47. 直向
ケルーノもアーロスも、しばらく返答を見つけられなかった。ニィカの目に不安が増し、とうとうなみだになってあふれた。
「ニ、ニィカ!?」
アーロスがあたふたと袋を地面に下ろす。
「だいじょうぶ、ニィカはなにも悪くないよ」
ニィカは泣き声を押し殺して首を振る。
「だって、あたしのせいで、やなことばっかりで……。スイだって……」
ケルーノの指先がニィカの頭をなでようとする。さわられたくなくて、一歩後ずさった。
しゃくりあげるニィカを見るのが居心地悪く、アーロスはとんとんとつま先で地面をたたく。それから意を決して「ん!」と気合いを入れた。
「泣くな!」
ニィカがびくっと身じろぎした。目をこすり、歯を食いしばって必死に涙を止めようとする。
アーロスはニィカの両肩に手を置いて力をこめる。ニィカがいまだ視線を落としたままなのにもかまわず、強い口調で告げた。
「おまえを連れてきたのは、オレだろ。だから、おまえのせいのことは、オレのせいにもなるんだよ」
ニィカがぐすぐすと鼻を鳴らしながらむずかるように首をふる。アーロスは力をゆるめなかった。
「ちがうって言われてもそうなんだよ。で、そうすっとオレがこまるし、えっと、ああもう、わかんねえ! とにかく、オレは気にしないからおまえも気にするな!」
「いいな!」と恫喝にも見える気迫でニィカの肩を揺さぶる。ニィカはがくがくと振れる体に目を白黒させながらもアーロスを見た。
目が合い、アーロスが揺さぶりを止める。
「……な!」と真剣な面持ちでアーロスは念を押した。
「……うん」
ようやく小さなうなずきが返る。
「約束だぞ」と怖い顔をひとつ捺して、アーロスは手を離した。
「それじゃ、ボクたちは行ってくるね。たぶんだいじょうぶだと思うけど、キミたちも気をつけて」
「うん、いってらっしゃい」
ケルーノとアーロスを見送り、ニィカは女の子の部屋に入る。
とびらの開く音にマルシャが手元から顔を上げ、ほほえみかけた。
ビビもニィカを見つけ、その目が赤くなっていることに気づいてがばっと立ちあがった。
「ニィカ、だいじょうぶ? アーロスに泣かされたの?」
今にも怒りだしそうな剣幕で尋ねる。
「ううん、なんでもない。だいじょうぶ」
まばたきをして涙ののこる目を袖でこする。
「ホントに?」
ビビはぐいっとニィカに顔をよせる。ニィカがこくりとうなずくと、納得のいかない顔をくずさないながらもビビは自分のいすに座りなおした。
ニィカはふうっとため息をつき、空いているいすを見つけて腰かける。
心配かけないように、気にしないようにしなくっちゃ。そう自分に言い聞かせてから針に糸を通す。
ほつれた袖をつくろい、ぼろからつぎを取る。手慣れた作業をこなすうちにいつの間にか無心になっていた。