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ニィカ!  作者: 稲見晶
第二章 塀の町イセファー
49/115

49. 暗い道

 手さぐりで闇のなかを進む。外の音は聞こえない。わかるのは自分とマルシャの動く音だけ。


 今はどこまで来てるんだろう。どこまで進めばいいんだろう。首だけでふりかえっても、来た道はおろか、後ろにいるはずのマルシャも見えない。


 すこし上がった息を背中に聞く。

 ほんとうに、後ろにいるのはマルシャだよね。別のなにか……、追いかけてきたあの怖いおとなとか、おばけとか、そういうものがすり替わっていたりはしないよね。

 どっどっと心臓が早鐘を打つ。

 もし違ったらどうしよう。ひとりぼっちで、こんな、自分の手も見えないような暗闇で。


 つばを飲みこみ、勇気をふりしぼった。

「マ、マルシャ……」

 聞こえた自分の声は、今にも泣きそうでたよりなかった。

「だいじょうぶ? もうちょっとだから」

 答えたのは、すこしだけ年上の女の子のささやき。

「う、うん」

 安心して返事がすこし鼻声になってしまった。


 小声で話しているうちに、前にのばした手がごつんとなにかにぶつかった。手のひらで探り、ざらざらした壁みたいだと見当をつける。

 右に左に腕を動かしても、進めそうな道はない。

「マルシャ、行き止まりになっちゃった……」

 数歩分の足音。どんっと背中にぶつかるもの。

「ごめん、ニィカ」

 すぐ近くでマルシャが言った。一歩下がったその体に手を伸ばして、服のどこかをにぎる。さわると体温があって、マルシャがちゃんといるという実感がもてた。

「ちょっと待って……。あ、あった、ここ」

 温かい手がニィカの手を上に導く。天井に、少しつるっとした木の手触りが感じられた。

「思いっきり上に押せば開くから。せーの、で押すね。いい?」

「うん」

「……、せー、の!」

 がたん、がたん、と頭上の板がはずれた。ぽっかりと空間ができて、心なしかすっきりした風が感じられる。


「のぼれそう?」

 出口はニィカの背よりわずかに高い。

「やってみる」

 穴のふちに両手をかける。

「ふんっ!」とはずみをつけてジャンプし、胸から上を穴のそとにべったりと付けた。

 そこからもがき、腕の力で這いのぼる。途中、マルシャが足を持ち上げて押してくれた。


 次いでマルシャも同じように跳びあがる。こんどはニィカがマルシャを引っぱり上げて手伝った。

「ありがと、ニィカ」

 ようやく辺りを見渡す余裕が生まれる。やっぱりほとんど真っ暗ではあったけれど、屋内ということはかろうじてわかった。

「ここ、どこ?」

「わかんない。だれもいないし、家にもお店にも見えないし。でも、隠れるにはなかなかいいところだから、きっと」


 それからふたりは抜け道をもとのように板でふさぎ、自分たちの体が重しになるようにその上に身を横たえて、ぴたりとくっついて眠った。

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