように答えるラフィー。絵面だけを見れば、ホラーシーンの一つと言われても違和感はない。


 これに血のオプションでも付け加えれば、目撃した人間のトラウマになること間違いなしだ。


 ただ、そんな状態はそう長くは続かなかった。

 ラフィーの足元で倒れ伏すスケルトンの身体が、灰になってぼろぼろと崩れていく。


 灰は風に流されて空に舞っていき、最後には紫色に光る拳大の石しか残らなかった。


「ん、魔石か。珍しいな」


 ラフィーは石を拾い上げ、しげしげと見つめる。

 魔石とは魔力が結晶化したもので、レイスが使った指輪のような魔道具を作る材料になったりする。


 魔石は強い魔物ほど体内に持っている傾向があり、魔物の体内で魔力を生み出して動力源のような働きをしているのだ。


 魔物を狩る冒険者という職業上、ラフィーは魔石を何度も見たことはある。しかし、拳大の大きさとなると、数回目にしたかどうかといった感じだ。


「へー、魔石ってこんな感じなのか、初めて見る」

「まあ、ここまでの大きさは珍しいぞ」

「みたいだな」


 レイスも魔石の存在は知識としては知っている。錬金術に応用したいとも思っていたのだが、残念ながらそんな機会になかなか恵まれなかった。


 ともあれ、目的であった素材の回収は無事完了した。家の残骸に埋もれてしまった素材のことは残念だが、仕方がない。悲しさを感じながらも、レイスは心の中で別れを告げた。


「さて、と。なんか無駄に時間かかったし、急いで戻るか」

「ああ、そうだな」


 すでに日が沈む寸前であり、森の中も暗闇が覆い尽くしつつある。帰ってからポーションを作る時間のことを考えても、早めに戻っておくに越したことはない。


 もちろん疲労もあるが、レイスとラフィーが弱音を吐くことはなかった。



 ***



 レイスとラフィーが王都に戻る頃には、空の色は真っ暗になっていた。王都を出発してから戻るまで、約二日が経過している。


 シルヴィアに残された猶予は、現時点で残り五日ほどといったところだ。と言っても、これはレイスの推察で、間違いないと断言できるものではないので、油断はできない。


 二人が急いで家に戻ってくると、シルヴィアは変わらずベッドの上で眠っていた。時折苦しげに呻く様子に、心が痛む。


 ベッドの傍らでは、看病の疲れからか、座ったまま眠っているアメリアの姿があった。レイスとラフィーがいない間、ずっとシルヴィアに付きっきりだったのだ。


 動けないシルヴィアのためにご飯を作ったり、身体を拭いてあげたり。看病をしている間も、ただひたすらシルヴィアの回復を願っていた。


「ありがとうございます」


 ラフィーは小声で感謝の言葉を口にすると、起こさないようにアメリアの肩にそっと毛布をかける。


「じゃあ、俺はポーションを作ってくる。どれくらいかかるかはまだ分かんないけど、なるべく速くできるよう頑張ってみる」

「ああ、頼んだ」


 レイスはそう言って、ラフィーから貸してもらった作業用の部屋に入る。もうここからは完全に錬金術師であるレイスの領分だ。


 森でラフィーに頑張ってもらった分、レイスは今頑張らなければならない。

 最低限の仮眠などは取っているので、休む気などなかった。


「さて、始めるか」


 鞄を開き、やる気を漲らせた声で呟く。レシピなどは頭の中にすべてあるので、問題はない。


「工房が欲しいな……」


 工房がなくても大きな問題はないのだが、やはりあったほうが便利であるのは確か。レイスは師匠が整えてくれた環境に慣れてしまったせいか、余計に不便に感じたりする。特に、今回の素材は特殊である。


「魔物、か」


 素材となるのは魔物だ。名はヴェット。

 北方に生息する極寒の環境を好む魔物で、ランクとしてはSSだ。意志を持つ植物であり、強力な魔法を使うことで有名である。


 もちろんそんな恐ろしく強い魔物をレイスが倒したわけではない。彼の師匠が実験に使うために倒したのだ。


 その余りを、レイスが譲り受けた形である。


 この魔物の最大の特徴として、魔力を(・・・)食う(・・)というものがある。触れたものの魔力を、微量ではあるが吸収するのだ。


 ヴェットが生きていればその性質は凶悪極まりないのだが、討伐された後は主に医療用として注目された。


 魔力晶病は魔力が結晶化する病だ。通常の方法での治療は難しい。


 そこで、魔力を直接吸収するヴェットの出番というわけである。


 ただ、植物のまま身体に取り込むと、魔力をすべて吸い尽くされて死亡する危険性がある。そのため、ヴェットは取り扱いが難しい素材としても有名であった。


 過去に加工に失敗したヴェットを患者が取り込み、死亡した例もある。絶対に失敗は許されない。


「乾燥させたヴェットをもみほぐして、水に浸けて適温で加熱。あとは、錬金術で加工」


 レイスは加工方法を反芻し、確認する。

 保存段階で乾燥はさせているので、あとは手順通りに進めていけば問題ない。


「よし」


 魔力遮断の手袋を嵌めると、ヴェットを手に取る。魔導師でもないレイスが素手で触ると、意識を持っていかれかねないためだ。


 翡翠色に光るヴェットのどこか筋のあるような硬い感触を感じながら、しっかりと揉んでいく。五分ほどそうしていると、徐々にではあるが硬い感触が消えていく。


「こんなもんかな」


 レイスは揉むのをやめると、水を入れた普通の鍋の中にヴェットを入れる。


 ヴェットは魔力を吸収するという性質上、魔術的効果を持つ魔道具との相性が悪い。そのため、今回は愛用の道具たちはお蔵入りだ。


「懐かしいな……」


 錬金術を始めた頃は、まだ技術もなければ道具も揃っていなかった。レイスは懐かしい気持ちを感じながらも、加熱を開始。


 『浄化』を使う前に大部分の細菌を殺すことが目的なので、加熱は形が変わらない程度に留める。


 数分待って、レイスはヴェットを取り出した。水を切って、ポーション用の瓶の中に入れる。


「『抽出』『浄化』『昇華』」


 いつものポーション作成なら『成分固定』の錬金術も使うのだが、今回は薬効を利用したポーションではないので必要ない。


 それよりも重要なのが『昇華』だ。


 本来なら薬効の効能を上昇させるための錬金術だが、今回は役割が違う。効能を上昇させるのではなく、下降させるのだ。


 つまるところ、ヴェットの魔力吸収の性質を抑えるために使用するわけである。


 ヴェットを加工する上での難所はここで、大抵の失敗例は『昇華』を上手く使えていなかったものがほとんどだ。


 ただ、『昇華』を効能上昇のために使える錬金術師は多くとも、逆のことをできる錬金術師は少ない。


 意図的に錬金術を操れる熟練者でもなければ、不可能な芸当なのだ。


「ふぅ……」


 淡く翡翠色に輝く液体が、レイスの前に出来上がる。澱みは一切なく、芸術作品と言われても違和感はない。


「あとはこれをシルヴィアに飲ませるだけだ……」


 言葉の端に疲労を滲ませながら、椅子に座り込む。流石に、身体の疲労が馬鹿にならない。


 レイスは目を瞑ると、数分もせずに眠りに落ちるのだった。

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