魔導兵器シノンとシノンの兵隊達 5
「……これがローレリアか」
灰色の髪をした鎧姿の男が呟いた。
「敵の損害は軽微!人工魔性生物体は全滅した模様!」
偵察兵が傍らで叫ぶ。
「殿下のシノン殿も戦死したようですな」
赤毛の偉丈夫が顎を擦りながら殿下と呼ばれる男に話しかけた。
「ふん、所詮拾い物よ。ボスコネン。伝説のシノンとやらも、存外役にたたんな?」
冷たい瞳はクレーターから掘り出された黒髪の少女を見据え、
「棄てておけ。壊れた玩具など、なんの役にもたつまい」
そう吐き捨てた。
「…で、こっちの役立たずはどうする?」
ボスコネンと呼ばれた男は、目の前で土下座する男に顎をしゃくった。
「よくぞ我が前に顔を見せたものだな、ポエリーよ。非戦時下の都市から子供を一人連れ出す。そんな簡単な事も出来んとは、流石の余も想定出来なかったぞ?」
それは、子供に問いかける様な優しげな声だった。
「ひぃッ!お、お許しを殿下ッ!て、敵にはシノンが!姫はシノンが護衛し、近付けなかったのです!人工魔性生物体も牙歯にもかけずッ!仕方なかったのですぅ〜!」
ポエリーは地面に頭を擦り付け、許しを乞うた。
「ならばアルバースを殺せばよかったであろう?」
事もなげに言うが公爵の護衛は厚く、アルバース自身も、この国五指に入る剣の腕を持っていた。
「そ、そんな無茶苦茶なっ!待って!ま、ま、まって!亡命のやくそぎゅ…!」
ガシュッ!
「使えぬモノは、棄てられる。当然の理屈だと思わぬか?ポエリーよ?」
口を笑みに歪めた灰色の髪をした男の手には剣。血に濡れたそれは、夕陽に照らされ妖しい光を放っている。
宵闇がローレリアを包もうとしていた。
「よしっ!この都市には4万の兵がおる!全軍で…」
「やめんかっ!」
「無茶苦茶な事を言うなっ!」
俺とレイバーンの突っ込みが重なった。
アルバース閣下は、全軍突撃がお気に入りらしい。
「チェレンコフ軍は見た事のない歩兵と、驚くべき事に空を飛ぶ兵を運用している!無策に突っ込みでもすれば、取り返しがつかなくなるぞ」
ふーん、新兵器って事か?
『魔法化機動歩兵は 装備した外部骨格を魔力で駆動させる原始的な兵器です』
弱いのか?
『ヒトの4〜6倍の出力、速度です』
『敵ではありません』
いや、凄く強いだろうが。
『魔法空兵も同じような理屈の兵器です』
『ただし 軽量化のため装甲はありません』
弓とかで倒せそうだな
『時速200〜300㎞で飛行するため 弓で撃墜するのは現実的ではありません』
あれも駄目、これも駄目。じゃあどうするんだよっ。航空戦力だけでも圧倒的に不利じゃねえかっ!
『高速空戦型シノン ルーチェが 貴方のサポートを行います』
『敵シノンは撃墜済み 負ける要素はありません』
いやいや、俺ら大破したよな。もう治ったのか?戦えると?凄いなー、おい?
『………』
どうしたの?なんか言ってみ?
『Go to Hell Pervert』
なっ、誰が変質者だっ!!この野郎!
『野郎 ではありません ルーチェです』
「…一旦防衛に備えよう。伝令を出して王女殿下には引き返すようにと。王都にはこの事態を伝えるのだ」
レイバーンがそう纏めた。
脳内でわちゃわちゃやってる間に方針が決まったようだ。
機動歩兵と空兵はどんな攻撃をしてくる?
