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21 『特異個体』

試験が終了しましたので、更新再開致します。

「ぶっちゃけ倒せるのか、アレ」

「さて、分からん。私もあそこまで巨大なスケルトンを見るのは初めてだ」

「なるほどねぇ」

「まあどちらにしろ、逃がしてくれる気はなさそうだ」


 ラフィーが剣を向ける先。


 再生した腕をぶらりと垂らし、警戒したようにレイスたちを見つめるスケルトン。正確には、ラフィーのみを警戒しているのだろうが。

 スケルトンは警戒はしているものの、闘志は消えていないようだ。隙を窺うように、じりじりと距離を詰めてきている。


「下がっていろ、レイス」


 ラフィーはそう言いながら、自らスケルトンとの距離を一歩詰める。

 そして、次の瞬間にはスケルトンの懐に入り込んでいた。


 レイスの目には、ラフィーの動きはまったく見えなかった。本当に一瞬で移動したとしか思えない。それはどうやらスケルトンも同じのようで、ラフィーの動きに反応できていなかった。


 スケルトンの胴体が、斜めに裂かれる。分断された骨でできた身体は、重い音を立てて地面に落下した。


「……勝った?」


 現実感が伴わないまま、レイスはぼそりと呟く。


 呆気ない。

 レイスが今感じている感情は、それのみだ。


 てっきり激戦が繰り広げられると思っていたためか、拍子抜けとしか言い様がない。


「……いや、まだだ」


 レイスが気を抜く中、ラフィーは戦闘が終了していないことを理解していた。その判断は正しく、分断されたスケルトンの胴体がカラカラと音を立てて繋がっていく。数秒もすると、元通りの巨体がラフィーを見下ろしていた。


「破壊は不可能、か」


 二度の攻撃を通して、ラフィーはそう結論を出した。

 現状、骨の身体を破壊して倒すのは難しい。


 となると、ラフィーが取れる手段は途端に狭まる。

 勝てないが、負けもしない。そんな不毛な戦いが続くことは想像に難くない。


 逃亡という手段がラフィーの頭に浮かぶ中、スケルトンの様子がおかしいことに気づく。


「なんだ……?」


 やけに、足下の影が濃くなっている気がするのだ。『闇』と言ってもおかしくないほど影の色が深くなると、スケルトンの白い足がドプリと影の中に沈む。影は沼のようにスケルトンの身体を呑み込んでいくと、やがて数秒もせずに全身を影の中に隠した。


