77. 代弁者
アーロスは「えーっと……」と円卓を見回し、固唾をのむエウスを聞き手に定めた。
「ケルーノも、おまえとだいたいおんなじこと言ってる。ニィカをあっちに行かせるって」
あまり友好的ではない目つきがアーロスに浴びせられた。
「そりゃ、おまえたちはそうだろうよ」とヘイクは露骨に嘲った。
この少年とやや接点のあったギュミルでさえ、その薄情さに知らず知らずの失望を覚えていた。
ニィカは自分の手をかたく握りしめ、アーロスやケルーノを見ずにうなずいた。
ケルーノの手がアーロスの袖を引く。「なんだよ?」と振りかえった少年に、ケルーノは再び耳打ちした。
「……なら、自分で言えよ」
頑なにいやがるケルーノに眉を寄せる。しばらく小声で言い争い、アーロスはふたたび騎士たちに顔をむけた。
「えっとな、ニィカがとりあえずあっちに行く。で、帰ってくる。ならいいだろ?」
あっさりと告げられ、面々はその意図を探ろうと戸惑った。
「ニィカが一回あっちに行けば、やつらも油断するんじゃねえかって。そしたら取り戻せる」
「そりゃいいな。方法は考えてんのか?」
面白がるようにベッゲイが訊いた。アーロスはニッと歯を見せてうなずいた。不敵な笑みだった。
「あったりまえだろ! えーっと……、こまかいことは忘れちまったけど、うん、オレたちが、なんとかする!」
胸を張ってアーロスは言い切ったものの、反応は一様に不安げだった。
「それは……、お前たちがドルジャッドへ潜入する、ということか?」
エウスがアーロスとケルーノを交互に見る。
「センニュー?」
ぽかんとされて、エウスは言葉に詰まった。国王はケルーノを呼んだ。
「案を提示したことは褒めてつかわそう。いつまでもこの少年を代理に立てていては埒があかぬ。ここからはそなたが直接説明をせよ。よいな」
せき払いのような音がのどから聞こえた。
「……ボクがなに言っても、怒らない?」
重々しく国王はうなずいた。
「約束しよう。……平静を保つ自信のない者は、退席せよ。話が済めば呼び戻す」
ガタガタと椅子を引く音が生まれた。真っ先に立ち上がったのはヘイクだった。聞こえよがしの舌打ちを残す。
「よくおっかねえ顔だって言われっからな。俺もいねえほうが話しやすいだろ」
ベッゲイは軽い調子で去った。
「……陛下、私も席を外してよろしいでしょうか」
大臣の言は認められた。彼はケルーノを見ないようにして部屋を出た。
わずかの間考えて、ギュミルも退席することにした。
「おまえも行くのか?」
意外そうなエウスの声。「ああ」と肩をすくめた。
平静を保つ保たないは別として、一度外の空気を吸いたかった。