魔導兵器シノンとシノンの兵隊達
豊穣の大地ローレリア。
城壁の外ではいつものように農夫たちが汗を流していた。
「今年もよく実ったなぁ」
農夫は腰を伸ばし一息つく。
「この辺りは領主様のおかげで、土が肥えてるからよ。他のお国はもっと大変なんだとよ」
「そうなんか?姫様にシノンが出来たっちゅうし、神様に祝福されとるんかもなぁローレリアはよう」
違いないと、周りの農夫たちが一緒になって頷いた。
のんびりした人々の態度は、この土地が平和で暮らし良い場所である事を示していた。
しかし、
「お父さん、あれ・・・なに?」
農夫の幼い娘が西の空を指して問うた。
「あん?・・・なんだぁ?あれは?」
空には黒い雲、地平線には土煙があがっていたのだ。
ブロックを作る木枠に土を入れ、聖霊さんに固めてもらい、積み上げ、また聖霊さんに繋げてもらう。
流れ作業である。
「おお、立派な砦になりましたね」
ダリが言うように見た目は無骨な砦のような形になった。矢鱈大きくなったな。地面の土を使ったから、建物の廻りは深い空堀になっている。
スゴくねえ?
民衆に大工が居たのも良かったな。
ここまで3日かかっただけだ。
姫様はと言うと、
「もえもえじゃんけん、じゃんけん、ぽーいっ」
子供達とあり得ないくらい馴染んでおられた。
おい、公爵姫が穢れない子供に要らんこと教えるな。
因みに、夜はメイドさんとテントで普通に寝てた。タフな姫様だ。
あのラーテに包まれる等、許しがたいが仕方ない。17000馬力の躍動感、俺も感じてみたいぞ。
総統も納得するに違いない。
「とにかく、この方法で皆の家も作って行こう」
でかすぎる我が家で3日だ。民家なら一週間もあれば全員分出来るだろ。閣下から金をむしってきたから、暫く飯も食える。
「ケンヤ様、お疲れではないですか?さあ、此方の木陰で休みませんか?私の膝でよければどうぞおくつろぎください」
メイドさんがグイグイ来るな。ちょっと怖い。でも嬉しい。ミューゼが何故か間に割り込もうとグイグイ来てるな。
何をしとるんだお前は。
トウダイ、シャチョウ、ダイキギョウ、イシャ、色々あるがやっぱり地位があると違う。世知辛いな。
今は俺も住所不定無職から、22番街領主で侯爵。金も実力もないがな。没落感満載で胸がザワザワするな。
「貴様はっ!何用か!」
兵長の声が響き渡る。
何かあった?民をかき分け声の方に向かう。ミューゼは装着済みだ。
「どうしたんだ…」
何故お前がここにいる。レイバーン。
「くくっ、ケンヤ卿。久しぶりだな」
随分窶れているな。目付きが普通じゃないぞ。仮にも辺境伯が…一体?コジキになった?一緒に没落ライフするか?
「私はもう終わりだ!お前のせいで!邪魔をするから!」
八つ当たりかよ。知るかっての。
「ミューゼ姫を殺さねば我が妻子が殺されてしまうのだ!」
どういう事だ?何故?こいつ…脅されて?
「奴等が妻子を連れて来る」
幽鬼の様なレイバーンは此方へフラフラと近付く。
「まて、詳しく話せ。力になろう」
「姫をわたせぇ!」
駄目だ話が通じそうにない!
fullmoon状態だ。いやどちらかと言うと、darkか。見た目的に。
「はっ!…やっ!」
八艘飛びでかわし、張り倒した。
突き倒し〜!国技をなめるなぁ〜!
「愚か者め!」
兵長が槍を向ける。
「やめよ。…レイバーン卿、大丈夫か。何があった?話してみよ」
何故ミューゼが狙われるか知りたい。相手が誰かもな。
「ぐうぅ、殺せ。もう、遅い」
レイバーンが涙を浮かべ、そう言った時。
鳴り響く警告の鐘。
突如地面から現れた不死の兵隊たち。
悲鳴。叫び。混乱に沈む街。
「ウォォ!!?」
俺は超絶びっくりして、いきなり現れた骸骨をグーで殴り付けた!
びっくりしたっ!でも、弱っ!
一発で粉々じゃねえか。弱いならいくらでも相手になってやる!武器も持ってないしな。
「カーススカル!」
ダリが青い顔で叫んだ。
ビビり過ぎだろ。弱いぞこいつ。
「私がやろう。ミューゼ様は彼方へ」
メイドさん、頼む。
「ケンヤっ!ダメっ」
剣を抜き放ち、骨どもを睨みつけた。
「いくぞ!」
一回全力を把握せねば。また事故ったら大変だし。丁度いい相手じゃないか。
「やっ!ハァッ!」
やはり瞬発力が凄い。瞬間移動だな。カーススカルとやらの間を縫い、サクサク倒していった。
「ふぅ」
あっと言う間だった。動きかたのコツも掴めたし、満足である。
「ミューゼ様、皆、無事か」
皆、怪我とかしてないか?
「これは…、なんて、強さ……」
「…」
「……」
何だよ?なんでそんな目で見る?
「どうしたんだ?…ミューゼ様?」
もう敵は居ないだろ?
「ひゃっ、あっ、そのっ…」
怯えているのが見てとれた。
周りを見ると誰もが俺の方を見て、同じ顔をしている。
俺に怯えているのか。
……おかしいとは最初から感じて居ただろ?
飲まず食わずで動ける事、森の中軽装で怪我一つない。狼や強盗を何故倒せた?ただの人間にできる事か?紋章はまだなかった。化け物じゃねえか。
「俺は」
「空からも!インプです!中将、お気をつけて!」
兵長はぶれないね。好きになっていいかい?今、へこんでるからチョロいよ俺は?チョロインだよ?
「……」
逃げるか。もとから成り行きだったじゃないか。恐れられてまで、戦う必要あるか?
俺には関係ない。それでいいだろう?
ミューゼ、ダリ、兵長、メイドさん、アルバース、槍兵達、民達。助けてやりたいと思うのは、なんでだろうな。
『devil search……Detected』
「なんっ」
『combatmode on I hub control』
「あっ」
身体が軋み、目の前が暗くなった。
「ケ、ケンヤっ」
ミューゼの声が聴こえる。
『Fight for the king You to just it』
俺は、人間のままなのか?こいつらを守りたい…。この気持ちは真実なのか…。植え付けられた感情なのか……。
この世界の神とはなんなのか。シノンとは一体……。