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逃げ出した先の生き方は  作者: 間違い探し
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家が欲しい者達は 4

何だかこっちに来てから、1日が長い。


始発で出勤して、21時帰宅が通常勤務だった日本の方が短く感じるな。長かった筈なのに。

自宅と会社、自宅と会社。帰って寝るだけの日々。一週間などあっという間だ。


俺はおもむろにネクタイをむしり取って、投げた。


アディオス。社畜の日々よ。


「あっ、だめですっ!お行儀が悪いですよ!」

ミューゼは犬ころのようにネクタイを拾い上げ、俺の手に押し付けた。


エーパ・ジャーモ、アミーゴ!


叩きつけるようにネクタイを装備した。

…いや、鎧が邪魔で装備出来なかった!


「ふふっ。お持ちします」

メイドさんがネクタイを持ってくれるようだ。

ミューゼめが。スルーしろよ。笑われただろうが。


「此方へお座りください閣下!」

兵長が馬車の扉を開けて促す。

立派なべルマンになれるよ君は。

短気を治せばね。

基本、課長クラス以下の中途半端な役職連中は、月末になると煽りまくってくるからね。煽り耐性がないとやっていけないぜ?俺みたいになるぞ?


「では、姫様は後ろの席に。私はケンヤ様の隣にお仕えします」

メイドさんが席を決めた。好きに決めてくれ。

俺はファミレス等で最後まで座れないタイプだ。注文も苦手だ。人任せだぜっ。


「ケンヤの隣は私が座るのっ」

ミューゼは主張した。王女の主張。

「いえ、後ろの席が一番安全ですので。使用人が後ろの席等、とても…」


緊迫感が場を支配した。

どっちでもいいだろ。面倒くさいなぁ、もぅ!


俺はじゃんけんの役を教え、

「二人とも、よく見て欲しい。こうやって決めよう。」


「もえもえ」

サッ!

「じゃんけん」

ササッ!

「じゃんけん」

フリフリ!

「ぽ〜いっ」

バッ!!

俺はチョキを天高く突き上げた。

やりたい放題だな。色々あって吹っ切れてきたな俺も。


「ふわわっ、楽しそうですねっ」

「…本当にやるのですか?恥ずかしいですが…」

メイドさんには特にやって頂きたい。

だってメイドさんだからねっ!!


「行きますっ」

「「もえもえ」」

サッ!

「「じゃんけん」」

ササッ!

「「じゃんけん」」

フリフリ!

「「ぽ〜いっ」」

これは凄い。美女メイドと美少女姫が、もえもえじゃんけん。この凄まじさ。俺の心に強い衝撃を与え、沸き上がるこの気持ちは……そう、無償の愛。保護欲。守りたい、この笑顔とはにかみ顔。世界には愛が溢れている。イェーメン。


「やったっ、勝ちましたっ!」

「うぅっ、恥ずかしい」

慈愛について想いを馳せていると、ミューゼが勝ったようだ。


いいだろう。俺は充分満足した。

領地へ向かうとしようじゃないか。

出発だ!



そこには沢山のテントが建ち並び、難民キャンプの様相を呈していた。


何事?クーデターでも起きたのか?


ダリが此方を見つけ、近寄ってきた。

「ケンヤ卿、お戻りですか」

「ダリ、この者達は?」

「ケンヤ卿の民たちです!」

は?何だと?どっから連れてきたんだ?


よくよく見てみると、見覚えのある棒切れを持った人がチラホラと……。

この人たちは、門前で共に戦った槍兵たちだった。

「共に戦った者達か」


「ええ、卿に槍を下賜された者達!貴方に付き従う民ですね」

貴族に槍を下賜された平民はその貴族の民になるのが普通のようだ。槍じゃねーし。棒だし。マジかよ。いや、槍って言っちゃたけども!


「彼らは家財はどうしたんだ?」

まさかもとからテント暮らしなわけない。


「貴方の元に参じるため、売り払った様です。人徳の賜物ですね!」


嘘だろ。おい。持ち家を捨てるだと?思い切り良すぎだろ。あり得ない事するな、この人たちは。


しかし俺が彼らを戦わせたのは事実。逃げたいが、まわりこまれてしまった!ってなったら、市中引き回しの刑になるは必定。世話をせねば俺の命はない。一揆はいやだ。


これがノーブレスオブリージュかっ!


「おお、閣下!閣下が来てくれたぞ!」

わらわらと周囲に集まる領民たち。

ちょっと待ってくれませんかね。


自分の家すらこの有り様なのに人様の住居なんか考えてられるか。

俺は呆然と辺りを眺めた。テント以外はなにもない。あるのはゴミと平地だけだ。


「はじめての領民さん!嬉しいです!」

能天気だなお前はよ。彼らの生活はどうする。金はないぞ。閣下に頼るか。


いや、まてよ。聖霊さんが居るじゃないか。


「我が民たちよ参じてくれてありがとう!」

片手を挙げてそう言うと好意的なざわめきが広がった。大人気だぜ。やったねっ!くそう。


「この中に魔法を使える者はいるか!」

子供を含む6人が返事を返した。何とかなるか?


俺の考えは単純だ。

土を木枠に入れてブロックにし、ツーバイフォー工法の出来損ないで量産しよう。と言う事だ。積んだブロックも魔法でキレイに繋がるし。これならただで建築出来る。


「よし、この6人以外の手の空いている者も手伝ってくれ!」


「私も手伝いますっ」

「ええ、お願いします。ミューゼ様」

むしろミューゼが主戦力だ。

ダリにメイドさん、兵長も手伝ってくれるみたいだ。


よし、やってみよう。

実験の為、自分の小屋を改築するのだ。

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