49. 暗い道
手さぐりで闇のなかを進む。外の音は聞こえない。わかるのは自分とマルシャの動く音だけ。
今はどこまで来てるんだろう。どこまで進めばいいんだろう。首だけでふりかえっても、来た道はおろか、後ろにいるはずのマルシャも見えない。
すこし上がった息を背中に聞く。
ほんとうに、後ろにいるのはマルシャだよね。別のなにか……、追いかけてきたあの怖いおとなとか、おばけとか、そういうものがすり替わっていたりはしないよね。
どっどっと心臓が早鐘を打つ。
もし違ったらどうしよう。ひとりぼっちで、こんな、自分の手も見えないような暗闇で。
つばを飲みこみ、勇気をふりしぼった。
「マ、マルシャ……」
聞こえた自分の声は、今にも泣きそうでたよりなかった。
「だいじょうぶ? もうちょっとだから」
答えたのは、すこしだけ年上の女の子のささやき。
「う、うん」
安心して返事がすこし鼻声になってしまった。
小声で話しているうちに、前にのばした手がごつんとなにかにぶつかった。手のひらで探り、ざらざらした壁みたいだと見当をつける。
右に左に腕を動かしても、進めそうな道はない。
「マルシャ、行き止まりになっちゃった……」
数歩分の足音。どんっと背中にぶつかるもの。
「ごめん、ニィカ」
すぐ近くでマルシャが言った。一歩下がったその体に手を伸ばして、服のどこかをにぎる。さわると体温があって、マルシャがちゃんといるという実感がもてた。
「ちょっと待って……。あ、あった、ここ」
温かい手がニィカの手を上に導く。天井に、少しつるっとした木の手触りが感じられた。
「思いっきり上に押せば開くから。せーの、で押すね。いい?」
「うん」
「……、せー、の!」
がたん、がたん、と頭上の板がはずれた。ぽっかりと空間ができて、心なしかすっきりした風が感じられる。
「のぼれそう?」
出口はニィカの背よりわずかに高い。
「やってみる」
穴のふちに両手をかける。
「ふんっ!」とはずみをつけてジャンプし、胸から上を穴のそとにべったりと付けた。
そこからもがき、腕の力で這いのぼる。途中、マルシャが足を持ち上げて押してくれた。
次いでマルシャも同じように跳びあがる。こんどはニィカがマルシャを引っぱり上げて手伝った。
「ありがと、ニィカ」
ようやく辺りを見渡す余裕が生まれる。やっぱりほとんど真っ暗ではあったけれど、屋内ということはかろうじてわかった。
「ここ、どこ?」
「わかんない。だれもいないし、家にもお店にも見えないし。でも、隠れるにはなかなかいいところだから、きっと」
それからふたりは抜け道をもとのように板でふさぎ、自分たちの体が重しになるようにその上に身を横たえて、ぴたりとくっついて眠った。