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ニィカ!  作者: 稲見晶
第二章 塀の町イセファー
37/115

37. 藁のベッド

 あとかたづけを終え、子供たちは階上の寝室へ駆けていった。

「今日はぼくが窓ぎわで寝る!」

「ヤシトははしっこに行ってよ。寝相悪いんだから」

 ぼふん、とめいめいにベッドに飛びこむ。積み上げた藁に布をかぶせてあるようで、ほこりと黄色っぽいかすが飛び散った。

 ニィカが空いている場所を探そうときょろきょろしていると、服のすそをだれかがひっぱった。

「ニィカねえちゃん、いっしょにねよ」

「うん。えっと……」

 名前を思いだそうと口ごもっていると、上から声がふってきた。

「サラ、今日はボクと寝てくれないの?」

 ケルーノが足を折りたたむようにしゃがみ、サラと目の高さをあわせる。


「ニィカねえちゃんがいい」

「そっか、残念だな。……って、いたたた」

 苦笑するケルーノの髪をうしろから引っぱる子がいた。ケルーノはその手をそっと開かせて振りかえる。

「もう、なんだい、タイン?」

「ジーン、いっしょにねる」

 赤い髪の男の子がタインのうしろに隠れ、はにかんでケルーノを見ている。

「……ああ、ジーンがいっしょに寝てくれるんだね? ありがとう」

 ケルーノの言葉に、赤い髪のジーンはにこりと笑んで彼に近づいた。

「教えてくれて助かったよ、タイン。キミもどう?」

 タインはすこし迷い、照れくさそうな笑いを口元にうかべて「うん」とうなずいた。


 しゃがんだまま首をあげて、ケルーノはニィカに人なつこく目を細めた。

「じゃあおやすみ、ニィカ。あしたになったら色々話を聞かせてくれる?」

 両手をそれぞれジーンとタインに引かれ歩きながらケルーノは問いかける。

「うん」と明るい顔で答えるニィカ。「ニィカねえちゃん」とよばれる声にはっと顔を下げた。


「こっちこっち」

 サラが空いているベッドにニィカを案内する。

 横になると、布の目から飛び出る藁がちくちくと肌をさした。

「あのね、サラはね、マルシャねえちゃんみたいにおりょうりするの」

 顔を近づけて、ひそひそとサラがささやく。

「……そうなんだ」

 じぶんより幼い子にどう接したらよいのかわからず、ニィカはそれだけ答えた。

「うん。みんなおなかいっぱいなるの。それでね、サラね、サラね——」

 だんだんとことばがゆっくりになり、サラはひとつあくびをして眠ってしまった。その小さな手はニィカの服をつかんだまま。

 かすかな息と布ごしに感じる体温がニィカの胸をあたためる。


 目をつぶって意識が沈みそうになったとき、寝る前のお祈りをしないと、と思いだす。ニィカはその心の声をわざと無視した。

 お祈りでサラを起こしてしまったらかわいそうだ。

 それに、ずっとではないかもしれないけれど、ここにいるあいだは、そんな面倒くさいことをせずに自由に暮らせるのだから。

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