おてんば姫のBasic Military Training!
「あぁぁっ」「うぅ、水、水を…」「痛い…痛いぃ」
怪我をした兵が一帯に寝かされており、呻き声が木霊する。
「…うぐぐっ、ホントにここに中将が居るの?」
グランライト軍中将、マーシャ・ウエルネ・フォン・グランライトは、青い顔をしかめながら、リッツとマークと名乗った兵に訊ねた。
「ええ、中将殿。この先にいますよ」
「御気分はいかがですか〜?」
「お前は出世しないな、マーク。こういう時は、『中将殿、自分はスコップを用意しております!何時でもどうぞ!』こうだ」
「なら口直しに、エールも付けようぜ」
「いいぞ、マーク。その調子だ。ははは」
先程からペラペラとよく喋る二人には、上官であり貴族である自分に対しての敬意が、微塵も感じられない。
こんな対応をされたのは生まれて初めてだった。
「貴様ら、マーシャ様に対して失礼だぞっ。いい加減にしろっ」
自領から連れてきた護衛兵が二人に怒鳴りつけた。
マーシャも文句を言ってやりたいが、気を抜くと吐きそうなので、出来なかった。
「おいおい、軽い冗談だろ?」
「そう怒るなよ。あ、そうだ。向こうの駐屯地によ、キレーな姉さん達が来てるらしいぜ?行ってこいよ。スカッとしてきな?」
「おいおい、マジか。初耳だぞ。『リッツ一等兵!何故黙っていた!罰として、今晩は奢りたまえ!』」
「伍長の真似か?全然似てないだろ。はは」
「き、貴様らっ!馬鹿にするかっ!」
護衛兵が剣に手をかけた。
「はん、そりゃ馬鹿にするだろ」
「将官様が新兵みたいな顔してりゃ、そら、からかわれるぜ。特に、一番最後に来るような、頼りない将軍なんかはな」
怯えた様子もなく、実に憎たらしい。
ローレリアの風紀は緩んでいる。こんな兵が許されるのかと、マーシャは悔しさで一杯だった。
ふと気付くと、野戦病院を抜けて中規模の駐屯地にたどり着いていた。
「おい、聞いてるのか!貴様らっ」
あの憎たらしい二人は突然立ち止まり、装備を整え、この暑い中兜を着け、釦を首もとまで閉じた。
「聞いてるよ」
「さっさと行こうぜ」
どこ吹く風だ。
二人は広場のテーブルに着いている痩せた男の前にたった。
「中将閣下!グランライトのマーシャ・ウエルネ中将をお連れ致しました!」
まるで別人の様に規律正しく、自分の訪問を告げる。
マーシャと護衛兵は呆気に取られた。
「そうか。ご苦労!」
痩せた男、ケンヤ卿は立ち上がり兵に返礼すると、
「任務に戻れ。行ってよし!」
きびきびとした動作でおくりだした。
「はっ!失礼します、閣下!」
駆け足でさって行く二人。
自分は舐められていた。それがよく判って、さらに悔しくなった。
魔法実技も戦略講義も学園ではトップクラスなのにと、マーシャはプライドを傷付けられた思いだった。
なんでこの金髪ツインテールは、俺を睨むんだ?初対面だよな。
『乙女心は複雑怪奇 絶対なにかしたのです』
確定ですか会った事もないのに!?
『マスターですから』
…魔女裁判も真っ青だわ。
「…私はローレリア空兵団指揮官、ケンヤ・フワ……だ」
『自分の名前ぐらい覚えてください』
無理言うな。一度しか聞いてないじゅげむなんかおぼえられるか。
『せめて 4フレーズは 頑張ってください』
「私はグランライトの指揮官、マーシャ・ウエルネ・フォン・グランライトよ」
マーシャは拗ねたような顔で名を告げる。
……若すぎるだろ。どうみても子供じゃねえか。横のおっさんの方がまだマシだ。
『戦闘は終わっています 良かったですね』
本当にな。
「…それでマーシャ殿は何故此方へ?」
「父上が、貴方の指揮下に入って、戦場を学べと。かまわないでしょ。ローレリアのシノン」
えぇ……面倒な上に、めっちゃ嫌々じゃ無いですか。ヤダナー。
「私等より適任がおりましょう。それに我が部隊は後始末を行っているだけで、もう軍事行動はしませんぞ。そもそも、ご令嬢が何故、戦場を学びに?」
このお嬢さんに後始末が出来ると思えないし、あまりさせたくない。貴族の箔付けなら余計にだ
「どうしても貴方にって父上がっ。私は将来グランライトを継ぐ身なのっ。戦場を学ぶのは当たり前よっ」
そないにプリプリ怒らんでも。
「安心していいわ。魔法実技も戦略講義も学園ではトップクラスなのっ。邪魔にはならないわ!…グランライト公爵家の頼みを無下にするの?」
邪魔にならないとか……どっかで聞いた台詞ですね……。
『断れないようですね 本人が望むのです 手伝って貰いましょう』
どうなっても知らんぞ俺は……。