『歩兵は魔砲撃、空兵は魔法爆雷を落としてきます』
迫撃砲と空襲かよ。……制空権は敵にあり、遠巻きに狙い撃ち。不味すぎるだろ。
『この都市には聖霊式魔法シールドが設置されています』
『15日程なら魔法攻撃を防げるでしょう』
じり貧だなぁ。
〜10日後〜
「くそっ!そちらからも昇ってくるぞ!」
剣戟の音が城壁上に響き渡る。
敵は無尽蔵にゴブリンを突っ込ませてきたのだ。
四万いた兵隊も、昼夜を問わない防衛戦で疲弊していった。
さらに、
「爆雷がくるぞぉ〜!口を開いて耳を塞げっ!」
ドンッ!ドドッ!ドンッ!!
シールドは熱や爆発自身は防げても、それによって発生する空振は防げなかった。
爆振が容赦なく精神を削り取る。
ローレリアの士気は最早限界だった。
「……駄目だ。手も足も出ん」
アルバースが呟くように言う。
「ふん、弱音か。まだ戦死者は100に満たん。兵糧も充分!これからだ!アルバース公!」
レイバーンがアルバース閣下を励ますように言った。実際、レイバーンの指揮は的確で歴戦を感じさせる安定感があった。被害が少ないのはレイバーンのお陰だ。
「もう、100人も!だ!レイバーン卿!」
閣下は悲壮な顔で叫んだ。
「兵とは言え、民たちが!……このまま聖霊様の加護が無くなったら、何人が犠牲になる?非戦闘員も巻き込まれるぞ。」
チェレンコフは城壁だけではなく城壁内部も標的に砲撃していた。
「私は、降伏する」
アルバース閣下は毅然とした態度で俺たちを見た。
「……ミューゼ、すまぬ。公爵家の勤め、共に果たしてくれるか」
「はい、お父様。私はローレリア公爵の娘ですから」
ミューゼは大人びた瞳で俺を見た。
何時ものように、にっこりと微笑んだ。
「負け戦か……」
俺は城館の前、一人で佇んでいた。
「貴族の義務、か」
それでいいのか?アルバースとミューゼ……。
あの子を犠牲にするのか?
『修復率は60パーセント』
『単独戦闘はまだ危険です』
わかってるよ。でもな。
たとえ、一人でも戦ってやる。
俺は城館を見上げ、そこに居るだろうミューゼを想った。
踵をかえす。
『しょうがないヒトですね』
『貴方は』
へんっ、なんとでも言えぃ。
「何処にいくつもりだ」
「決まっているじゃないですか。ねえ?」
「お供致します!中将!」
「「領主さま!」」
みろよ、しょうがない奴は、他にもいるぜ?
ダリ、兵長、レイバーンと、たった87人の兵隊たち。
『loyalty』
『…Humans are stupid』
『That's why』
『it's beautiful』
何て言ってるかわかんねーよ。
『支援兵装 使用要件を満たしました』
『Chinon of soldiers Constitution』
「ウワッ」
「な、んだ」
「閣下!」
「「うわぁぁ!」」
地面から白い粘土が伸び、皆を包み込む!
地獄絵図である。
なな何をしたんだお前は!
『お前ではありません ルーチェです』
粘土が皆を作り替えていく!
生物と機械が合体した様な形に!
セ、◯ーフガード?!
『私達と リンクを繋ぎ 支援兵として』
『戦ってもらいます』
どうみても重工製とか!ヤバいやつじゃないですかヤダー!
『能力低下を補うにはこれしかありません』
それは判るが、元に戻せるんだろうな!?
人間辞めちゃってるぞ!どうするのっ!
『彼等は人間です 武装解除で 元の姿に戻ります』
よ、よかった……ん?彼等『は』?
……おい、俺は?
『……フフ』
怖いんだよ!お前ぇ!
『ルーチェです』
「こ、これは頭に知らない情報が」
「入ってくる……」
「これなら!」
「「戦える!!」」
『構成完了 出撃可能です』
ふん、どうなろうが戦うだけか。
「じゃあ、行くか?」
俺は皆を見渡した。
「おぉっ!」
士気溢れる返事だ。
『さあ、シノンとシノンの兵隊達よ』
『王家の敵を』
『打ち砕くのです』
『王家の』じゃないぜ。アルバースとミューゼだから、守りたいんだせ。間違えるなよルーチェ!
『……貴方をサポートして 戦うだけです』
『マスター』
可愛いげのないやつめ。
「全機出撃!我に続け!!」
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