45. ひとり
ニィカは昨日と同じく、ほつれた衣服をつくろいにかかる。アーロスとビビは小さな子をつれて洗濯に行ったようだった。
さっきの真剣な声音に、話しかけるのをすこしためらったものの、マルシャが「アーロス、水をはねさせてタラを泣かせてないといいけど」と他愛もない話で笑いかけてくれたおかげで気分が楽になった。
だんだんとわかってきた、ここにいるみんなについてあれこれと話をする。
それから、今朝ケルーノと話してから、ずっと気になっていたことも。
「ねえ、ケルーノってうそつくとわかるって、ほんと?」
マルシャはぷつんと糸を噛み切ってから答えた。
「ほんと。たまに試してみるんだけど、なんでかバレちゃうの」
「そうなんだ……」
「子どものウソしかわからないみたいだけどね」
「こどもだけ?」
「そう」とマルシャはうなずく。
「おとなはわからないの? なんで?」
「知らない。じぶんが子どもっぽいからじゃない?」
マルシャはすこし大人びたしぐさで肩をすくめ、縫い物を再開させた。
日が暮れて、ケルーノと子供たちが帰ってくる。くつくつと煮える鍋が彼らを出迎えた。
「おかえり、みんな。さあ座って」
夕食に手を付けようとしたところで、「あれ、トイゴイは?」と声があがった。ざわりと全員がテーブルを見渡す。
「……帰ってきてないの?」
「外にいたやつら、なにか知らねえ?」
アーロスが問いかける。ネズミ捕りに行っていたバニータとバネンズは顔を寄せて何事かをささやき合う。その後に兄のバネンズが「……ない」とかすれた声で答えた。
「ぼくたちも、トイゴイとは離れてたから……」とクスートが気遣わしげに言う。
地を這うように低くざわめきが立ちこめる。
「ボク、探しにいってくるよ」
ケルーノが派手なそでをひらひらと振って立ちあがる。
「ごはんは食べちゃってていいよ。トイゴイと買い食いしてくるから」と言い置いて、仮面のひもを頭の後ろで結びながら軽い身のこなしで出て行った。
買い食いという言葉に「いいなー」と無邪気な反応がある。どこからかくすりと笑い声がして、張りつめていた空気がゆるんだ。
「……それじゃ、ごはんを食べて待ってようか。早くしないと腹ぺこトイゴイが帰ってくるぞ」
クスートがおどけてみせる。幼いサラとタラ、ルーヴェにジーンは、きゃっきゃと笑いながらシチューを食べだした。
「……トイゴイ、どうしたんだろ」
外に視線をやってニィカはつぶやく。あたしがここにいるせいじゃないといいけど。そこまで考えてうつむいた。
「だいじょうぶ、ケルーノがさがしに行ったんだし」
「そうそう、そのうち戻ってくるさ」
「たまにあるんだよな、ねずみを深追いしすぎていつのまにか夜になってること」
年長の子供たちが顔を見合わせてうんうんとうなずく。なにも心配はいらないとおたがいに確かめるように。