53. 古道具屋
小さな建物がひしめきあう一画にその店はあった。細いとびらを開けて入ると、カウンターまでの道を指し示すかのように棚や荷物が秩序のあるようなないような顔を見せてぎゅうぎゅうに押し並べられている。
ただでさえとなりの建物と隙間なく建ち並んでいるのにくわえて、窓はひしめく物品ですっかりふさがれている。ニィカは床のものにつま先をぶつけないよう、何度も目をつぶっては開いて暗さに慣れないといけなかった。
マルシャとふたりで横にならべる幅さえなくて、ニィカはマルシャの後ろについて歩いた。
カウンターの前にはかろうじて広く空間がつくられていた。ただ、近づいても人の気配はない。ニィカは一歩踏みだしてマルシャの右側に立った。
「……だれもいないの?」
なんとなく小声になった。
「奥にいるんだと思う」
マルシャはカウンターに手をついて「ごめんくださーい」と呼びかける。
しばらくはしんとしたままだったが、やがて奥のほうからカツン、カツンと固い音が近づいてきた。
ずいぶんと小柄な人影。じっと見ているうちに、背中が曲がり杖をついた老人だとわかった。
「……ああ、ケルーノのとこの子かい」
よいせ、とカウンターのむこうにあったらしい椅子に腰かける。
「最近はずっとやんちゃボウズが来とるでの。おう、おっきくなったのう」
老爺はこくりこくりとうなずいた。笑ったようで、奥まった目がしわの中にかくれた。
「そっちは新しい子かね」
「うん」
「……こんにちは」
おずおずとニィカがあいさつすると、「おう、いい子だ」と上機嫌なうなずきが返ってきた。
「きょうはなんだね? おもしろいもんでも見っけたかね」
老爺の目が光る。マルシャは口ごもった。
ニィカは手をひらいて、ずっと握りしめていた青い石を彼に見せた。
「……これ、買ってくれる?」
息を呑む音。しわの奥の目が石からニィカへと移った。
「……もっと近くで見せとくれ。ええかね」
指先がニィカをまねく。ニィカは腕を伸ばしたまま一歩前へ進んだ。
ひび割れたようにも見える、しわとしみだらけの手がニィカの手のひらに近づく。こんなに老いた人を見たことがなくて、ニィカは怖いと感じてしまった。
青い石をかさかさの指先がつまむ。目に近づけては離し、手のひらに乗せて重さをたしかめ、老爺はうなった。
「こりゃ、どこで手に入れたんだね」
真剣な瞳に見据えられてニィカはどきりとした。
「あたしの持ちもの」
「そうかい。……買ったんかね、もらったんかね」
「もらったの。パパとママから」
老爺の首がこくりと動いた。二度、三度と頭が縦にゆれる。聞きとれないほどの小ささでなにかがつぶやかれる。
やがて彼はカウンターの手前端に目を落として動きを止めた。