家が欲しい者達は
街の中に入った俺達は正確に区分けされたであろう街路を、目的地に向かって歩いていた。
目に入る路や街並みは機能的で美しく、都市計画がしっかり計算されている事を示した。
「凄いな…。綺麗な街だ」
思わず呟いた俺にミューゼが激しく反応した。
「綺麗でしょう?私もローレリアが好きですっ。綺麗で穏やかなこの街が大好きですっ!」
なるほど、よしよしいい子だ。取り敢えず姫様は焼き菓子を落とすんじゃないぞ?
興奮しだしたミューゼの頭を一瞬撫で落ち着かす。
クスリと笑ったダリが
「この都市は閣下が公爵位を次ぐ前から構想し、造り直したんですよ」
自らの主を自慢するように言った。
ほうほう、閣下は内政特化タイプか。…軍才は無いだろうな。全軍だもんな。普通に考えてあり得ない。防衛ができなくなるし、兵站が維持できまい。アメリカでもそんな事したら破綻するわ。1日で戻ってよかったな。
しかし、内政手腕は誇るだけある。はっきり言って盧粛並みだな。統率力はあるみたいだし。
やっつけ仕事のように領地を与える姿からは想像出来ないが、優れた領主みたいだな。
……姫様がほてほて歩いているのに、街の反応は普通だな。屋台の店主も当たり前のように対応してたし。
行方不明だった事は知らされていないようだ。……あれだけ軍隊を動員してたのにこの穏やかさ。これが民度と言うやつか。
暢気すぎるだろう。
いや、日本もそんなものか?将軍MISSILEが飛んで来ようが通常営業だしな。
「…この角を曲がった所ですよ…」
ダリが小さい声で呟いた。
元気ないね?疲れたのか?俺も疲れた。
そこには荒れた地面と、掘っ立て小屋が一つ建っていた。
いわゆる、建設予定地のようだ。
呆然とするミューゼ。
そうかそれで、え?いいの?みたいな顔をしたのか。
「ケンヤ卿、ここは一旦私の屋敷に。少し休みませんか?」
なんか言い回しが嫌だよ。そういうセリフは飲み会の後に面食いの女子にでも言いなさい。
俺は小屋に近づいて、おもむろに扉を開いた。
ちょっと壁が半分程崩れ、雨ざらしなだけだ。きっと何とかなるよ。きっと。
外を見渡すと板切れや棒切れ、割れたブロックなどが散乱している。
無言で壁の崩れた部分を片付ける。
「ケンヤ卿?」
「ケンヤぁ」
訝しげなダリと半泣きの姫様。
取り敢えず放置だ。今ちょっと忙しい。
壁のない部分の地面に棒切れを挿し、板を噛ませると壁らしきものが出来た。
「ミューゼ様、ここに水を出せますか?」
壁の近くの地面を指して問うた。腕捲りも忘れない。
「だっ出せますっ!水の聖霊様っ」
地面にバケツ一杯程の水が撒かれた。
「ケンヤ卿、一体?」
俺は板切れで地面を掘り返すと手で土を捏ねる。…捏ねる。……捏ねる。
そして捏ねた土を壁に塗りつけていく。
よし、修理出来た事にしよう。
もういいだろそれで。
「ここに住むおつもりですか!?」
今、気づいたのか?
「ケンヤ、私も手伝うわっ!大地の聖霊さん、お願い」
ミューゼがお願いすると塗りつけた土が石のように固まって、壁になった。
凄いな聖霊さん。便利すぎる。
「では、中を片付けよう」
扉を開け放ち小屋の中に入ると奥にベッド、入り口右手に釜…調理台があり、真ん中に机があった。埃が凄いな…。
これも聖霊に頼めば何とかならんか?
「風の聖霊よ、一帯の塵をはらいたまえ!」
「…」
「……」
なんてね。当然無理だよな。
「ミューゼ様、今のようにお願いします」
口を開けて突っ立っていたミューゼにやってもらう。
「ふぁっ!わ、わかったわっ。風の聖霊よ、一帯の塵をはらいたまえ!」
一瞬、竜巻が室内を撫でたあと、埃だけが開け放たれた扉から飛び去った。
凄いな…聖霊…最強だな!
「流石はミューゼ様!そのお力に感服する他ありません!!」
「えへへ、そんな事ないですぅよぉっ!」
くねくねと謎の動きをするミューゼ。便利な姫様だな。一家に一台あったらいいのに。
「あ、あはは…」
ダリはにが笑いを隠さずいた。