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ニィカ!  作者: 稲見晶
第二章 塀の町イセファー
52/115

52. 拾うもの、売るもの

 ふたりは手をつないで修道院のとびらを開けた。日光と活気が迫る。

「どこに行くの?」

「まずは路地裏とかでなにか拾って……」

「なにかって? 食べもの?」

 大まじめに聞いたニィカに、マルシャが吹き出した。

「ちがうちがう。なにか売れそうなもの。使えるものとか、きれいながらくたとか」

 ニィカはとんちんかんなことを言っていたのがはずかしくなって「……わかった」と小声で応えた。

「壊れた道具とか、動物の骨なんかでもだいじょうぶだから」

 こくりとうなずいてさっそく道ばたに目を落とす。風が吹くとばさばさと砂が舞い上げられて、思わず息がつまった。


「ニィカ、ほら、こんなの」

 マルシャが見せたのは、色あせた陶器のかけらだった。

「これが?」

 ゴミにしか見えなくて眉を寄せる。

「うん。いろいろくっつけて、新しいお皿とか作れるんだって」

「……そうなんだ」

「これひとつなら買ってもらえないけど、いっぱい集めればパン一切れくらいにはなるから」


 ニィカは「うん」とごみごみした路上に身をかがめる。編んだ髪がたれて視界の端でゆれた。じゃまな髪を後ろにはらいのけようとして、はっと手が止まる。

 マルシャはしゃがみ、地面に手をついてこまごまとかけらを拾っている。ニィカは深呼吸を二回する間、考えた。そして決めた。

 こくりとつばを飲んでから口を開く。

「ねえ、マルシャ」

「うん、なにか見つけた?」

 マルシャがスカートの上に集めたかけらをこぼさないように、ゆっくりとニィカへと体をむける。

 ニィカは巻いていたバンドをはらりとはずした。

「これ、売れない?」


 マルシャはまるで毒蛇を見るような目で、ニィカの手の中にある青い石のバンドを見ていた。そしてゆっくりと首をふった。ことばが出てきたのはその後だった。

「だめだよ。それ、大事なものでしょう」

「いまはご飯と、あの人たちに見つからないことのほうが大事だもん」

「でも、それ――」

 マルシャの反対を聞かずに、ニィカはバンドの端にかじりついた。そのまま歯でぐいぐいと結び目をゆるめていく。

「ニィカ!?」

 ガチャガチャッと陶器が地面に落ちる。マルシャがニィカの腕をつかんだときには、もう結び目はほどけかけていた。

 編みこまれていた石のひとつが地面に転がった。悲痛とよぶのがぴったりのマルシャの表情とは裏腹に、ニィカは迷いなく笑んでいた。

「マルシャ。この石ひとつならいいでしょ?」

 青い石は砂埃のなかに圧倒的な存在感で光る。ニィカはひょいとそれを拾い、「売れるかなあ」と無邪気に首をかしげた。


 なおもしぶるマルシャにたいして、ニィカはほとんどわがままな頑固さで押し通した。

「ねえ……。ほんとうにいいの?」

「ひとつくらいなくなってもほとんど変わらないもん。これだってそのうち編み直せるし」

 マルシャはニィカの手の中の石を見下ろして、うなだれるようにうなずいた。

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