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ニィカ!  作者: 稲見晶
第二章 塀の町イセファー
45/115

45. ひとり

 ニィカは昨日と同じく、ほつれた衣服をつくろいにかかる。アーロスとビビは小さな子をつれて洗濯に行ったようだった。

 さっきの真剣な声音に、話しかけるのをすこしためらったものの、マルシャが「アーロス、水をはねさせてタラを泣かせてないといいけど」と他愛もない話で笑いかけてくれたおかげで気分が楽になった。


 だんだんとわかってきた、ここにいるみんなについてあれこれと話をする。

 それから、今朝ケルーノと話してから、ずっと気になっていたことも。

「ねえ、ケルーノってうそつくとわかるって、ほんと?」

 マルシャはぷつんと糸を噛み切ってから答えた。

「ほんと。たまに試してみるんだけど、なんでかバレちゃうの」

「そうなんだ……」

「子どものウソしかわからないみたいだけどね」

「こどもだけ?」

「そう」とマルシャはうなずく。

「おとなはわからないの? なんで?」

「知らない。じぶんが子どもっぽいからじゃない?」

 マルシャはすこし大人びたしぐさで肩をすくめ、縫い物を再開させた。


 日が暮れて、ケルーノと子供たちが帰ってくる。くつくつと煮える鍋が彼らを出迎えた。

「おかえり、みんな。さあ座って」

 夕食に手を付けようとしたところで、「あれ、トイゴイは?」と声があがった。ざわりと全員がテーブルを見渡す。

「……帰ってきてないの?」

「外にいたやつら、なにか知らねえ?」

 アーロスが問いかける。ネズミ捕りに行っていたバニータとバネンズは顔を寄せて何事かをささやき合う。その後に兄のバネンズが「……ない」とかすれた声で答えた。

「ぼくたちも、トイゴイとは離れてたから……」とクスートが気遣わしげに言う。

 地を這うように低くざわめきが立ちこめる。


「ボク、探しにいってくるよ」

 ケルーノが派手なそでをひらひらと振って立ちあがる。

「ごはんは食べちゃってていいよ。トイゴイと買い食いしてくるから」と言い置いて、仮面のひもを頭の後ろで結びながら軽い身のこなしで出て行った。

 買い食いという言葉に「いいなー」と無邪気な反応がある。どこからかくすりと笑い声がして、張りつめていた空気がゆるんだ。

「……それじゃ、ごはんを食べて待ってようか。早くしないと腹ぺこトイゴイが帰ってくるぞ」

 クスートがおどけてみせる。幼いサラとタラ、ルーヴェにジーンは、きゃっきゃと笑いながらシチューを食べだした。


「……トイゴイ、どうしたんだろ」

 外に視線をやってニィカはつぶやく。あたしがここにいるせいじゃないといいけど。そこまで考えてうつむいた。

「だいじょうぶ、ケルーノがさがしに行ったんだし」

「そうそう、そのうち戻ってくるさ」

「たまにあるんだよな、ねずみを深追いしすぎていつのまにか夜になってること」

 年長の子供たちが顔を見合わせてうんうんとうなずく。なにも心配はいらないとおたがいに確かめるように。

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