43. おるすばん
ふたりで階下に下りる。
子供たちはテーブルのまわりにずらりと集まっていた。
「お待たせ。きょうネズミとりに行くのは?」
ケルーノがテーブルに両手をついて子供たちを見渡す。
「ん、おれ!」
一人の少年が勢いよく手を挙げた。次いで、バニータとバネンズがそろった動きで静かに指先を上げる。
「トイゴイ、バニータ、バネンズか。煙突そうじはあったっけ?」
「まだないよ」と答えたのはクスート。
「じゃ、あとはもの拾いか」
「そう」
仮面の奥でケルーノが考えこむ。
「……わかってると思うけど、ニィカのことはだれに聞かれても話さないこと。ルーヴェ、タイン、ジーンはしばらくおるすばん。マルシャたちの手伝いしてて」
「えー!」と幼い声が不満を表した。
「だってキミたち、ないしょ話できないじゃないか」
「できるもん!」
くすりとさざ波のような笑いが起こった。
クスートがしゃがみこみ、ルーヴェにこう切り出す。
「よーし、じゃあやってみようか、ルーヴェ。ぼくがよそのおとなのふりをするからね、ニィカのことはひみつにするんだよ」
彼は立ちあがり、こほんとせき払いをして、できる限りのけわしい表情と低い声をつくる。
「あ、あー、そこのちびすけ。このあたりでニィカという黒い髪の女の子を見なかったかね」
「言わないよ! ニィカのことはひみつなんだよ!」
元気よく答え、「どうだ!」と言わんばかりに鼻をひくひくさせるルーヴェ。
「……はい、るすばん」
苦笑いとともにクスートはルーヴェの頭にぽんと手を置いた。
「えー、なんでー!?」
なんでなんで、としつこく問い質すルーヴェを、クスートは「じゃあマルシャ、よろしく」と引き渡した。
「え、ダメなのか?」
けげんな顔で大まじめに尋ねるアーロス。クスートはあきれた表情で彼を見つめ、「おまえもるすばんな、アーロス」とだけ言った。
「はあ!?」
彼の肩に手が置かれた。ビビがため息をひとつついてから、教える。
「ニィカのこと知ってるって言うこと自体がまずいの。そんな子なんて聞いたこともないってふりしないと」
アーロスはしばらくそのことばを考え、「なるほど!」とさけんだ。
「とりあえず、今日のところはキミたちはおるすばんだね」
小さな子とひとまとめにされて、アーロスはくちびるをとがらせる。
「さ、お仕事お仕事。きょうは人手もあるし、お洗濯がはかどりそう」
マルシャがさっとその場をまとめる。それを合図にしたように、外に仕事のある子供たちはぱっと外に駆けだしていった。最後にケルーノが「どいて!」と一声かけ、小さなとびらの上に手をかけて、足先からすべるようにズザザッと外へ転げ出た。