37. 藁のベッド
あとかたづけを終え、子供たちは階上の寝室へ駆けていった。
「今日はぼくが窓ぎわで寝る!」
「ヤシトははしっこに行ってよ。寝相悪いんだから」
ぼふん、とめいめいにベッドに飛びこむ。積み上げた藁に布をかぶせてあるようで、ほこりと黄色っぽいかすが飛び散った。
ニィカが空いている場所を探そうときょろきょろしていると、服のすそをだれかがひっぱった。
「ニィカねえちゃん、いっしょにねよ」
「うん。えっと……」
名前を思いだそうと口ごもっていると、上から声がふってきた。
「サラ、今日はボクと寝てくれないの?」
ケルーノが足を折りたたむようにしゃがみ、サラと目の高さをあわせる。
「ニィカねえちゃんがいい」
「そっか、残念だな。……って、いたたた」
苦笑するケルーノの髪をうしろから引っぱる子がいた。ケルーノはその手をそっと開かせて振りかえる。
「もう、なんだい、タイン?」
「ジーン、いっしょにねる」
赤い髪の男の子がタインのうしろに隠れ、はにかんでケルーノを見ている。
「……ああ、ジーンがいっしょに寝てくれるんだね? ありがとう」
ケルーノの言葉に、赤い髪のジーンはにこりと笑んで彼に近づいた。
「教えてくれて助かったよ、タイン。キミもどう?」
タインはすこし迷い、照れくさそうな笑いを口元にうかべて「うん」とうなずいた。
しゃがんだまま首をあげて、ケルーノはニィカに人なつこく目を細めた。
「じゃあおやすみ、ニィカ。あしたになったら色々話を聞かせてくれる?」
両手をそれぞれジーンとタインに引かれ歩きながらケルーノは問いかける。
「うん」と明るい顔で答えるニィカ。「ニィカねえちゃん」とよばれる声にはっと顔を下げた。
「こっちこっち」
サラが空いているベッドにニィカを案内する。
横になると、布の目から飛び出る藁がちくちくと肌をさした。
「あのね、サラはね、マルシャねえちゃんみたいにおりょうりするの」
顔を近づけて、ひそひそとサラがささやく。
「……そうなんだ」
じぶんより幼い子にどう接したらよいのかわからず、ニィカはそれだけ答えた。
「うん。みんなおなかいっぱいなるの。それでね、サラね、サラね——」
だんだんとことばがゆっくりになり、サラはひとつあくびをして眠ってしまった。その小さな手はニィカの服をつかんだまま。
かすかな息と布ごしに感じる体温がニィカの胸をあたためる。
目をつぶって意識が沈みそうになったとき、寝る前のお祈りをしないと、と思いだす。ニィカはその心の声をわざと無視した。
お祈りでサラを起こしてしまったらかわいそうだ。
それに、ずっとではないかもしれないけれど、ここにいるあいだは、そんな面倒くさいことをせずに自由に暮らせるのだから。