家が欲しい者達は 2
どういう理屈かは知らないが、室内はピカピカになった。塵一つ落ちていない。
屋根がしっかりしているのは幸運だった。屋根は流石に治せないからな。
後は家具だ。特にベッド。
しかし、金がないな。強盗から強盗した金は焼き菓子に消えた。30個位買ったからな。ちなみにミューゼが20個ほど食べた。
「家具がありませんね。ここは私が手配しましょう」
流石はダリ。君ならやってくれると信じていたよ。
実際問題金がない。ここは借りておこう。
「すまない、ダリ。必ず返すゆえ、今は貸して欲しい」
しっかり頭を下げる。ありがとう。
「いえ!どうか頭を上げてください。借りは私の方が大きい」
こいつイイヤツだな。俺は、いい人なんだけど…と、言われた事があるぞ。鬱になるな。
「失礼します!」
凛とした声が響き渡りミューゼがビクッ!と、飛び上がった。ビビりだなお前。
俺なんか唾が変な所に入ったぜ?
おもむろに咳払いすると、姫様にしがみつかれたまま振り返り、誰何する。
「貴官は何方だろうか!」
喉がヴギュとかなったじゃないか。怒りを籠めて声を張り上げた。
「はっ!ローレリア第二大隊第一伝令隊104小隊所属のトム2等兵長であります!ケンヤ中将閣下でありましょうか!」
「いかにも、私がケンヤである!何用だろうか!」
「アルバース大将閣下がお呼びであります!急ぎ参じよとのご指示です!馬車をご用意して参りました!」
「委細承知した。すぐに立つ。馬車で待機せよ」
「はっ!」
兵長は素直に出て行った。やさぐれた兵長じゃなくて良かった…。
ミューゼを城に帰さなくてはならないし、丁度いい。どのみち閣下の目的はミューゼだ。間違いない。
しかし、中将か。大将である閣下の次、たしかに最高位の軍権だ。物凄く偉くなった気分がするな。若い頃、ゲームでは100万の軍を手足のように扱ったがはたして…。
いやいや、はたして…。じゃない。指揮など出来るわけない。阿呆か。
「ダリ、俺は城に向かう。すまないが後は任せる。ミューゼ様も参りましょう」
「はいっ、一緒にいきましょっ」
ダリは予想どうりだと言わんばかりの態度で言う。
「ええ、任せてください」
大変だね?君も。
「この角を左であります」
黙々と城内を歩く。
「先の階段を登ります」
案内がついていて、見渡す余裕もない。とてつもなくでかい城なのは判るが…。
「このまま直進であります」
自由が全くないな。窮屈極まりない。ミューゼを見ると、普通な顔で歩いている。
こういう所を見ると、高位の姫様だと感じるな。たしかな気品がある。素直に凄いなと思った。
「む、道を開けられよ。ミューゼ姫ならびに中将閣下のお通りであります」
物思いに耽っていると前に恰幅のいい人物が見えた。どうみても使用人に絡んでいる。と、言うか、メイドがいる。日本では一部地域にしか存在しないメイドである。特殊施設でも料金を払えば観れるが、はたして…。
いやいやいや、違う違う。この世界ならちゃんとした職業だろ。いや、日本のメイドもちゃんとした職業だが。ちょっとけしからん要素が混じる可能性があるだけで…いえ、健全な方が多いか否か。何を言ってるんだろうね?私は?
「ほっほう、貴女方が姫!中将!」
太っちょは俺たちをジロジロと見た。
「貴殿が何者かは知らぬ。だが、婦女の手を断りもなく掴むなど。我がローレリアでは紳士の行いではないな。離してもらおう。貴女は此方へ。ミューゼ様の側に」
基本、おさわりは厳禁。ルール違反だぜ?
赦される事ではない。
メイドさんは半泣きで此方に駆け寄って、俺の後ろに隠れた。
「ふん。私が誰か知らんのか?」
知っとる訳なかろう。今日ここに来たばかりだ。
「教えてやろう。隣領、レイバーン伯爵閣下の使い。ポエリー男爵っ!だ!」
遣いっぱしりの下っぱじゃん?違うの?
俺、中将で侯爵よ?日本で言えば、他社の副社長や専務に係長レベルが生意気言ってるようなもんだろ。大変な事になるよ?社会的に抹殺されるわ。勇者かお前は。
「驚いて声もでんか?んっ?」
はい、ある意味とてもビックリしました。
「…それで、サー・ポエリーは何用で此方に?」
「決まっておる!いきなり大部隊を展開し、領境を騒がせた!その抗議きたのだ!」
主張はとてもまともだったな。
「しかし、貴殿の格好!泥まみれに薄汚い鎧!みすぼらしい剣!なんとまあ立派な将軍様だ!」
ファファファハハと嘲笑うサー・ポエリー!おのれっ!震えながら立ち上がるトム!
負けるなトム!世界の平和は兵長にかかっているぞ!
「ケンヤを悪く言わないでっ!」
見事な魔王笑いに創作意欲を刺激されていると、ミューゼが怒り心頭になっていた。
えぇ?!そんな事で噛みつくなよ。面倒だろうが。
もう行こうぜ。閣下も待っているだろうし。
トム兵長を見ると、今にも剣を抜いて跳び掛かりそうだった!
「言わせておけば!無礼ではないか!!」
「よせ!下がれ!兵長!」
「しかし!……くっ!」
焦った。ほのぼの暢気さんがお前らの国民性だろ。何をそんなに怒ってるのか。
「ふ、ふん。上に立つものが下品だとこういう兵になる。姫からして、作法も出来ておらんではないか」
ポエリーはふるふると震えながら宣った。
恐かったんならもう止めとけと言いたい。
「そのような汚れた服を着た姫などおらぬわ。喋り方も幼子のよう。ローレリアも先が知れると言うものよ」
「うぅっ、私、私……ぐしゅっ」
ミューゼはうつ向いて泣き出しそうだ。
煽り耐性無さそうだもんなお前は。
……ふん、なんか腹立つな。ポエリーの喋り方が凄く癇に触る。
「おい、黙れお前」
不意に口をついた言葉。
「んなっ!お前だと?失礼ではないか!」
知るか。お前の存在が不愉快なんだよ。
「やはり、姫がこれではなぁ!しょせ」
「黙れ!オラァッ!」
ゴッ!と言う鈍い音がし、ポエリーは吹っ飛んで後方の立派な扉をぶち破った。
「ミューゼ様の侮辱は赦さん!たとえそれが神であろうとも!どうしても言いたければこの私を打ち倒すがいい!だが、覚悟せよ!シノンである私はたとえ首をはねられようとも!貴様の首に食らいつくだろう!」
ヤバいと思った俺は、良いことを言ってうやむやにする事にした。