魔導兵器シノンとシノンの兵隊達 4
「…よぉ、遅かったな」
俺を囲む皆に片手を挙げて、一言だけ。
「ふふ、無茶しないでくださいよ」
ダリが俺の肩を叩いた。
「遅れて申し訳ありません!」
兵長が真面目な顔で言う。
「早く治療をっ、ケンヤ様!」
メイドさんが心配してくれた。
「領主さま!ゴブリンを追い払いました!」
槍兵や民たち…。
「ケンヤ?大丈夫?どうかした?」
ミューゼが『何時ものように』しがみついてくる。
「別に、何でもないよ」
一粒だけ、涙を落とした。
「お、お前たち…あ、ああっ!」
レイバーンが泣きながら震える手を伸ばした。
「あなたっ」
「おとうさまっ!」
助けた女性と、子供が掛け寄って抱きつく。
「よ、かったっ。許してくれ…情けない私を…うう……」
「いいえっ、あなたっ、決してっ、あぁっ」
黄昏の光の中、膝を着き抱き合う三人の姿は俺にの心に深く染みた。
ふとミューゼと目が合う。にっこりと微笑んだ。
ミューゼを殺そうとしたレイバーンを、許せるような気がした……。
俺は何時までも『家族』を見守っていた。必死に戦って再び抱き合う事の出来た『家族』を……。何時までも見守っていた。
「って!違うだろっ!」
のんびりしとる場合か!
「にゅっ!」
ミューゼがビクッと、飛び上がり鳴いた。ビビりだなお前は。
「レイバーン!一体何があった?何故こんな事になった!」
俺はレイバーンに詰問する。政敵を陥れるのはわかる。しかし、どうやったか知らないが、自国の都市にあれだけ大量に魔物を引き入れたりしたら、そんなレベルじゃない。反逆者だ。
「ケンヤ卿……我が領地は、隣国チェレンコフに占拠された…。山に囲まれ街道が一本しかない我が領は、報せを走らせる事も出来なかった」
レイバーンは苦しみにまみれた顔で吐き出すように言う。
「そんな馬鹿な…仮にも辺境伯の軍を短時間で押し込めるわけないだろう?」
辺境伯は国境守護の重要な役割のはず。他の領地より兵や軍備は整っているだろう。それくらいなら本とかで見て知ってるぞ!
「くっ!奴等の展開の速さは想像を超える!あっと言う間に後方の街道が封鎖された!アルバース公が大軍を展開し、牽制出来たからよかったものの!そうでなければ今頃ここも墜ちていたぞ!」
逆ギレレイバーン。ヤルの?僕と。やる気なの?僕と?
しかし、宣戦布告も無しとはとんだせっかち野郎だな。チェレンコフ!
肉眼で見たら死にそうだなチェレンコフ!!
触ったら即死しそうだなチェレンコフ!!!
くそうっ!チェレンコフめっ!!!!
「……今更、頭を下げようとは思わない。私を斬るがいい。ケンヤ卿」
「………」
なんなの急に。
「だが!妻子は!妻子だけはっ、頼む!」
「あなたっ」
「おとうさまぁ」
「……チェレンコフが攻めてくるだろう。辺境伯、卿にはローレリア城壁の防衛を命じる。知っての通り、アルバース閣下は軍略が苦手だからな?ふふっ」
って言うしかないだろっ!ちっさな幼女と奥さんの目の前で、お父さんを殺せるかっ!
百パーセント恨まれるだろうが!ストレスで禿げるわ。禿げちらかすわ!
「…卿。……礼は言わんぞ。だが!その任、命果てるまで!勤めて見せる!」
なんだよ。小憎らしいなぁ。もぅ。
「とにかく、一旦撤退しようか。アルバース閣下と相談して今後の方針を決めよう」
皆がそれぞれ頷きを返した。その時…。
『It is approaching enemy』
「なに?どれくらい居る?」
『Estimates 14000』
「一万四千だと?」
ゴブリンと言い、遠征にどれだけ兵力を使ってるんだよ。全土を征服するつもりか?
『About 10 km』
『After reached in about an hour』
って言うか、英語やめろ!聞き取り難いんだよ!
『Sorry to be a pain』
くのッ!
落ち着け、周りから見たら一人でブツブツ言ってじたばたしとる、イッちゃった人にしか見えない。
「ケンヤ?」
ミューゼがまん丸瞳で此方を不思議そうに見ている。
ヤメロー!そんな目でミルナー!
「中将閣下!!敵影が見えます!」
兵長が示す方角を見た。ローレリアはなだらかな丘の上にある。遠くまで見渡せた。
「魔法化機動歩兵、騎兵隊、魔法空兵の機動兵団だ!」
レイバーンが憎しみを込めた目で睨む。
「……かなりの数のようですね」
ダリが額に日差しを作って言う。
比較的ゆっくり移動してるのは、もう日が沈むからか?
『敵は夜営装備を所持』
『開戦推定は 明日 06:00を想定』
作戦を練る時間は貰えそうだ。
「全員、城館へ!急げ!」
次から次へとまったく、忙しい事だな。本当に!