46. 不安
一夜が明けても、トイゴイは見つからなかった。
ケルーノは仮面で目元を覆ったまま大きなテーブルのはしに座っている。
「トイゴイにいちゃんは?」
サラがケルーノのひざに手をかけて訊く。
「……まだ、見つからないんだ」
どこ行っちゃったんだろうね、と口元にわずかな笑みを作ろうとする。
「なんでいないの?」
無邪気に質問を続けようとするサラを、マルシャが抱きあげた。
「ほら、きょうの朝ごはんはサラの好きなりんごのおかゆだよ」
「りんご!」
「ね、いっぱい食べようね」
そう話しかけながらケルーノから離れたイスに座らせる。ケルーノは首をうなだれさせて、子供たちから顔をそむけるようにため息をついた。
うすく甘味がついたおかゆで子供たちのおなかが満たされ、鍋が空になったところで「みんな」とケルーノが声を張る。
ぴたりと部屋がしずまり、視線が仮面へと集まる。
「……きょう外に行くのはだれ?」
ぱらぱらと手があがる。アーロスは小さく指先を上げ、クスートの顔をうかがった。
「ひとりにならないように気をつけて。あと、よそものが来たら見つからないように逃げるんだよ」
「わかった」と口々にこたえる声。
「それじゃアーロス、今日はボクといっしょに来てくれる?」
「オレ?」
アーロスが自分を指して目をまるくする。
「ボク、知らないおとなキライだもん。なにかあったらかわりに話してよ」
「オレだってやだよ」
くちびるをとがらせるケルーノに、しかめっ面をするアーロス。
「それならきょうは家のなかで、一日ずっとおそうじする?」
マルシャがからかう口調でたずねる。
アーロスは眉間にますますしわを寄せてから、「……わかったよ、ケルーノと行くよ」と言い捨てた。
「頼りにしてるよ」
声音を軽くしたケルーノに、「……しょうがねえなあ」とアーロスは小鼻をふくらませた。
子供たちのそれぞれが男の子の部屋や女の子の部屋にはいる。ニィカはケルーノの部屋のまえで、彼が出てくるのを待っていた。
バタンと扉のひらく音。すがたを確認する前に「ケルーノ」と呼びかけていた。
「……なんだよ」
「……ごめん」
袋をかかえて出てきたのはアーロスだった。
「あれ、どうしたの?」
すこし遅れて、ケルーノが現れる。
「えっと……」
口ごもり、アーロスを気にするニィカ。
「オレ、いないほうがいいか?」
そのことばは首を振って否定した。その勢いのまま、思い切って顔を上げて言う。
「ねえ、トイゴイがいなくなったの、あたしのせいだったらどうしよう」