「魔法か!」


 ラフィーが異変の正体を察すると同時に、影は動き出す。気配なく無音で移動する影の速度は、かなりのもの。この魔法によって、スケルトンは奇襲を可能としていたのだろう。

 影はラフィーに迫ると、すれ違いざまに片腕だけを出して足を掴もうとする。


 ラフィーは落ち着いて、剣を構える。


「悪いが、少し強引に魔法は破らせてもらう」


 ラフィーはレイスへの申し訳なさを感じつつも、


「【破断(シン)】」


 影に対してではなく、地面に向かって剣を振るった。


 剣が保有する威力は凄まじく、轟音が響くと同時に砂埃が辺りに舞った。ラフィーから少し離れていたレイスに対しても、強風が容赦なく襲う。


「うぉぉぉ……!!」


 視界が塞がれる中、レイスは吹き飛ばされまいと必死に姿勢を低くする。


 すると、突然膝裏に腕を回される。


「悪い、動かないでくれ!」


 ラフィーが謝る声が聞こえた瞬間、レイスの足裏から地面の感触が消えた。

 ――抱えられたのだと気づいた瞬間には、ラフィーは動き出していた。


 すぐに砂埃の中から脱出し、森の木々をかき分けていく。ラフィーの腕に抱えられる形、いわゆるお姫様だっこをされているレイスは、自分の顔を手で覆った。


「もうお婿に行けない……」

「そんなことを言っている場合か! あのスケルトンを倒せない以上、逃げるしかない。ここからお前の家までの道は分かるか?」

「ああ、それは大丈夫だけど」

「案内してくれ」


 あくまでレイスたちの目的は、レイスの家にある素材の回収だ。魔物を討伐しに来たわけではない。

 ラフィーに言われるとおり、レイスが道を指示しながら進んでいると、


「……おいおい、しつこすぎませんかね」


 ふと後方を見たレイスは、頬を引きつらせた。

 高速で移動する影が、後ろから迫ってきていた。


 影の中から、骨の身体がヌルリと姿を現す。スケルトンは半壊した鎧を身につけ、手には大剣を握っている。


「ラフィー、追ってきてるぞ!」

「ああ、分かってる!」


 焦りを滲ませた声で言葉を交わす。


 スケルトンは怒りを感じさせる様子で、大音量でカラカラと音を鳴り響かせた。


 耳が痛くなるようなその音に、レイスたちは顔をしかめた。


「何だよ、突然……!」


 レイスは耳を押さえてスケルトンを見て、気づいた。スケルトンの背後に、どんどんブラッドウルフが集まってきている。


 ――呼んでいるのだ、魔物(なかま)を。


「やばいです、ラフィーさん。あいつブラッドウルフ呼んでる」

「走りながら対応する! レイスは振り落とされないよう気をつけてくれ!」

「……まじ?」


 レイスの心の準備ができる前に、集まったブラッドウルフたちが襲いかかってくる。ラフィーは横目でそれを確認しながら、一撃で葬っていく。

 レイスが飛び散る血に青い顔をする中、ラフィーは怪訝な表情だ。


「この感触……」

「どうしたんだ、ラフィー?」

「いや、このブラッドウルフたち、多分生きていない」

「……ん?」


 ラフィーの言葉に理解が及ばず、レイスは首を傾げる。


「おそらくだが、あのスケルトンに操られているだけの死体だ。影を見てみろ」


 言われて、レイスはブラッドウルフたちの影を見た。うっすらとだが、影が伸びてスケルトンに繋がっている。


「魔法か」

「ああ」


 魔法による死体の操作。いわゆる死霊術。

 アンデッドらしいといえば、らしい。


 レイスはその光景を見て、ふと魔物除けのポーションがブラッドウルフに効かなかったことを思い出した。


 死体だったから、嗅覚がなかった。そう考えれば納得はいく。


 死霊魔法は、死者を使役できる魔法だ。ただ、死亡してからの時間経過によって、使役する死者の五感は薄れていく。


 結果、レイスを追っていたブラッドウルフの嗅覚は消えていたのだろう。


「というか、魔法を使えるスケルトンとか初耳なんだが……」

「稀に現れる特異個体というやつだ。深く考えるだけ無駄だ」


 魔物の中にも魔法を使う個体は確かにいる。例えば、竜が使用するブレス。


 とはいえ、死者の使役などは正規の魔導師と遜色ないレベルの魔法だ。このスケルトンをランクで表すと、相当高いことだけは間違いない。


「で、どうするんだ、ラフィー?」

「迎え撃つしかない。私が戦う間、レイスには素材の回収を頼みたい」

「ま、そうなるか。――そろそろ見えるぞ」


 レイスがそう言った数秒後に、木造の小屋が視界に現れる。ラフィーは一瞬で立ち止まると、レイスを地面へ降ろした。


「走れ!」


 ラフィーの叫び声を背後に、レイスは駆ける。直後、金属をぶつけ合う甲高い音が鳴り響いた。尻目で背後を見てみると、凄まじい速度で剣がぶつかり合っている。


 スケルトンも完全に本気を出しているようだ。レイスの素人目にはラフィーと互角のようにも見えた。


「とっとと回収しますか」


 レイスは久しぶりの我が家に懐かしさを覚える暇もなく、扉を開いて中に入った。

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