40. うそとほんとう
器をきれいにし、子供たちはめいめいに男の子の部屋と女の子の部屋に入っていく。ニィカとケルーノは、はしごを上り、奥へと進んだ。
とびらの手前でニィカの足が止まる。そういえば昨日はここで、マルシャとクスートに驚かされたのだった。
「ん、どうしたの?」
「えっと、ここ、入っちゃいけない部屋って聞いたから」
ケルーノはちょっと笑ってとびらを押し開けた。
「ボクといっしょならだいじょうぶ。あ、でも、置いてあるものにさわっちゃダメだよ」
ちょっとあぶないからね、と軽い口調でつづける。ニィカは半歩後ずさったが、「さあ、入って」とうながされ、おずおずと足を踏み入れた。
中にはものがうずたかく積まれていた。ひとかかえもありそうな人形、色とりどりの布、ぐるぐると巻かれた綱、それに樽のたがのような輪っかや長い棒。ニィカの腕よりも大きな剣を見つけて思わず背中がびくっとしたが、よく見るとそれはおもちゃのようだった。
雑多なものの間を縫うようにケルーノのあとに続く。多くの原色をぶつけあったような彼の格好は、この部屋のなかではふしぎになじんでいた。
「じゃあニィカ、そこにすわって」
ケルーノが示したあたりを見る。しばらく目をぱちぱちさせて、ようやく椅子のかたちがとらえられた。背もたれのない丸椅子で、赤と黄のしま模様の布がかぶせられている。
すこし足がぶらぶらするくらいの高さだった。
ケルーノも同じような椅子に腰をおろす。彼は足の長さをもてあまして、ひざを左右にひろげていた。
「ええっと、まずは、そうだな……。スイが『大きいのがいる』って言ってたんだけど、どういうことかわかる?」
ニィカは目を伏せてくちびるをかんだ。きっと自分の中の「特別なもの」のことだ。けれどもそれを知られたら、また振り回されて、不自由なところに押しこめられてしまうかもしれない。
「……わかんない」
ケルーノの顔を見ずにぼそっと答えた。
「ホントに?」
静かな問いかけがするりとニィカの耳に入りこむ。ニィカは眉をよせて黙りこくった。
「ゴメンね。ボク、キミたちがウソつくとなんとなくわかっちゃうんだ」
とがらせた琥珀色の瞳で「……うそでしょ」と問い質す。
「えー、ホントだよ。信じてくれないなら、あとでみんなに聞いてみてよ」
ケルーノはすねたこどものように椅子の上でからだをゆらした。
「ねえニィカ、スイの言ってた大きいのってなに?」
ニィカが答えを知っていることをうたがわない口調。ニィカのうそに彼が怒っていないことをたしかめて、ニィカはようやく声を発した。
「あのね、パパとママが言ってたの。……あたしの中には『特別なもの』がいるんだって」