家が欲しい者達は 3
何とかうやむやにして追い払ったな。
言い返されたらどうしようかとドキドキしたぞ。
このスリルを分かりやすく表現するならば、トルコリラをレバレッジ4倍ほどでポジったあと、ドル安に振れちゃった感じか。
アラートが出たら血の気が引くぞ?
スワップが追い付くかロスカットが先か。
賽は投げられた。最早祈るのみである。
「ケンヤ卿!お前、おま、お前は!」
閣下はぼんやりしすぎだろう。やっと此方に戻ってきたか。
「やり過ぎだぞ!いくら政敵とは言え…大怪我をさせてしまって!どうするつもりだ?!」
え〜?ム・カ・ツ・ク〜。上司の顔に似ててムカついたしぃ〜?なんか黒い事考えていたって言うかぁ〜?
「どうするつもりも御座いません。王の血筋に刃向かうならば、打ち倒す迄の事。簡単な話しです」
政敵なら余計になめられたら終わりだろうに。
大丈夫!人には沢山骨があるから、一本くらいどって事無い!ってどっかの誰かが言ってたよ!大丈夫、大丈夫!
ミューゼはしっかり見張っておかないとな。
糞が。
「そこの兵!ポエリー男爵はどうした?」
いつの間にか兵長が戻ってた。直立不動だ。
「はっ!叩き出してございます!」
ヤッてやったぜ!みたいな良い笑顔だ。少年みたいな声なのに、矢鱈攻撃的だよね。君は。
閣下は
「マジかよ…」
と、仰った。
「それで閣下、私に何用ですか?」
アガアガ言っている閣下に話を振った。
顎でもはずれたのか?
「くのッ!……話がある、シノンの事だ。お前は300年ぶりのローレリアのシノンである。叙爵の為、王都より王女殿下をご招待せねばならん。知っていると思うが、シノンは神より賜ったもの。清らかな乙女からしか叙爵を受けられんからな」
そーなのかー。どうでもいいが閣下、深呼吸をしてごらん?額に血管が浮いとる。死んじゃうぞ?
「私が王都に参りましょうか?」
ミューゼにとってはその方が安全だろう。
「お前の様な男を王城にやれるかッ!辺り構わず噛みつく姿しか目に浮かばんっ!しかもミューゼも居なくなるだろ!居なくなるだろう!」
二度言うほど大事な事か。あと、酷い事言うなよ。ぶっこみの不良じゃ無いんだぞ。其処ら中に喧嘩売ってたまるか。数日前から、不運とダンスっちまってるのは事実だがな。鬱になるな。
バンッ!
その時、壊れた扉の左側の扉が開いた。
「ケンヤっ、遅いですよっ」
ミューゼが跳びかかってしがみついた。
隣に居たのか。風呂にでも入ったのかキレイにされとるな。
「姫様!ケンヤ様…すみません」
メイドさんも走り寄ってきた。
「いや、かまわない。話しは終わった所だ」
城塞都市から抜け出すような姫様だ。普通の女性に捕まえろと言う方が無理な話だろ。
10式戦車にラーテが追い付くなど無理な話だ。因みに大きさはラーテの方が四倍近く大きい。凄い。やはり巨大主義は男のロマンがあるな。
「ミューゼ!帰ったか!さあ、膝の上においで」
ちっさな子供じゃないんだぞ。
「うぅっ、私、もう大人ですからっ」
なんとミューゼは振り返り、
座りたそうにチラチラ見ている!
座らせますか?
はい ←
いいえ
「さあ、ケンヤ卿はもう領地に戻るがよい。ダリが何とかしよるわ。たぶん」
凄く投げっぱなしですね。でもいいのかい?
ミューゼは思い出したように眉を吊り上げた
「そうですっ!」
自分でセットした地雷を踏むような真似、しちゃってさ?
「酷いですっ、父様!なんにも無いなんて!酷いっ」
「いや、それは、ケンヤ卿がそれで良いって!」
確かにそうだか、まさか更地を寄越すとは思わなかったな。閣下も受けるとは思わなかっただろうが。
しかし、出るぞ。今!必殺のぉ〜!
「お父様っ嫌いっ!」
閣下の耐性からして爆裂体当たり並みの威力だと推察するが、本日3回目だ。閣下に彼ほどのガッツは期待出来まい。イケメンだからな。
「ミューゼっ、そんなっ、酷い!」
閣下は泣きそうだ。ちょっと気の毒だな。
「ミューゼ様、そんな事言うものではありませんよ。拝領したのは私です。閣下に非はありませんよ?」
さあ、適当にあやまってごらん?
「う〜、父様、ごめんなさい」
「いや、よいのだミューゼ。父は気にしてないぞ」
嘘つきめ。気にしまくってただろうが。
「さて、では私は22番街に戻ります。ミューゼ様はここでおやすみ為さるが………」
あのしつこそうなレイバーンが、このまま引き下がるか?城に残してもミューゼの事だ。フラフラ出歩くだろう。……危険だな。
「さて、ではミューゼ様、22番街に戻りましょうか」
「はいっ、帰りましょっ」
「待って!何故言い直したの?!なんで?!」
閣下のような超絶な親バカに、
貴方の娘は狙われています!キリッ!!
なんて言えるか。大軍を動員して、1月も経たず財政が破綻するわ。
「自分、シノンですから」
これで押しとおる。これしかない。
「では、ごきげんよう。閣下」
「父様、ごきげんよう」
「失礼します!閣下!」
「失礼します。旦那様」
「え……?」
荒れ果てた室内には閣下だけが取り残されたそうな。……酷い話だ。