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ニィカ!  作者: 稲見晶
第四章 武の大国ドルジャッド
84/115

84. 王

 ドルジャッドの城でニィカがはじめに見たものは、緑の庭だった。

 きれいに刈りこまれた植え込み。水の音と鳥の声。茂みのあちらこちらに立つ彫像も馬の上からなら見つけられた。

 脇にそれようとする黒馬をなだめながら、兵士たちは中央の広い道を進んだ。途中、ガラスをふんだんに使ったこぢんまりとした建物があった。


 城の玄関扉は大きく口を開けていた。ニィカは兵士の手を借りて馬を下りた。

「此方へ」

 導かれ、薄暗い城内へむかう。リヒティアの騎士たちはもうついてきてはいなかった。


 ドルジャッドの王は白いものの交じるひげをたくわえていた。ニィカはその前に進み出て頭を垂れた。

「はじめまして、ドルジャッド国王様」

 兵士たちはニィカの後ろで直立している。

「ドルジャッド、はいらぬ」

 ゆったりとした声にニィカは目をぱちくりさせた。慈愛さえ感じさせるその響きは、これまでに想像していたようすとはまったく違っていた。

 ドルジャッド王は低く豊かな声でつづけた。

「余はいずれ天下を統べる。遍き太陽の威光の地に、余の他に王は存在せぬ」

 ニィカはリヒティアの国王を思い浮かべたものの、「……はい、王様」と返事をした。目の前の王は満足そうにあごひげをなでた。

「恩寵の御子よ。そちの力添えを期待しておるぞ」

 言いようのない胸のつかえを感じながらも、ニィカは一度だけうなずいた。


「……とは言え」

 ドルジャッド王はふと片ほおで笑んだ。

「年端も行かぬ子供を戦へ同行させる心算はない。リヒティアを離れて早々に此処へ仕えよというのも酷であろう」

 ニィカはほっと息をついた。

「懇ろに世話をさせる。所望があらば告げるがよい」

「はい、王様」と応えて、ニィカはつづけた。

「それなら、みんなに会いたいです。イセファーからここに連れてこられてるって聞きました」

「それはできぬ」

 落ち着きはらった姿をくずさずにドルジャッド王は答えた。


 動揺に開いたニィカの口からのことばを待たずに告げる。

「御子よ、案ずるな。彼の者らは既にリヒティアに渡しておる。直に出発となろう」

「はい……」

 うつむいたニィカの頭に声がかけられる。

「そちが希望するならば、出立を見送らせてやってもよい。如何だ」

「はい!」

 ニィカはぱっと顔を上げた。

 ドルジャッド王はまた軽く笑った。

「ならば早速案内させる。よいな」

 ニィカの背後で「はっ」と短く返答があった。

「行くがよい。余はそちを歓待する」

 ぺこりと頭を下げて、ニィカはあとずさった。背後の兵士がぶつからないようにすり足でわきによけた。

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