52. 拾うもの、売るもの
ふたりは手をつないで修道院のとびらを開けた。日光と活気が迫る。
「どこに行くの?」
「まずは路地裏とかでなにか拾って……」
「なにかって? 食べもの?」
大まじめに聞いたニィカに、マルシャが吹き出した。
「ちがうちがう。なにか売れそうなもの。使えるものとか、きれいながらくたとか」
ニィカはとんちんかんなことを言っていたのがはずかしくなって「……わかった」と小声で応えた。
「壊れた道具とか、動物の骨なんかでもだいじょうぶだから」
こくりとうなずいてさっそく道ばたに目を落とす。風が吹くとばさばさと砂が舞い上げられて、思わず息がつまった。
「ニィカ、ほら、こんなの」
マルシャが見せたのは、色あせた陶器のかけらだった。
「これが?」
ゴミにしか見えなくて眉を寄せる。
「うん。いろいろくっつけて、新しいお皿とか作れるんだって」
「……そうなんだ」
「これひとつなら買ってもらえないけど、いっぱい集めればパン一切れくらいにはなるから」
ニィカは「うん」とごみごみした路上に身をかがめる。編んだ髪がたれて視界の端でゆれた。じゃまな髪を後ろにはらいのけようとして、はっと手が止まる。
マルシャはしゃがみ、地面に手をついてこまごまとかけらを拾っている。ニィカは深呼吸を二回する間、考えた。そして決めた。
こくりとつばを飲んでから口を開く。
「ねえ、マルシャ」
「うん、なにか見つけた?」
マルシャがスカートの上に集めたかけらをこぼさないように、ゆっくりとニィカへと体をむける。
ニィカは巻いていたバンドをはらりとはずした。
「これ、売れない?」
マルシャはまるで毒蛇を見るような目で、ニィカの手の中にある青い石のバンドを見ていた。そしてゆっくりと首をふった。ことばが出てきたのはその後だった。
「だめだよ。それ、大事なものでしょう」
「いまはご飯と、あの人たちに見つからないことのほうが大事だもん」
「でも、それ――」
マルシャの反対を聞かずに、ニィカはバンドの端にかじりついた。そのまま歯でぐいぐいと結び目をゆるめていく。
「ニィカ!?」
ガチャガチャッと陶器が地面に落ちる。マルシャがニィカの腕をつかんだときには、もう結び目はほどけかけていた。
編みこまれていた石のひとつが地面に転がった。悲痛とよぶのがぴったりのマルシャの表情とは裏腹に、ニィカは迷いなく笑んでいた。
「マルシャ。この石ひとつならいいでしょ?」
青い石は砂埃のなかに圧倒的な存在感で光る。ニィカはひょいとそれを拾い、「売れるかなあ」と無邪気に首をかしげた。
なおもしぶるマルシャにたいして、ニィカはほとんどわがままな頑固さで押し通した。
「ねえ……。ほんとうにいいの?」
「ひとつくらいなくなってもほとんど変わらないもん。これだってそのうち編み直せるし」
マルシャはニィカの手の中の石を見下ろして、うなだれるようにうなずいた。